見出し画像

「支持層」から見た保守派とリベラル派

 私はこれまで「保守主義」と「自由主義(広義のリベラリズム)」の違いを、その思想面から分類してきたのですが、よく考えたら多くの人は「保守」とか「リベラル」と言う際、細かい思想の違いなど見ません

 なので、一度、どういう「支持層」が保守とリベラルになっていったのか、整理が必要だと思いましたので、簡単に纏めてみます。

そもそもは「近代化」で生活が変化したことがキッカケ

 保守と言うのは簡単に言うと「古き良き伝統を守っていこう!」と言う思想ですし、リベラルと言うのは簡単に言うと「自由を守っていこう!」と言う思想ですから、この両者の源流は昔からありました。それが今みたいに、対立する政治思想として確立したのは、資本主義経済の進展が原因です。

 と言っても難解でしょうから、身近な「生活」を軸に説明しますね。

 近代化以前、多くの人は農家でした。無論、農業だけでなく林業や水産業の人もいましたが、そういう第一次産業が主体の経済だったのです。

 昔から商人や職人はいましたが、社会全体からするとほんの一部。また、商人や職人の顧客の多くは貴族でした。昔の農民は自給自足していたので、そこそこの家具ならば自分たちで作ります。わざわざ町でものを購入する人の多くは貴族階級です。

 つまり、前近代社会の主役は「貴族」と「農民」です。

 ところが、だんだん文明が進歩してくると、商人や職人も大量生産や技術革新によって稼ぐものが出てきました。中には貴族並みに稼ぐ商人や職人も登場します。

 さらに、産業革命によって工場経営者らは大量生産により「安くて大量の製品」を売り出して大儲け。貴族以外の一般民衆も顧客にします。そうすると、農家から工場労働者や起業家に転職する人たちも登場します。

 ヨーロッパの場合、これに拍車をかけたのが絶対王政です。貴族は経済的には商人や職人と言った市民階級の後追いを喰らっていましたが、政治的には絶対権力を持った王様に逆らえない状態が続きます。

 つまり「貴族と農家が主役」のはずが「貴族の力は弱くなる」「農家の数は減っていく」ようになったのが「近代化」の一面なのです。

「保守」グループと「リベラル」グループの始まり

 そうこうしているうちに、どこの国でも「近代化反対!」派「近代化推進!」派とに分裂するようになりました。

 「近代化反対」派になった人たちの多くは「貴族」「伝統宗教」「地主」「自営農民」に「一部の自営業者(ヨーロッパの場合はギルド勢力)」です。

 イギリスで言うと「世襲貴族」「イギリス国教会」「ジェントリー」「ヨーマン」と言った人たちで、彼らは今でもイギリス保守党の支持母体です。

 「近代化推進」派の人たちは「腐敗貴族」「医者」「商業者」「都市部の中間層(市民階級)」です。

 彼らはフランスでは「腐敗した特権階級」と「第三身分」として、フランス革命の主力となりました。(前者は王様を無視して自由に政治をするつもりが、革命の進展で自分たちまで殺されてしまいましたとさ。)

 イギリスの場合は「自由党」を作った人たちで、自由党は英語で「リベラル・パーティー」です。つまり、彼らが「リベラル派」の源流です。

日本の「55年体制」を支えたのも同じ構図

 これは、おおむね日本でも55年体制まで引き継がれていました。

 日本の自民党を支えたのは「旧華族」「神社本庁」「旧財閥」「農協」「JC」「土建屋」「医師会」です。なお、ここで言うJCは女子中学生でも短期大学でもなく日本青年会議所と言う名の中小企業の集合体のことを指します。

 「医師会」以外は、伝統的な保守勢力ばかりです。典型的な「保守政党」です。

 対して、日本社会党の票田になったのは「都市部の中流階級」です。なお、都市部の労働者階級は共産党と公明党の支持母体になりましたが、この両者は自民党と社会党以上に仲が悪いので、却って労働者階級同士の分断を煽ってしまいました。

 なので、日本社会党は労働者階級の政党と言うよりも、中流階級の政党と言う方が正確であると考えます。いずれにせよ「大衆政党」であることには違いありません。

 ちなみに、あまり表には出ませんが、「腐敗貴族」と「医者」の支援も日本社会党は受けています。正確には貴族ではありませんが、日本社会党系の政治家は徳川家と関係が深いです。日本社会党の顧問に尾張徳川家の人間が就任したこともありましたし、近年も旧立憲民主党から徳川将軍家の次期当主が出馬しました。

 別に「旧立憲民主党=旧社会党」では無いのですが、この徳川将軍家の徳川家広氏は「保守系の国民民主党との合流など、許さん!」と言って、最終的に立憲民主党から離党した人間です。徳川将軍家がバリバリのリベラル派で反保守であることは、別に隠されている話でもないので覚えておいてほしいです。

 こういう構図は日本だけでなく、世界中の国々で当て嵌まります。中国の毛沢東やカンボジアのポル・ポトが農村で大虐殺を行ったのも、保守派撲滅のためです。

「新しい保守」とは要するにリベラル派

 さて、こういう従来の保守層の思想を「伝統保守主義」と名付ける人が多いのですが、私は「伝統主義」と区別するために「古典的保守主義」と呼んでいます。

 「古典的」と言うのは、要するに「新保守主義」と呼ばれる人たちがいるからです。そして、彼らは支持層も従来の保守派ではありません

 アメリカでは「共和党=保守」「民主党=リベラル」と言う構図が確立していますが、これにやや変化を与えたのがレーガン大統領です。

 レーガンさんは元々、保守層の中に支持基盤がありませんでした。そこで「民主党からの転向組」が初期のレーガン大統領を支持したのです。(後期レーガン政権は別。)

 彼らは、層としては民主党と同じ。思想も「新自由主義」ですが、これは広い意味でのリベラル思想で、例えばキリスト教会とはかなり色が違います。

 そういう人たちが、しかし「私たちは保守だ!」と名乗って共和党に入ってきたのです。これまでの保守派とは何かが違う彼らのことを「新保守主義者」と呼ぶようになりました。

 ただ、彼らの教祖的存在であるハイエクが「私は保守主義者ではない!」と言っていることでも判るように、彼らは広義のリベラル派と捉えるべきであって、保守派とは言えません。それは思想的にもそうですが、支持層からして古典的保守主義と新保守主義には大きな違いがあると言うべきでしょう。

大衆政党化する自民党

 この新保守主義の流れは、日本にも押し寄せました。そうして生まれた現象が「自民党の脱・保守化」です。

 例えば、農村を見てください。今の農村の荒廃の理由の一つが、自民党の農家切り捨て政策の影響です。自民党はもはや農協を主要な支持母体だとは思っていません。

 2016年の参院選では農協が一部の選挙区で自民党への推薦を見合わせました。2019年の参院選では農協が自民党に推薦こそ出しましたが、農協の強い東北でも自民党候補者は苦戦してよくて辛勝、中には落選した議員までいました。農家の自民党離れが進んでいますが、だからと言って自民党が農家の票を繋ぎとめるために必死で何かをしている訳では、ありません。

 また、自民党の主要な支持母体と言えば言うまでもなく土建屋ですが、第二次安倍政権以降の公共事業費は民主党政権よりも少ないのが現象です。自民党は土建屋の票ももはや重視していません。

 まぁ、二階幹事長に頭を下げる業界のためには、減っているはずの公共事業費の中から利権を貰えます。例えば、二階さんは旅行関係の議員連盟に入っていますから、今でもGoToキャンペーン再開のために奮闘しています。さらに中国と協力してスーパーシティまで推進しています。こんなの、従来の保守政治ではありえない姿なのですが。

 かわりに自民党の主な支持母体になっているのは都市部の中間層です。そう、かつて社会党を支持していたような勢力ですね。

 無論、引き続き医師会からの支援は受けています。医療利権複合体の利益のために自民党は頑張っております。なんでか知らないけれども、例えば子宮頸がんワクチンには元々保守派が反対していたのに、何故か「子宮頸がんワクチン反対派は左翼だ!」と言うキャンペーンまで貼られています。

 子宮頸がんワクチンの件でもそうですが、医療利権複合体は基本的に反保守です。「中絶推奨、緊急避妊反対」みたいな露骨な生命軽視政策など、保守派は大反対ですが、これが医師会のスタンスであり、自民党も医師会を支持母体にしていますから、概ねこの路線で政治をしています。

 こういう感じで自民党に切り捨てられた保守層を取り込もうと2017年の総選挙では希望の党が結党されたのですが、見事につぶされちゃいましたね。

ここから先は

125字
この記事のみ ¥ 100

ここまでお読みくださり、本当にありがとうございます。 拙い記事ではありますが、宜しければサポートをよろしくお願いします。 いただいたサポートは「日本SRGM連盟」「日本アニマルライツ連盟」の運営や「生命尊重の社会実現」のための活動費とさせていただきます。