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どうして「検事総長」「検事長」は特別なのか?――「黒川検事長問題」に見る法務省と検察の特殊な関係

 黒川検事長辞任を受けて、最近「検事総長」や「検事長」というワードがよくニュース等に出てくるようになりました。

 しかし、日頃からこうしたワードを聴きなれている人は、多くはないと思います。

 また、黒川幹事長の経歴についてもあまり注目を集めていません。今回の記事では検察と法務省の関係から今回の事件の真相を基礎知識のない方でも判るように解説しようと思います。

「検察官採用」だけど“検察に勤務しない”人たちがいる

 多くの人は検察官と聞くと、ドラマに出てくるような検事さんを連想すると思います。そして、多くの場合、そうしたイメージは間違っていません。

 検察官として採用された人の“多く”は検察での仕事をします。当たり前のことです。

 が、ここで「多く」と書いたことで勘の良い方はお気づきのように「全員」が検察に勤務している訳では、無いのです。

 検察官は多くの場合、弁護士や裁判官と共通の試験である司法試験に合格した後、「検事」として検察に採用されます。そして、検察で検事として働くのですが、その中から他の省庁に「出向」する人がいます。

 主な出向先は、

・法務省

・公安調査庁

・内閣法制局

です。検察は法律上は法務省の一部ですから、法務省に出向する検察官は少なくありません。

 また、法務省は言うまでもなく法律を扱うところです。

 法務省を始め、全ての省庁には「国家公務員総合職試験」に合格したエリートである「キャリア官僚」がいます。多くの省庁ではキャリア官僚が一番のエリートなのですが、法務省だけは少し違います。

 というのも、多くのキャリア官僚よりも司法試験に合格にしている検察官の方が法律に詳しいことは明白だからです。

 なので、法務省の幹部の多くは検察官出身の人が登用されているのです。こういう人達を「赤煉瓦組」といいます。

 また、公安調査庁も法律上は法務省の一部なので、検察出身者が登用されています。

 公安調査庁は過激な政治団体やオウム真理教の残党を監視するのが任務の一部です。そのため、どうしても政治的に完全な中立を維持することは難しくなります。

 ですから、公安調査庁に出向している検察官がいるということは必ずしも政治的に中立とは言い難い検察官も存在するということです。

 内閣法制局は内閣の法解釈を事実上決める部署であり、法律に詳しい官僚が採用されています。

 言うまでもなく検察官は「法律に詳しい」(出ないと困る)人達ですから、組織上は無関係ではあるものの内閣法制局に出向する検察官もいるのです。

「検事長」になると天皇陛下から“認証”される

 さて、それでは検事長や検事総長の地位について説明する前に、各省庁の幹部の序列について説明します。

 法務省を始めとする各省庁の幹部は、だいたい次の図のようになっています。

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 赤字で書いたのが政治家の役職、青字で書いたのが官僚の役職です。

 なお、これは「省」の場合であって「庁」だとまた話は変わります。ドラマの影響で警察「庁」にも官房長がいることは知られていますが、あれは例外です。

 通常、官房長がいるのは「省」だけです。また、局長も「庁」では大抵の場合「部長」になります。

 例外もあるのですが、多くの場合「省」には部長がいないことも少なくないので、課長が一般企業で言う部長級の役割を担うことになります。

 そう考えると、局長クラスは一般企業で言う取締役クラスのポジションと考えて問題ないでしょう。

 事務次官は官僚機構の中ではまさに「社長級」の存在なので、本当に事務仕事をするわけでは、ありません。多くの場合、実務的なことは官僚の中のナンバー2である官房長が仕切っています。

 念のためにいうと、各省の「官房長」と内閣の「官房長官」とは全く別物です。

 官房長官は政治家のポジションであり、また名前からは想像しにくいですが、法律上は官房長官も「大臣」の一種です。

 さて、上の図をもう一度見てください。「大臣・副大臣」と「事務次官・政務官」以下のポストの間に太線をひいています。実は、これが越えられない一線なのです。

 どういうことか。この上の役職と下の役職の間には、決定的な違いがあります。

 それは、大臣や副大臣は天皇陛下から認証を受けているということです。

 こういうのを「認証官」と言います。

 通常、庶民にとって天皇陛下は雲の上の存在。官僚にとっても特別な仕事がない限り、直に会う機会はそうないもの。

 が、大臣や副大臣は何と、任命の際に天皇陛下から直々に「認証状」を手渡しされるというとても光栄な目に合う訳です。

 あまりにも光栄すぎて、だいたい当選五回以上を超えた与党の国会議員は、内閣が組閣されたり内閣改造があったりといううわさを聞くと、いつ大臣・副大臣に任命されてもよいように、陛下の前で恥ずかしくないよう新品の超高級なスーツを調達するのだとか。

 が、高い金を払って立派なスーツを買っても大臣・副大臣になれないこともしばしば。そういう場合、「どうして俺を大臣にしてくれないんだ!」と不満をぶつける「大臣病」という病気に罹患するそうです。

 さて、法務省も基本的な組織図は同じで、大臣・副大臣はやはり別格です。官僚は事務次官ですら、陛下からの認証を得ることができません。

 しかしながら、法務省の場合はもう一つ、別格の存在があります。

 それは、検察です。

 検察の幹部である検事総長(全国ナンバー1)・次長検事(全国ナンバー2)・検事長(各地方ナンバー1)も、大臣・副大臣同様に天皇陛下から認証してもらえるのです。

菅政権に始まった「黒川時代」で歪んだ検察・法務省

 さて、黒川弘検事長は菅政権の頃に「官房長」となり、その後安倍政権で「事務次官」そして「検事長」と出世しました。

 既に述べたように、法務省の官僚としては「事務次官」が一番エライのですが、黒川さんは元々は官僚ではなく、検察官です。検察の世界では天皇陛下から認証される「検事長」の方がエライのです。

 そして、あと一歩で「検事総長」というところで定年が来て辞めないといけない・・・はずですが、何故か「(法的根拠のない)定年延長」というウルトラCで検事長をそのまま務め「このままだと検事総長だ!」という時点で『朝日新聞』と『産経新聞』の社員と一緒に麻雀をしていたことが発覚し失脚します。

 最後の最後が『朝日新聞』と『産経新聞』の癒着だったことが、象徴的です。『朝日新聞』つまり「反日左翼」と『産経新聞』つまり「安倍信者」の双方と癒着していたと言い換えることも出来ます。

 失脚したとはいえ、退職金は満額貰っていますから、黒川幹事長はまさに「上級国民」です。何をしても懲戒処分を受けることは無い、これぞ権力者です。

 ちなみに、『朝日新聞』と『産経新聞』の責任については、何故かあまり問われていません。

 さて、問題はどうして黒川幹事長がここまで権勢を誇っていたのか、ということですが、これは菅政権の頃に遡ります。

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