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『大日本帝国憲法』の現在の効力

 『大日本帝国憲法』が現在の日本で効力を持っているのか、持っていないとすれば何故なのか、ということについては4つの立場があります。
 それは、①「改正」説、②「廃棄」説、③「失効」説、④「有効」説の4つです。

①「改正」説

 これは『大日本帝国憲法』は既に『日本国憲法』へと改正されている、と言うもので、現在の日本政府の公式見解です。政府見解ですから、皆様も学校で習ったと思います。
 この立場に立つと、『日本国憲法』は『大日本帝国憲法』の後継憲法と言うことになりますが、この主張を支持している憲法学者は殆どいません。一般向けにこの説で書籍を書いたりしているのは、竹田恒泰氏ぐらいですが、彼は憲法学の博士号も修士号も持っていません。
 どうして多くの憲法学者がこの説を支持していないのか、と言うと、これまで私が再三説明してきたとおり、『日本国憲法』は単に占領下で制定されたのみならず、『大日本帝国憲法』の改正手続きも正しく踏んでいないからです。

 勘違いしてはならないのは、多くの憲法学者が重視しているのは「占領下」の部分ではなく「手続き違反」の部分です。
 「押し付けがあったか、どうか」は主観的な議論ですが、『日本国憲法』の成立過程が『大日本帝国憲法』の改正手続きを踏まえていないのは客観的事実ですので(そのことは私もこれまで再三説明しています)、多くの憲法学者はそのような客観的事実を否定する愚は犯しません。
 しかしながら、政府は「『日本国憲法』は『大日本帝国憲法』第73条の規定に基づいて成立したのである」と言う、真っ赤な嘘をいつまでも吐き続けています。

②「廃棄」説

 これは多くの憲法学者の間での通説であり、政界においては日本共産党や社会民主党がこれを公式見解にしています。別名を「八月革命説」といいます。
 『日本国憲法』は『大日本帝国憲法』の改正としては無効ですが、多くの憲法学者はそもそも『ポツダム宣言』受諾の時点で『大日本帝国憲法』は廃棄されたのである、と主張しています。憲法を廃棄すると言うのは、法学上は「革命」です。
 『ポツダム宣言』受諾の時点で『大日本帝国憲法』は既に廃棄されていたのであり、後はGHQが方便的に『大日本帝国憲法』の規定を利用しただけである、と言うのがこの仮説ですので、『大日本帝国憲法』第73条の規定によって『日本国憲法』が出来たというのはあくまでも「方便」ですから、細かい手続き違反などどうでもいい、という理屈です。
 この立場を徹底すると、戦前の日本と戦後の日本は別の国、と言うことになります。事実、日本社会党(現・社会民主党)はかつて建国記念の日を『日本国憲法』の制定された5月3日にするべきである、と主張していました。
 しかしながら、そんなことを声高に主張しても票は増えないため、今の多くの政治家はそのような主張は棚上げにしていますが。
 この説に対する保守派からの批判の典型的なものが「占領下と言う主権の制限された状態」で「主権が国民にあることを宣言」して「革命による憲法廃棄」など出来るのか、と言うものです。
 しかしながら、この説の最大の欠点はそれではありません。
 一度「革命による憲法廃棄」を認めると、それが「先例」になって、後世何者かがまた「革命による憲法廃棄」を行っても認めざるを得ない、と言うのが最大の欠陥です。
 さらに言うと「そのような革命など私は認めんぞ!」という政権を握ると、また元の木阿弥に戻ってしまいます。
 この両方とも、まさに「革命の祖国」であるフランスでは先例がありました。
 フランスでは革命時に新しい「革命憲法」を制定しますが、その後何度も「革命による憲法廃棄」が繰り返され、戦後になっても『第4共和政憲法』が廃棄されて現行の『第5共和政憲法』へと移行する騒ぎが起きています。
 さらに、フランスでは王党派が政権を握ったときには「革命憲法の無効」が宣言され、一挙に王政時代へと戻って貴族制度が復活する事態まで起きたことがあります。
 これらが戦後の日本で起きていないのは、単に政治情勢の問題であって、新左翼勢力は現に「立憲主義では平和は守れぬ!」と言って『日本国憲法』の廃棄と社会主義憲法の制定を主張していますし、逆に保守派の中では与野党を問わず「法理上は『日本国憲法』は無効」と言う議員が存在しており、どちらに対しても「廃棄」説は無力なのです。

③「失効」説

 これは「廃棄」説よりかは政治的に有用な説で、保守派の「リアリスト」を自称する論客の間では人気の高い立場です。
 一条の会の徳永信一弁護士もこの立場のようであると考えられます。

 簡単に言うと「『日本国憲法』が『大日本帝国憲法』の改正で成立したという政府見解は確かにオカシイ、かと言って八月革命説にも問題がある。だが、そもそも『日本国憲法』が施行されてから何十年もたち、『大日本帝国憲法』を復原すること等無理である。今の時代には枢密院も貴族院もないではないか!」と言うものです。
 似た主張は海外でも例があって、例えば、フランスは戦時中にナチス・ドイツから占領憲法を押し付けられましたが、独立回復後に『第3共和政憲法』を復原するのではなく、新たに『第4共和政憲法』を制定しました。
 また、ドイツもナチスが『ワイマール憲法』を事実上廃棄した後、ナチスの敗戦後に『ワイマール憲法』を復原するのではなく、新たに『ボン基本法』を制定しました。
 しかしながら、これはあくまでも「『第3共和政憲法』や『ワイマール憲法』は既に失効しており、今さら復原は出来ないだろう」という政治判断によるものであって、ドイツでも『ワイマール憲法』が失効したとは見做さずに、あくまでも『ワイマール憲法』の復原を求める意見が有ったのですが、敗戦後の連合国軍によってそのような意見が封じられてしまったのです。
 何よりも重要なことは、本当に『大日本帝国憲法』は現時点で「失効」しているのか?と言うことです。
 『道路交通法』と言う日常的に無視されている法律がありますが、警察がその気になれば普段は無視されているスピード違反の規定も他の規定も執行できる以上、失効したとは言えません。「その気になれば執行できる」状態のことは「失効」とは言えないのです。

④「有効」説

 これは『大日本帝国憲法』が今でも有効である、と主張です。
 いわゆる「革命」が起きた場合、その「革命を認めない」として革命前の規範の有効性を主張することは、既に述べたようにフランス復古王政等の例があります。
 イギリスの王政復古もその例ですし、また日本の明治維新も広い意味ではその例に入るということができます。
 『大日本帝国憲法』が今も有効であると言うのは、法理上もっともシンプルな説ですが、問題はその後です。
 『日本国憲法』は『大日本帝国憲法』の改正ではない、と言うのは、「廃棄」説でも「失効」説でも「有効」説でも共通する「大前提」ですが、それでは『大日本帝国憲法』が「有効」であるとすると『日本国憲法』は「無効」なのか、と言う問題が生じます。

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