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「岸田首相は保守本流である」というウソ

 あまりにもバカらしくて相手にしていなかったが、どうやら我が国には「岸田首相は保守本流である」という主張を本気で信じている方も、一定数いるようだ。
 政治にまつわる色々なウソの多くは「背理法」を使うと簡単に見破ることが出来る。
 例えば、岸田首相が保守本流であるという人たちは、次のロジックを使っている。

①    宏池会は保守本流である
②    岸田文雄は宏池会の会長である
③    よって、岸田文雄は保守本流である

 さて、この①と②については、一見事実のようだ。では、岸田文雄首相はやはり保守本流なのだろうか?
 ここで、一見「無関係」に見える話を出す。こういう「別の話題」を出すとよく「話を逸らすな!」「例え話をするな!」と叫ぶ輩がいるが、背理法を使う時には「誰もが知っている類例」を出すとわかりやすい。
 皆さん、河野洋平元官房長官は保守派だと思いますか?
 こう聞くと、多くの方は「違う!河野洋平は左翼で売国奴だ!」と言うだろう。
 では、そのことを「前提」とすると、岸田文雄首相が保守本流であるという主張は、一気に崩れてしまう。何故ならば、次の背理法が成り立つからだ。

①    宏池会のものは全員が保守本流である(仮定)
②    河野洋平は保守派ではない(前提)
③    ①は②に矛盾するので、①の仮定は間違いである

 はい、これで「宏池会であれば、保守本流である」という、そもそもの大前提が崩れた。
 河野洋平元官房長官は宏池会の人間だ。宏池会の人間でも保守本流でないものがいる、ということだ。
 だが、これだけだと「岸田文雄は保守本流ではないかもしれない」とは言えても「岸田文雄は保守本流ではない」とまでは言えない。
 そこでさらに理屈を詰めてみよう。そもそも「保守本流」とは何だろうか?
 そもそも保守本流と言う言葉は、宏池会「だけ」を指す言葉では、無い。
 田中角栄首相の木曜クラブやその流れをくむ経世会も保守本流と呼ばれていたし、むしろ彼らの方が“主流派”であった。
 そして今、彼らの流れをくむのは自民党の茂木派や立憲民主党の岡田派、小沢派だ。
 このように一口に「保守本流」と言っても様々な流れがある。その中でどうして宏池会だけがピックアップされているのか、そこに政治的な意図を感じなければならない。
 宏池会は木曜クラブや経世会と比べて「クリーン」なイメージがある。逆に、経世会の流れをくむ小沢一郎先生や岡田克也先生には「クリーン」どころか、真逆なイメージだ。岡田克也先生はイオンのオーナー一族だし、小沢一郎先生に至っては強制起訴までされた。
 しかし、宏池会の「クリーン」さは地方切り捨てと実は同義だ。小沢一郎先生は土建屋のOBが作った政治団体から献金を受け取ったことが「トンネル献金」であると非難され、田中角栄首相に至っては公然と土建屋から政治献金を集めていたが、それは彼らが本当に、地方の土建屋等の利益になる政策を推進していたからに他ならない(田中角栄首相も小沢一郎先生も、土建屋から「賄賂」を受け取ったことは一度もない)。
 一方の宏池会は、経世会と比べると公共事業に否定的だった。そのことが国民にとってはクリーンだと評価された訳だが、一方で地方の経済にとっては経世会の方が遥かに良かった。
 今の日本で宏池会が恰も保守本流の代表であるかのように扱われている背景には、地方を切り捨てたい勢力、もっと言うと「新自由主義政策を推進したい勢力」の思惑がある、ということは容易に想像できる。
 さらに、宏池会は歴史的に「親米派」が強い。アメリカの“属国”である日本では宏池会は有利なのだ。
 だが、仮に話を宏池会に絞ったとしても、岸田文雄首相を保守本流と見做すのは、実は困難である。というのも、大平正芳先生を始めとする過去の宏池会の政治家と岸田文雄首相とは、大きく政策が異なるからだ。
 岸田文雄首相の政策と大平正芳首相の政策が異なることは言うまでもないと思うが、念の為に、岸田文雄首相が大平正芳首相の「田園都市構想」をパクった「デジタル田園都市構想」について説明しておきたい。
 大平正芳首相の言う本来の「田園都市構想」とは「都市に田園のゆとりを、田園に都市の活力を」というものだ。つまり、地方だけでなく都会をも変えよう、という構想だ。
 ところが、岸田文雄首相の「デジタル田園都市構想」には「都市にゆとり」など、一言も出てこない。それどころか、地方を「スマートシティ」にするという。
 スマートシティというと何となく良さそうに聞こえるが、安倍政権の「スーパーシティ」や維新の会の「コンパクトシティ」と言った、効率重視の地方都市構想に他ならない。本当の田舎の人間は、岸田政権が指定した「スマートシティ」に引っ越しする流れが出来るだろう。
 いずれにせよ、大平正芳先生が国会施政演説で述べた「緑と自然に包まれ、安らぎに満ち、郷土愛とみずみずしい人間関係が脈打つ地域生活圏が全国的に展開」されることを「究極的理念」とする田園都市構想は、岸田政権の方針とは全く違うものである。
 さらに、保守本流の政治家である田中角栄や大平正芳が総理の頃は、望まない妊娠をした女性が内密出産を出来ること等を内容とする「実子特例法案」や堕胎を減らすための「優生保護法改正案」が審議されていたが、今の岸田首相は内密出産法制化には全く取り組まない一方、望まない妊娠を減らすための緊急避妊薬規制緩和にも反対し、挙句の果てには経口中絶薬を承認したり、書類を偽造してまで交際相手に堕胎を強要した男を参院選の候補者に公認したりするなど、生命尊重を旨とする保守派ではあり得ない生命軽視の政治をしている。
 このように、岸田首相は保守本流どころか、生命軽視の極左政治家である。
 纏めると次のようになる。

①    保守本流の主流派は宏池会系ではなく経世会系である
②    岸田首相の政策はそもそも過去の宏池会系の政治家とも大きく異なる
③    岸田首相は保守本流ではなく、生命軽視の極左政治家である

 であるにも拘わらず岸田首相を保守本流扱いするのは、一つは保守本流の評判を貶めたい勢力であり、もう一つは岸田首相の評判を上げたい勢力であり、いずれにせよ、不誠実な人間だ。


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