見出し画像

日本の「國體」(根本規範)とは何か

 「國體」(国体)とは何か、これについては様々な議論がありますが、憲法学や政治学では「國體」は「根本規範」の同義語です。
 例えば「戦前と戦後で国体は変わったか?」と言うような議論は「『大日本帝国憲法』と『日本国憲法』とで根本規範の変更はあったのか?」という意味です。

 根本規範とは何か。それについても様々な定義がありますが、ここでは仮に「憲法典(成文憲法)の存在を正当化する規範」としておきます。
 インドでは「基本構造理論」というものが判例で確立しており、「憲法改正権はこの憲法のアイデンティティを変更するような憲法の基本構造・枠組を変更する権限を含まない」とされています。
 この「憲法のアイデンティティ」に当たるのが「根本規範」である、ということも出来るでしょう。
 こうした「根本規範」或いは「基本構造」の変更は、憲法改正の手続きではできない、というのが定説です(憲法改正限界説)が、現実には基本構造理論を根拠に憲法改正を無効とする例は多くは無く、多くの国では根本規範の変更があると「革命が行われた」と解釈します。
 例えば、『中華人民共和国憲法』を改正して「社会主義の否定」は出来ません。社会主義革命こそが『中華人民共和国憲法』を正当化しているものであり、社会主義の否定は『中華人民共和国憲法』そのものの「否定」であって「改正」と言うレベルで済むものではありません。
 もしも『中華人民共和国憲法』の全面改正によって社会主義が否定された場合、それはもはや「中国の社会主義体制が崩壊し、新しい体制になった」つまり「革命」が起きた、と言わざるを得ないのです。

 さて、根本規範については様々な見解はありますが、一般にその中には「憲法制定権力」(主権)の所在が含まれている、とされています。
 例えば、共和制の国は「国民主権」を採用しており、憲法の正統性も「国民が定めたから」と言うことになっています。
 もしも国民主権を否定すると、憲法の正統性が失われるので、国民主権を否定するような憲法改正は出来ません。国民の憲法制定権力を共和制国家は否定できないのです。
 従って、元祖共和制の国であるフランスでは、国民に「革命権」(憲法制定権力)があることが承認されています。
 不文憲法主義のイギリスにも「実質的意味の憲法」は存在します。イギリスは「議会における国王」に主権があるので、この「実質的意味の憲法」は議会が定めた法律によってしか、変更できません。
 もし議会を無視して「これがイギリスの憲法だ!」と言っても、誰も相手にしないでしょう。仮にそれが行われたならば、それはイギリスで「革命」が起きた、と言うことです。

 ところが、『大日本帝国憲法』には「憲法制定権力」が存在しません。こういうと「天皇が憲法制定権力(主権者)だろ」と言う人がいますが、『大日本帝国憲法』は明治天皇が憲法制定権力を発動して作った憲法では、無いのです。
 天皇に憲法制定権力があるのであれば、『大日本帝国憲法』の制定は「革命」と言うことになり、『大日本帝国憲法』制定以前の法令を無視して制定されたことになります。
 しかし、実際には明治天皇は「立憲政体の詔」(明治8年)と「国会開設の勅諭」(明治14年)に基づいて『大日本帝国憲法』を制定したのであり、しかも「立憲政体の詔」も「国会開設の勅諭」も太政官の輔弼によって発布されたもので、明治天皇による憲法制定権力の発動とは言えませんでした。
 また、その太政官は直接には「職員令」(明治2年)によって設置されていましたが、この「職員令」自体が太政官布告によって制定されており、ではその太政官の設置根拠は、と言うと『養老律令』なのであって、明治2年の「職員令」と言うのも『養老律令』における同名の「職員令」と「官位令」の改正であると評価されるべきです。
 以上の経緯を踏まえると、『大日本帝国憲法』の制定は憲法改正権力の発動ではなく、『養老律令』以来の「実質的意味の憲法」(不文憲法)を改正して「憲法典」(成文憲法)にした、と言うものであり、「憲法制定権力」ではなく「憲法改正権力」の発動である、と評価できます。

 では『大日本帝国憲法』の根本規範、つまり、國體とは何か、と言うと、『大日本帝国憲法』は『養老律令』以来の「律令法」「公家法」における「実質的意味の憲法」を改正したものであると言えますから、次の3条件を満たしていることが条件となります。

ここから先は

3,080字
この記事のみ ¥ 100
期間限定 PayPay支払いすると抽選でお得に!

ここまでお読みくださり、本当にありがとうございます。 拙い記事ではありますが、宜しければサポートをよろしくお願いします。 いただいたサポートは「日本SRGM連盟」「日本アニマルライツ連盟」の運営や「生命尊重の社会実現」のための活動費とさせていただきます。