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近鉄奈良駅の手洗いにて

 母親が幼い男児を女子トイレに連れていくことの是非がTwitterで議論になっているようですが、これらは慣習法的に運用されてきたことですので、当事者ではない私がああだこうだ言うことでは、ありません。

 ただ、そうした話を見てちょっとした思い出話を。見る人が見たら自慢に見えるかもしれませんが、自慢だったらもっと前からしている(笑)、数年前の話です。

 当時、私は奈良市の西部に住んでいました。最寄り駅は近鉄奈良駅から三駅目の駅です。

 その日は奈良公園で用事がありました。私は節約生活を旨としており、一時間近くかけて近鉄奈良駅まで歩いていきました。

 一時間程度の徒歩をする人は、決して少なくないはずですが、ただ、私の場合は専ら経済的な理由で歩いていたのであって、健康上の理由とかそんな大それたものではありません。むしろ健康なんか金持ちの道楽だと思っているのが私です。

 私のことをよく知る女性は、私のことを「育ちが悪い」と思っているそうです。私にとっての普通が「育ちの悪さ」に見える女性もいると言うことからも、まぁ、私がそういう経済状態で育ってきたかはわかるものでしょう。

 さて、奈良市と言うのは、都会か田舎か、判りにくい街です。観光地も沢山あって地方都市のような雰囲気も持っていますが、同時に田舎のような雰囲気もあり、田舎者の私も普通に暮らせる街なのです。

 近鉄奈良駅は田舎には無いような立派な駅ですが、それでも、普段はあまり人が多いとは言えません。絶対人数はともかく(規模は大きいですから)、人口密度自体は姫路駅程度のものです。

 これで観光客もいなくなれば、近鉄奈良駅付近の経済を支えるのは革マル派で有名な某女子大ぐらいしか無いことになるでしょう。他の大学も奈良にはありますが、三駅以上も歩いて近鉄奈良駅まで来るのは、私ぐらいなものです。

 そんな近鉄奈良駅ですから、普段は手洗いも空いています。そういう訳で、私は花を摘みに近鉄奈良駅に行きました。

 すると、なんか、手洗いの方に長蛇の列があります。女子トイレに行くのを待っている人たちです。

 母親に連れられた幼い男の子が、手洗いを我慢できないのか、泣き叫んでいました。

 彼らは恐らく、観光客なのでしょう。こういう場合、赤の他人にはスルーが基本。男子トイレも混んではいましたが、列が出来るほどではありませんでした。

 そうして花を摘み終えると、まだ女子トイレの列は殆ど動いておらず、男の子が叫んでその母親らしき方が困っています。

 私は髪の毛を金髪的な色に染めている女性には本能的な恐怖を感じますから(いや青や緑に染めてほしいわけでもなくて、普通に黒で良いでしょ)、ちょっと時間もないしスルーしようと思いましたが、やっぱり見ていたら可哀そうです。

 声をかけてあげたいのだけれども、女性は怖い。私は悪意ある女性とは沢山出会っている人間、赤の他人の女性に声をかけるのは勇気が要ります。

 が、周囲の人間が普通に素通りしているのに腹が立ち、思わず声を掛けました。

「お子さん、トイレに連れて行きましょうか?」

 すると、普通に子供を任されました。同時に、子供が泣き止みました。

 うん?おしっこ漏らしそうで泣き叫んでいたのではないの?と一瞬思いましたが、見知らぬ男に連れられると怖がるのも無理はないか、と納得。

 手を繋いで男子トイレに入れると、小便器は空いていたので立って手洗いが出来るかを確認すると、出来るという返事。

 が、その子の身長から物理的に難しそうだったので、大便器の方へ行くと、空いている一つはなんかゴミが浮いている。

 じゃあ、残りの処は・・・と思ってみると、みんな閉まっている上に、誰かオタクっぽいおっさんが待っている。

 そこへ、扉が一つ空きました。幼い子供にトイレの我慢をさせるわけにはいかないと思い、おっさんに謝りながらそこを使用させてもらいます。

 すると、暫くしてその子が「出た~」と。放尿の音も何もしていませんでしたが、無事手洗いは済んだ模様です。

 そして、すぐに流して待っていたおっさんに再度頭を上げて、その子に手を洗わせて母親の下へ戻りました。なお、これにより予定には遅れましたが、相手が時間にルーズな人なのでセーフでした。

 恐らく、その母親が最初から誰か別の男性に「すみません、うちの子を手洗いに連れて行ってくれないでしょうか?」と頼んでいたら、最初から私の出番はなく一件落着だったでしょうが。

 いずれにせよ、ある程度ならば、赤の他人に優しくすることは、可能です。私みたいな、決して優しいとは言えない人間でも、です。

 そう考えると、本当に優しい人間ばかりだと、そもそも起きていない問題も沢山あるわけで、そういう世の中になってほしいな、と思ったりするんですよね。

 夢物語かもしれないですが、夢を追いかけること自体は悪いことではないはずです。

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