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エルドアン大統領「与党支持者が棄権した」「私たちの責任を追及する」

 3月末に統一地方選の行われたトルコでは、イスタンブール市長選で与党・公正発展党の候補者が落選し最大野党・共和人民党の候補者が当選した。
 イスタンブール市はアジアを基盤に持つもののヨーロッパにもまたがるトルコ共和国のヨーロッパ側の領土にある都市で、オスマン帝国の首都であるなどトルコの歴史上著名な都市である他、現在もヨーロッパ有数の国際都市とされ、エルドアン大統領自身がかつて市長を務めていた象徴的な都市でもある。
 欧米リベラル派からは「独裁者」扱いされているエルドアン大統領だが、実際には立憲主義的な手続きを重んじている人物であることもあり、今回の敗戦によりかつてから公言していた任期不延長の路線が変更される可能性は殆どなくなったとみられる。

トルコ統一地方選、野党が勝利宣言 エルドアン大統領に大打撃

2024年4月1日
トルコで3月31日に統一地方選挙の投開票があり、最大都市イスタンブールと首都アンカラの市長選で主要野党が大差での勝利を宣言した。レジェップ・タイイップ・エルドアン大統領(70)にとっては大きな打撃となった。

エルドアン氏が21年前に政権に就いてから、政権与党の公正発展党(AKP)が国内各地で敗北を喫したのは初めて。

エルドアン氏は昨年5月の大統領選で3期目をとなる政権維持を決め、イスタンブールとアンカラの市政を与党が奪還することを狙っていた。

特にイスタンブールは、エルドアン氏の出身地で、同氏が市長を務めたこともあり、自ら選挙戦を指揮する熱の入れようだった。

しかし、世俗派の野党・共和人民党(CHP)のエクレム・イマモール市長が、2019年の初当選に続いて2度目の勝利を確実にした。得票率は50%を超える見通しで、大統領の与党・公正発展党(AKP)の候補に10ポイント以上の差をつけている。

イスタンブールには、トルコの人口約8500万人の5分の1に近い約1600万人が暮らす。同市を掌握すれば、貿易、観光、金融などトルコ経済のかなりの部分を握ることになる。

一方、アンカラでCHPのマンスール・ヤヴァシュ市長が、開票率50%未満の時点で得票率59%で対立候補を大きく引き離しており、勝利を宣言した。支持者らは市内の主要道路を封鎖し、旗を振ったりクラクションを鳴らしたりした。

このほか、イズミル、ブルサ、アダナ、リゾート地のアンタルヤなど他の多くの大都市でも、野党CHPが勝利する勢い。

エルドアン氏は、選挙が期待通りに行かなかったと認めた。アンカラで支持者らに向け、選挙結果を尊重すると述べるとともに、「私たちにとって終わりではなく、むしろ転機だ」と語った。

「新しい政治風土への扉を開く」
エルドアン氏は選挙期間中、大統領の任期が2028年までであることから、統一地方選は今回が最後になるだろうと述べていた。

しかし、この選挙で勝利すれば、次の大統領選にも立候補できるように憲法を改めるのではないかとの見方も出ていた。だが、実際には劇的ともいえる敗北を喫する見通しで、憲法を改定する可能性は非常に低くなっている。

CHPのオズグル・オゼル党首は、投票者らが「私たちの国の新しい政治風土への扉を開くことを望んでいる」と述べた。

イスタンブールでは、市内の最も古い地区サラチャネの市庁舎前に人々が集まり、トルコ国旗を振るなどして選挙の成り行きを祝った。イマモール氏の写真をトルコ建国の父ケマル・アタチュルクと並べた横断幕を掲げる人もいた。

イマモール氏は、「市民の私たちに対する信頼と信用が報われたと言える」と述べた。

イマモール氏とヤヴァシュ氏は共に、2028年大統領選に立候補する可能性があるとみられている。

トルコは現在、西部、南部、北部の大部分を野党CHPが掌握している。一方、南東部の大部分は親クルド派の民主社会党が握っている。

エルドアン氏の率いるAKPは、トルコ中部を支配し続けている。南東部のカフラマンマラシュ市やガジアンテプ市を含む、昨年2月の2度の大地震で壊滅的な被害を受けた地域では、比較的よい選挙結果となる見通し。

今回の選挙の有権者は約6100万人。若者100万人以上にとっては初めての投票の機会となった。投票率は全国で77%超と推定されている。

BBC「トルコ統一地方選、野党が勝利宣言 エルドアン大統領に大打撃」

 エルドアン大統領は敗北の理由を支持者の棄権や生活費の高騰に求め「まず自分の責任を追及する」と述べた。

公正発展党のレジェプ・タイイプ・エルドアン大統領は公正発展党本部で行われた中央執行委員会の会合で議長役を務めた。

議長役を務めた中央執行委員会の会合で発言した公正発展党のレジェプ・タイイプ・エルドアン大統領は、選挙結果が表した構図を評価した。

公正発展党関係者から得られた情報によれば、党として得票率が44.3%から35.5%に、民主同盟としては 51.6%から40.5%へと低下していることが注目された。

◾️「支持者は投票に向かわなかった」

公正発展党が深刻な得票の減少を被ったと強調したエルドアン大統領は、この根本的な原因は10ヶ月前に公正発展党に投票した有権者が今回は投票に向かわなかったことであると指摘した。

エルドアン大統領は、2024年の選挙の投票率は2019年に比べて6ポイント減少し、この6ポイントの減少のほとんどを公正発展党支持者が占めていると述べた。

大統領は、3月31日に行われた統一地方選挙で公正発展党支持者が投票に向かわなかったことには、党組織、党本部、候補者に原因があると強調し、候補者選定のプロセスも含み、これらについて長い時間をかけて検証することが必要であり、この点において必要なあらゆる対策を取るべきと強調した。

◾️「生活費の高騰が投票に直撃」

公正発展党のエルドアン大統領は、国民が投票箱に怒りをぶつけた他の理由として、生活費の高騰、新型コロナウイルスの流行に端を発し、ウクライナ危機によって深刻化したインフレの影響をあげた。

エルドアン大統領は、幹部に向けたメッセージの中で、年金受給者が深刻なインフレによって、最も暮らしの安らぎを失った社会的階層であると言及しながら、「年金受給者の不満を様々な県を訪問した際に既に認識していた。5千リラの一時支払い金、50%の増額、その他の措置によって、予算の規律を乱すことなく、この圧力を軽減しようとした。しかし成功しなかった。」と述べた。

◾️失った県と郡について議論

エルドアン大統領は「ガザ地区の危機のように、できる全てのことを行い代償を払った問題でも政治的攻撃を回避できず、一部の人々を納得させることができなかった。これらに関する長所と短所を含めた評価を必ずや行う」と述べた。

会合では「傲慢病」に注目したエルドアン大統領は「ここを手始めに、県、郡、町の組織に、自治体首長、国会議員、官僚機構にまで及ぶ障害に直面しているのだ。しかし、国民の内から誕生した政党の最大の敵は、国民との間に壁を築くことだ。私たちは、この政党の中に、その地位に関係なく『不問の』者は一人もいないことを国民に示す。必ずやこの自己批判の過程では、私たちが選挙協力して戦うが敗れた県・郡、アマスヤ、キュタフヤ、クルッカレにように二つの政党が別々に戦い、共和人民党に勝利をもたらした県・郡の状況について議論する。」と述べた。

◾️22年で初めての敗北を強調

「党創設からたった15ヶ月後に我々を政権に適しているとし、たった10ヶ月前の選挙では我々の政党を明らかに第1党とし、これまで経験した全ての選挙で常に我々を支援し、つまり過去22年間の全17回の選挙で投票箱を我々のためにいっぱいにした国民が、3月31日では我々を共和人民党の背後にどうして追いやったのか、とてもよく分析しなければならない。」と評価したエルドアン大統領は、票の損失だけでなく、熱い想いと精神の損失も明白にあったと述べた。

◾️「誰も3月31日の結果から逃れられない」

公正発展党のエルドアン大統領は、この結果を国民になすりつけることは無能で無自覚な者のやることだと強調し、「欠点、欠陥、間違いを国民に求めるのは、我々の伝統では決してない。我々の政治生活のどの時期でも、そのような手段に訴えたことはなかったし、今もそのような手段に訴えるつもりはない。はっきり言っておくが、私を含め、この会合に参加している友人の誰もが、3月31日の選挙結果の責任を免れることはできない。他人の責任を追及する前に、私たち自身の責任を追及する。まずは自分に、その後に相手だ。」と述べた。

◾️「太陽に晒される氷のように溶け続ける」

様々な都市で起こった票の低下を一つの原因や問題に要約することは「易きに流れること」であると述べたエルドアン大統領は、ハタイを一つの成功例として幹部たちに提示した。

「欠陥、過ち、意図、裏切りがどこかにあれば、それらについて対処するのが我々の務めである。他のいかなる、神様お守りください、より大きな災害、より衝撃的な損失が生じることを妨げることはできない。」と発言したエルドアン大統領は、国民が伝えたメッセージは極めて明確であると述べた。

大統領は最後に、「自分たちの過ちを凝視し体制を立て直すか、太陽に晒される氷のように溶け続けるかだ。または徹底的に我々のやるべきことを完璧に行うか、より重い代償を払うことを免れないかだ。国民との心の架け橋を今一度強化するか、私たちが批判している政党のようになるのを止めることはできないかだ。誰1人として、22年間の蓄積、22年間の厳しい闘いを無駄にし、失うのを認めないし、そうはさせないつもりである。」との発言で会合を締め括った。

2024年04月03日付 Cumhuriyet 紙「エルドアンの総括「AKP支持者が棄権」」

 今回の統一地方選で勢いを伸ばしている共和人民党は、トルコ共和国の国是であるフランス型の厳格な宗教排除政策の維持を求める左翼政党であり、近年保守化が進んでいたトルコにおいて左翼勢力によるバックラッシュが起こっていると言える。
 左傾化は日本やアメリカだけの問題ではないようだ。

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