ウィリアム・W・アトキンソン『賢者の宝物』

人を引きつける力にあふれていると言われる人は、男でも女でもかならず、「魂」を感じさせるものです。つまり感情や情緒というものを外に向かって発し、相手からも引き出すのです。

役者は演じる人物の性格の特徴を表現するわけですが、彼らも同じようなものを表現します。自分の中にあるものを外に向かって放ち、それが接触する相手に影響を及ぼすのです。

人を引きつける力のない役者を観察してみてください。セリフを完璧に覚え、演技の型や身ぶりといった技術を正しく身につけていても、「何か」が欠けています。その何かは、「感情」を伝える能力と考えていいでしょう。
さて、演技の秘密を知っている人たちは充分すぎるほどにわかっていることがあります。それは、成功している役者の多くは、舞台の上で情熱と感情と感動に打ち震えているように見えながら、実際にはそういった気持ちをほとんど感じないで演じているということです。

彼らはレコードプレーヤーのようなもので、自分の中に記録された音を外に発しているのです。さらに調べてみると、こんなことがわかります。演じる役を研究し、本番に向けてけいこする中で、彼らは役が求める感情を自分の中で高めて誘導し、ふさわしい身ぶりなどをつけながら、その感情が心に定着するまでしっかり抱きつづけます。その結果、レコード盤に音が記録されるように、心の石板に感情が刻まれます。

そしていよいよ役を演じるときには、実際の感情の形をまねたものが、動作や身ぶり、セリフのメリハリなどをつけて再現され、観客を感動させるのです。役の感情を同じ強さで感じるほどのめりこむとよい結果にはならないそうですが、これは役者が感情に呑みこまれ、観客ではなく役者自身が感動してしまうからです。

最高の結果が生まれるのは、まずその感情を実際に経験し、そのあとで、感情に主導権を握らせないようにしながら、先ほど述べた方法で再現した時だと言われています。
生まれもった「人を引きつける力」や素質が充分ではない人は、どうぞこれを参考にしてください。そういう人は、《熱意のある真剣さ》という望ましい感情を奮い起こすよう、人には見えないところで努力するのがいいでしょう。

必要に応じて再生できるように、心の中に感情が完全に記録されるまでリハーサルをくり返して、その気持ちを定着させてください。優秀な役者になりましょう――これが私からのアドバイスです。そして優秀な役者になるためには、頻繁に練習し、一人でのリハーサルを積み重ねることです。
このような形で感情や熱意を誘導することができるのは、感情や熱意に欠けていたり、逆に感情に溺れたりするよりも、はるかによいことです。安っぽい感傷に浸ったり、大げさに感情を表現したりせず、理性的に、熱意にあふれた真剣さをもつことは可能です。

賢明な読者はここに述べた内容を誤解することなく、私が言わんとするところをわかってくださると思います。最後に、覚えておいてください。このようにくり返し「演じる」ことで、望ましい素質は現実に、そして「天性」のものになるということを。

ウィリアム・W・アトキンソン『賢者の宝物』ハーパー保子訳、サンマーク出版、2007年、123-127頁。

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