「新潮社版 日本文學全集 正宗白鳥」

まだ読むのを諦めていない「新潮社版 日本文學全集」(全72巻)。

第12巻は、リアリズムにこだわった自然主義文学の代表的な作家、「正宗白鳥」だ。ニヒリストのくせに白鳥なんて優雅なペンネームをつけるぢゃないか。

白鳥の作品は初めて読んだ。

13作品が収められるが、妻とのやり取りが中心の「泥人形」は、明治の価値観の中にあっても、男と女の腹の探り合いが面白い。同じ人間ではあるけど、男と女は全く違う生き物であることがわかろうというものだ。
「私、男っていうものはどんな事を思ってるんだか分からなくってよ」
「おれも女が腹の中で何を考えてるんだか分からない」
「私、女よりや男の方が軽薄だと思われてよ。そうじゃないんでしょうか。女を弄ぶと言うこと聞いてるけれど、男を弄ぶと言うことを聞いたことがないから」「どちらだっていいさ。今にお前だって男の心がわかるようにならあね」…。

長編「人生恐怖図」なんて、妖しいラブレターを貰ったことで、いろいろとトラブルが起こって、ついに妻に暴力を振るってしまう(殴ってインクを投げつける)クズ男を描くが、最初の、ティーンの女の子2人が東京見物をする場面が微笑ましく思える。

白鳥は、終生、人間なんて何をやってもどうせ死ぬんだという思いに囚われていたという。それがニヒリズムとして作品にも表れているようで、それが故に、現実を超えたところにロマンを求めたらしい。最期の言葉は「アーメン」だった。


脳出血により右片麻痺の二級身体障害者となりました。なんでも書きます。よろしくお願いします。