【古典邦画】「女経」

1960(昭和35)年の、吉村公三郎、市川崑、増村保造の3人の監督による3話のオムニバス・フィルム「女経(ジョキョウ)」。

第一話 は、増村保造監督の「耳を噛みたがる女」 、第二話は、市川崑監督の「物を高く売りつける女」 、第三話は、吉村公三郎監督の「恋を忘れていた女」 。

いずれも、主に、男を前にした時の、女の可愛さに隠された狡猾さを表現したような作品である。

第一話は、自分がホステスを務めるナイトクラブで、客の、自分が株を持つ大会社の社長の息子に結婚話をチラつかせて騙して大金をせしめる話。実は、息子のためを思って身を引いたのだが、恋愛を諦める代わりに、男を騙して金を巻き上げようと決心する。

第二話は、不思議な雰囲気を持つ未亡人が、夫が死んだ後の邸宅を、出会った流行作家の男に売ることになるが、裏には悪徳不動産業者がいたという話。作家の男は、三島由紀夫がモデルだという。実は、未亡人は、美貌を武器にする住宅ブローカーだが、不動産業者と企んだ罠が作家にバレてしまう。作家は、文句も言わずに金を出して、「君と結婚すればノイローゼにもならないし、小説の種もつきない」と笑う。作家の方が上手だった。三島も満足だったろう。

第三話は、京都の宿屋の裕福な未亡人が、訪ねて来た昔の男に金をせびられるが、男は指名手配の詐欺犯であった。宿に泊まった修学旅行の男子生徒の1人が車にはねられて大ケガを負い、輸血を申し出て看病するうちに、自分のことしか考えずに生きて来た半生を思い、自分も詐欺犯として捕まった男を待って、女の幸せをもう一度つかみたいと願う。

主演の、若尾文子、山本富士子、京マチ子…いずれも魅力ある大女優だ。心の移り変わりや情念、もの哀しさ、逞しさなど、それぞれの監督の演出通りに上手くこなしており、約30分づつとはいえ面白かった。

1960年代の日本映画には良質の作品が多いね。


脳出血により右片麻痺の二級身体障害者となりました。なんでも書きます。よろしくお願いします。