【古典邦画】「人間蒸発」

今村昌平監督の、1967(昭和42)年の作品「人間蒸発」。YouTubeにて。

フィクションをドキュメンタリーのように見せるモキュメンタリー作品で、プロではない素人の演者の演技が真に迫ったもので、確かにノンフィクションのようである。勘違いする観客も多かったのじゃないか。

このショッキングな演出は「映画は狂気の旅である」という今村監督らしい。

新潟出身の会社員、大島裁(32)がある日突然、行方不明となって、その行方を彼の婚約者・早川佳江と共に追うというもので、プロの俳優・露口茂(「太陽にほえろ」の山さん)がリポーター役で同行する。今村監督も同じ。

大島の職場から取引先、寄った店や飲食店、親族、友人、知人など、関係先をしらみつぶしに訪ねて回り捜索する。

次第に、婚約者も知らなかった大島の隠された一面が浮かび上がってくると共に、婚約者の姉と肉体関係を持ってたのでは、との疑念が持ち上がり、婚約者と姉は口論になってしまう。霊媒師に頼るシーンもある。

婚約者は、露口と同行するうちに、大島の行方不明よりも、露口に思いを寄せるようになってしまう。

例え、親しい間柄であっても、人は、接触する人によって幾つかの人格を使い分けるものであって、そういう人間の社会的個人というべき、幾つかの人格を、失踪者を材料に炙り出すような内容でなかなか興味深いものであった。

結局、大島の所在がわかるでもなく、婚約者と姉との口論から波及した近所の人も交えた議論(自己正当化)のうちに、映画は終了する。

観る方も引き込まれて、つい、「彼女はウソを付いている」などと口論に参加したくなる。

今村監督によると、ほとんどの演者(素人)がフィクションであることを忘れて興奮して参加してたらしい。


脳出血により右片麻痺の二級身体障害者となりました。なんでも書きます。よろしくお願いします。