【洋画】「過去のない男」

注目するフィンランドの監督、アキ・カウリスマキの2002年の映画「過去のない男(The Man Without a Past)」。

前に観た「愛しのタチアナ」や「浮き雲」がメッチャ良かったけど、コレも同様、素晴らしい作品だった。あ、レニングラード・カウボーイズも彼だったね。

作風は、モダンな感じがするけど、ジム・ジャームッシュよりも身近で、カメラを固定させ、間を大切にする小津安二郎にとてもよく似てる。

アキ監督の映画は、労働者や失業者、浮浪者など、下層階級の人間が主人公で、悲惨なトラブルに見舞われるものの、周りの助けなどもあって、ユーモラスに、徐々に回復していくという人間讃歌の物語が多いのだ。

美男美女ではなく、フツーにその辺を歩いてるオジサン・オバサンがメインなのだ(どっちかというとイケてない人物)。

フィンランドの庶民的な生の風景も見もの。

列車でやって来た労働者の男が、夜の公園で横になってると、3人組の不良の若者に襲われて、ボコボコにされて金などを奪われる。
ほうほうの体で病院に搬送されたが、奇跡的に回復する。
しかし、頭を殴られたことで、自分がなぜここにいて、一体何者なのか、それまでの記憶を全部失ってしまった。
港町で、底辺のコンテナに住む一家に救われて、同じく住む場所を手に入れて、救世軍の炊き出しに行く。
職安にも行くが、名前と証明書がないということで門前払いになるが、救世軍の事務所で雑務の仕事を得る。
そして、そこに勤める女性イルマと親しくなっていく。
男は徐々に記憶と人間性を取り戻していくが、彼の妻が行方不明者の広告を出したことで素性が明らかになる…。

男は「人生は前にしか進まない」と励まされるが、周りの人々が、自分も生活が苦しいのに、食事を与えて、寝る場所を提供して、仕事まで探してくれる。

アキ監督の映画は、決してバッドエンドではないために、安心して成り行きを見てられる。最後は必ず幸せな気分に浸れるのだ。

男は、救世軍バンドの路上演奏を見て、「こんな曲もやったらウケる」と助言してロックをやるが、その曲がまたノスタルジックでイイ!

男が気になってデートに誘った女性イルマが、ちょっとくたびれたような中年女性で、結局、男は妻と離婚が成立して、彼女の下に戻って来るが、処女のような初々しさで味があってまたよろし。

男が列車で寿司を食ってる場面でクレイジーケンバンドの曲が流れるね。

男は、嘆くこともなく、自分の境遇を受け入れて、徐々に新しい生活を自分で切り開いていく。逞しい。

人生は理不尽で絶望的でもあるが、前を向いて生きてれば、なんとかなるさとアキ監督が励ましているようだ。

過去を失った男を主人公に描く、ユーモアたっぷりの復活と再生の物語。


脳出血により右片麻痺の二級身体障害者となりました。なんでも書きます。よろしくお願いします。