【邦画】「お遊さま」

溝口健二監督の、1951年の作品「お遊さま」。Amazonプライムにて。

原作は谷崎潤一郎の小説「蘆刈」。

主演は、お馴染みの田中絹代だが、彼女が不幸のドン底に落ちるのではなく、周りの人間が不幸になっていく話だ。

小さな息子がいる未亡人の「お遊さま」(田中絹代)は、京都の名家で遊芸三昧の贅沢をして暮らしている。
妹のお静(乙羽信子)の見合いが決まり、彼女は付き添って行くが、見合いの相手の若旦那(堀雄二)は、お静ではなく、お遊さまに心を惹かれてしまう。

庭で、若旦那が初めて、お遊さまに出会うシーンで、お遊さまとお静が縦に並んで歩いているために、若旦那からは、すぐにお遊さまが目に入り、お静が彼女に隠れて見えないというニクイ演出。溝口監督の技が冴える。

結局、若旦那とお静は結婚することになるが、若旦那の心には変わらずお遊さまがいて、お遊さまも若旦那を想ってる風だった。
お静はそれを知ってて、対外的に、名前だけの妻となることを若旦那の前で宣言し、事あるごとにお遊さまを呼んで、3人で遊びに興じる。
お静は、若旦那とお遊さまの間の架け橋になることを望んだのだ。

なんとまあ悲劇的であることよ!お静は、それだけお遊さまを慕ってたということだが、いくらなんでもそれはないだろう。自分を殺して、自分の一生を台無しにして若旦那とお遊さまの間を取り持つなんて!

お遊さまは、お静の結婚を強く勧めて、若旦那とお静が、そんな心づもりであることを全く知らなかったということだが、お静の結婚前に、お遊さまが貧血を起こして通りでしゃがんでいたところを、偶然、若旦那が通りがかり、近くの宿屋で、介抱して寝かせていた時に、起き上がったお遊さまが若旦那を見つめる眼は、まさに女の眼で、シナを作って若旦那を誘うような仕草をする。意識せずとも、男を惑わしてしまう、こういう女って確かにいるよねー。

結局、男のカンチガイに過ぎないのだが、メスの本能が全面的に出ちゃうような。3人で遊びに興じてる時のお遊さまの若旦那に対する接し方が正にそれだ。

田中絹代っておたふく顔でそんなに美人でもなく、乙羽信子の方が全然美人なのだが。

そんな関係も、周りの噂で問題となって、お遊さまは、自分のためにお静と若旦那を不幸にしてると自覚して、兄の勧めるままに、ある酒家の主人と再婚となって、お静と若旦那の元から去る。

若旦那の家は没落し、彼はお静と東京で侘しく暮らすが、お静は若旦那との間に子を設けて幸せであった。しかし、産後、病気になって死んでしまう。

一方、再婚したお遊さまは酒屋の豪華な家で、以前の如く遊芸三昧の贅沢な日々を送ってる。その門前に捨て子があったと女中が連れて来た赤ん坊は、死んだお静の子で若旦那が託したものであった。お遊さまは赤子を抱いて、育てる決心をする。

最後の、月明かりの下で若旦那が唄う場面なんぞ、モノクロといえども、メッチャ美しい。激しく人を想う情念の様子と、対する自然の美のコラボ、溝口監督の演出する日本的美は、ホントに素晴らしいと思う。


脳出血により右片麻痺の二級身体障害者となりました。なんでも書きます。よろしくお願いします。