【洋画】「ブリキの太鼓」

なんと!フォルカー・シュレンドルフ監督の名作「ブリキの太鼓(Die Blechtrommel)」(1979年、西独他)がAmazonプライムで観れるなんて!

しかも20分以上追加のディレクターズ・カット版。2時間半を超える長い映画だけど。

若い頃に観た時は、描かれた不協和音のような奇妙な世界が大変面白くて、「あ“ー!」って叫びながら太鼓を叩くマネをしてたものだぜ。

第二次大戦期のポーランドを舞台に、3歳で、自ら階段から落ちて頭を打って、成長することを止めた少年オスカルを中心に、1945年の終戦までを描いたもの。

奇声を上げて、オモチャの太鼓を叩いて、ガラスを割るという力を持つオスカルと、従兄弟と肉欲に溺れて身籠り死んでしまう母、同じく若い女を追いかけてナチ突撃隊に入る父、親衛隊の小人他フリークスなど、たくさんの特異なキャラクターが登場する。

しかも、ダイレクトな性的描写やグロなシーンも満載で、公開当時、各国で上映禁止となったのだ。

ギュンター・グラスの素晴らしい小説(なんと処女作!)が原作。

ポーランドというナチスが支配する国で、小市民たちのエロスのパワーとユーモア溢れる偏執的な矛盾する行動、フリークスたちの狂乱の世界。引いては、その世界がナチスそのものを表している。

そこで、いつまでも子供のままのオスカルが太鼓を叩いて叫ぶ。郵便局襲撃事件など史実も入れながら、大人の社会の矛盾と理不尽、醜さを、目を見開いてジィッと観察して、リセットするようにガラスを割るのだ。

ポーランドの不幸な暗黒の歴史を表しているのかもしれない。

両親と母と不倫をしていた従兄弟も、オスカルが原因となって死ぬことに。

登場する女性はキレイで高貴な気品を持ちながらも、トコトン猥褻で躊躇することなく性に溺れる。子供のオスカルとHなことをするシーンも出て来る。

突撃隊の父が参加する集会のシーンで、凛々しいナチの行進曲が流れるパレードの最中、演説台の下に潜り込んだオスカルが太鼓を叩くと、行進曲がワルツに変わり、党員他皆でカップルとなって、楽しそうにワルツを踊るというシーンは、とても秀逸な反逆的内容で感動してしまう。

戦後、ソ連軍が占領、父の葬儀で頭に石が当たって、オスカルは成長を始め、若い義母と一緒にポーランドを去って行く。祖母に見送られながら。

つまり、ナチス支配の時は成長を止めて、さらにソ連に支配されることになって、成長を始めるものの、国を出て行く…ポーランドの暗い政治的状況を暗示しているようだ。

やはり、珠玉の名作だと思う。

「ラスプーチンとゲーテを行き来する、悪魔的なページの後に明るい場面が続く。人生もまた然り」

「我々に観客席はない。芸を見せて演技をする。でないと舞台を奪われる。奴らが来ると、人を集めて、我々のようなものを滅ぼそうとするんだよ」

「小さ過ぎる僕らは必ず再会するんだよ。全く成長しないままで見事だ」

「我々、小人や道化は大男のためのコンクリートで踊ってはいかん」

「オスカル、なすべきか、なさざるべきか。お前は孤児だ。やはりなすべきか。僕は成長するのだ」

JAPANの「tin drum」はココから取ったのかなぁ。


脳出血により右片麻痺の二級身体障害者となりました。なんでも書きます。よろしくお願いします。