【映画】「野いちご」
イングマール・ベルイマン監督の「野いちご」(1957・スウェーデン)。
ベルイマン監督の代表的な作品で前に観たと思うが、スッカリ忘れてる。
夢の中の描写も加えて、晩年を迎えた老教授が自分の人生を振り返る詩のような秀作。これぞアート作品とも言える映画だ。
大学の名誉学位を受けることになった老教授イーサク。
授与式の前日、イーサクは自分が棺桶に横たわって死ぬ夢を見る。
彼は授与式が開かれる地方都市まで、電車ではなく義理の娘マリアンヌと共にクルマで向かうことにするが…。
途中、旧邸に寄って、青年時代に婚約者を弟に奪われたことから、妻がイーサクの無関心に耐えられずに違う男と不貞を働いたことなど、若い頃の苦悩の時期を思い出す。
昔の出来事をうたた寝で見た夢で思い出すシーンはシューリレアリズムみたいで渇いた不気味さがあって素晴らしい。
さらに、マリアンヌに今、息子との間に子供がいないのは息子がイーサクの無関心を見て育ち家庭に絶望しているからだと告げられる。
その間、イーサクとマリアンヌはクルマで向かう途中、様々な人たちに出会う。ヒッチハイクの少女とそのボーイフレンド、ケンカばかりしてる夫婦、イーサクを慕うガススタンドの夫婦、そして、イーサクの高齢の母親…。
これらの人々に出会って、自分のこれまでの経験を思い出して、教授としての輝かしい名声とは裏腹に、イーサクの人生はとても虚しいものであったことが初めてわかる。
イーサクは、すでに老境にあるが、過去を悔やんで、新たな人生を歩む人々に接することで生きることの充足感を味わうことができるようになったのだ。
自分なりの満足する人生に気付くのに歳はそれほど関係ない。夢も絡んだ半日程度の小旅行だったわけだが、イーサクは自分の人生を振り返るまたとない良い機会を得たのだね。
実は、後に幸せな人生を送れたと感じるのは、大きな名誉でも名声でもなく、身近な周りでのちょっとした優しさや愛なのかもしれないね。
ベルイマン監督は当時、私生活でも大きなトラブルを抱えており、それがこの映画を撮るキッカケになったという。
さすが名作だ。
脳出血により右片麻痺の二級身体障害者となりました。なんでも書きます。よろしくお願いします。