「九州大学生体解剖事件」

遠藤周作の小説「海と毒薬」と、同小説を原作とした映画でこの事件は知ってた。

終戦直前の1945年春、阿蘇で撃墜したB29、2機の乗組員のうち、捕虜とした8人が、九大・医学部の解剖実験室で生体解剖(生きたままでの解剖)された事件だ。

本は、当時、医学部第一外科の助教授であった鳥巣太郎の姪にあたる著者が、戦犯裁判記録や再審査資料、親族の証言などをもとに事件の全貌に迫った内容。

鳥巣は、戦後に行われた戦犯裁判で、当初、生体解剖をやった首謀者の一人として死刑判決を受けたが、判決に徹底的に抵抗する妻(奥さんが強くて行動力があって素晴らしい)の嘆願書と再審査請求で禁錮10年に減刑された。

鳥巣は、妻の意向もあって、生体解剖には反対、4回行われた手術のうち、命令として参加させられたのは最初の2回だけ(しかも消毒やガーゼを渡したりする補助的な役割に専念)だったという。

本当の首謀者とされる教授は裁判の前に遺書を残して自殺してる。

案の定、軍部も九大も知らぬ存ぜぬの責任回避。

戦争終結後、すぐに関係資料は焼却処分にされたため、関係者の証言で、捕虜に関しては「そちらで適当に処置せよ」との通達があったというが、もう組織的な関与は火を見るよりも明らかってもんだ。

鳥巣は、単独で教授に生体解剖反対の意向を伝えに行ったが、いわゆる“いい人”だったらしく、裁判では仲間を救うために、「仲間も一緒に」と証言したらしく、そんな彼の性格から、上から責任を押し付けられた感じだ。

戦後、「優秀な教授による、この生体解剖がなかったら医学の現在の発展は遅れた」とする意見も医学会には少なくないらしく、この構図は、731部隊にも通じるだろう。

日本の場合、組織はほとんど責任は取らないものだし、結論ありきの頭の悪過ぎるネトウヨみたいなクズ連中が、731や南京事件も含めてサヨクの捏造だと声を上げやすい案件だと思われる。

実際には、血管に薄めた海水を注入して代用血液の開発の実験や、肺を切除して結核の治療法確立のための実験、心臓・肝臓・脳を切除して新しい手術法の実験、どれだけ出血すれば人は死ぬかの実験等が行われたという。

確かに医学を突き詰めていけば、生きたまま解剖していろいろと調べたいという欲求が出てくるのはわかる。自分の身体では実験できないからね。医学のためというより、神への挑戦かもしれないが、生命の神秘を確かめたいという人間の探究心は限りないと思う。だから状況が許せばやってしまうのだろう。生体解剖実験は世界中で起きてると思う。

逆に、現実的な医学(科学)も究極まで進むと、非現実的なオカルトに近くなってくる。それは最終的に人間そのものをイジることへの無意識的な恐れや自然への畏敬から来てるのかもしれない。

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脳出血により右片麻痺の二級身体障害者となりました。なんでも書きます。よろしくお願いします。