「絶筆」

野坂先生、急逝(2015年12月9日)のわずか数時間前、絶筆までの日記。享年85。

「今の若い奴らは、とひとからげにして文句を言うのは、老いの常套句である。だがもはや、ぼくにとっての若者とは、ひたすら気の毒な存在」と書いているように、老年になると誰しも今に対してグチっぽくなるもの。今に合わせるとムリが目立ってしまい浮いてしまうもので、気の毒な存在とは、まさに老人のことであると思う。

“焼跡闇市派”としての文学はもとより、政治の世界にも関わって来たことから、政治や世相に対して、不満を書いたりもしてるが、それはほとんど面白くもなんともない。

72歳の時に脳梗塞で倒れてからのリハビリの様子や愛猫のこと、孫との交流などなど、何気ない日常の話題が興味深く読める。

初めて稲垣足穂と会った時、緊張から深酒してしまい、稲垣邸に辿り着いて足穂に会うや否や、その場で「足穂さん、キスしよう」と、いきなり足穂のハゲ頭を抱え込んでキスを始めた、というエピソードは野坂先生らしくてイイね。

「妻は伴侶であって、女じゃない。女房一筋は女嫌いのうちであろう」とか、「女性は人類ではない。人類を超えた存在。男は戦争ばかりして資源を無駄にし続けている。人類の破滅、文明の破壊を招くのは男。女性は男よりずっと自然に近いからこそ、本能の赴くままに生きて、間違いはない。今こそ男と女の立場を逆転させるチャンスである。僕は身近にいられる女類を拝みながら日々暮らしている。これ長生きのコツ」など、このお爺さんは面白いことをいう。


脳出血により右片麻痺の二級身体障害者となりました。なんでも書きます。よろしくお願いします。