【古典洋画】「郵便配達は二度ベルを鳴らす」

故・高橋幸宏氏が「この映画を観たら女が嫌いになる」と評したのをどこかで聞いた、名匠ルキノ・ヴィスコンティ監督の長編処女作「郵便配達は二度ベルを鳴らす(Ossessione)」(1943年)。Amazonプライムにて。

原作のことかなぁ、全然そうじゃないけどさ。

それより、別に郵便配達人が出て来るわけではなく、なぜ、このタイトルになったのかが謎だ。

原作者の承諾を得ずに映画化されたため、長らくお蔵入りになってたヴィスコンティの“幻の処女作”らしい。

イタリアの田舎町を舞台に、不倫の関係に陥った男女が、最終的に女の夫を殺してしまうという犯罪サスペンスではあるが、不倫カップルの息が詰まるような不道徳な愛憎を中心に描いたものだ。

女ジョバンナと風来坊の男ジーノが、ジョバンナの歳の離れた夫を不慮の事故に見せかけて殺すことには成功したけど、彼女が望んでいた、夫のいない元の生活に戻れば、たちまち退屈してしまうジーノ。酒を飲んでくだをまくことしかできなくなる。

現実的な女と刺激を求めて夢を見る男の違いだ。

そのうちに、事故を不審に思った警察が近辺を嗅ぎ回ることになって、ジョバンナも引きずられるように逃避行へ。前が見えない霧の深い道路で事故を起こして、ジョバンナは死ぬことに…。

ジョバンナとジーノが出会い、夫の留守中に親密になって、2人は駆け落ちするが、ジョバンナは生活への不安から戻って、ジーノは1人で旅に出る。そして、偶然にもまた再会して、いきなり、事故に見せかけた夫の殺害を実行するのだが、全てが、計画的ではなく、その場の短絡的な判断で動いている。

ジョバンナの官能的な振る舞いや、ジーノのその場の破滅的な行動が、モノクロで描かれるイタリアの田舎町の美しい風景によって、ドロドロとした人間臭いものではなく、サラッとオシャレなフィルム・ノワールとなっているところは、さすがヴィスコンティ監督だと思う。

ただジョバンナが血を流して、眼を開けたまま、横たわって死んでいるラストシーンは衝撃的。ダメな男を愛して最後まで尽くした女の突然の悲劇だ。


脳出血により右片麻痺の二級身体障害者となりました。なんでも書きます。よろしくお願いします。