ごますり


昨年末、ブラックフライデーという言葉に初めて心が動き、しばらく欲しかったものなどを探してみていた。その一つが、すり鉢とすりこぎ。親戚の叔母が一人暮らしをはじめるときにあげようかと言ってくれたのが持ち手が木の皮のついた本格派のすりこぎ。そして、青菜をしっかり混ぜられる程よい大きさのすり鉢だった。調べてみるとすり鉢を専門に作っている工房の大小様々なセットがあった。

実家では、祖父が納豆汁の納豆や白和えの変わり種の厚揚げをするのに使っていた。当時はそこまで必要に思わなかったのだが、急に欲しくなってきた。すりごまはやはりすりたてがおいしいのだ。

この間、前の職場の方と京都まで散歩に行ってきた。今回はカレーを食べましょうかということで、目当てのカレー屋に行ってみると、10人ほど並んでいる人がおり、店内もそれなりに混んでいる様子。並んでまで食べるつもりのなかった二人は、そのもう少し先にある別のカレー屋を目指すことにした。流石の京都。別の筋へ入ればあっという間にカレー屋が見つかる。ここにもあそこにもカレー屋。入ったお店は、壁にシルクスクリーンの大きな木の絵ががかけてある、とても素敵な雰囲気のお店だった。壁が黒っぽいのも落ち着いていい感じ。上の階へ登っていく。
私はヨーグルトベースのカレーを選んだ。中に天ぷらが入っているという。友人はバターチキンカレーを。2階に運ぶのは難しいだろうと言っていたら、後ろの扉の先に運ぶ用の小さなエレベーターがついていた。私のカレーが運ばれてくる。隣の席の二人のタンドリーチキンがあまりにも美味しそうでちらりと見ながらも、私のお皿もちゃんと魅力的だ。

カレーの入れ物は、白い陶器の両脇にライオンの飾りのしてあるものだ。白い厚めのお皿にはふんわり厚過ぎないナンがお皿と同等の大きさでのっており、ぺらりとめくると、付け合わせが添えてあった。いんげんとトマト、クセのないマスタードシードのようなものが和えてあるもの、ひよこ豆のペースト、スパイスで炒めた野菜がほんの少し三箇所、上品にのっている。その繊細な感じが、フレンチを食べているようでとても美しい。

集中して食べた後に、二人でこの半年のことをこれでもかというくらい話しこんでいると、さっと横から小さなカップアンドソーサーを運んできてくれた。チャイだ。なんと1000円でチャイまでついてくるとは、侮っていた!

「これがね、スパイスはすり鉢ですると美味しくなるのよ」

友人が言った。こんな、小さなすり鉢を百均で買ってきてね、カフェで出してるよ。
ああ、そうだった。その人はカフェをしているんだった。地域の人がふらりと現れるカフェ。スパイスを注文と同時にすりはじめるから、チャイを飲みに来る常連さんもいるということだ。
あまり力が強く、勢いがあるとブラックペッパーが飛んでどこかにいってしまう。あとはカルダモンとシナモン、月桂樹の葉っぱも一緒にごりごりと擦る。チャイならインド人に聞いてみようと聞いてみたレシピで作っているとのこと。

すり鉢でする作業は、子どもも好きだそうだ。ごまをする手の動き、そして擦ることでごまが香ってくるその変化がどうやらからだや脳にもよいらしく、教育法の一種で、ゴマすりをするこどもの活動もあるらしい。みんなごますりが好きで、持ち帰ってその日はどのお家もこま和えになるとかならないとか。

柿が出てくる季節になると、すりつぶした厚揚げと茹でた春菊を白胡麻の衣で和える白和えが食べたくなる。ああ食べたいなと思いつつ、年末のブラックフライデーのときは、壊れてしまった泡立て器を新調するのみだった。

すり鉢でごまをするの、やはりいいなあ。次の機会を見つける。

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