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洋なしです

しばらく天気の良い日が続いている。自転車に乗ろうと思ったら空気が入っていなかった。そういえば、夏に蚊に刺されそうになりながらポンプを押してから空気を入れていないのではないかとふと思い、少し乗ってからUターンして歩いて行く。
今日は実家から荷物が届き、その中にゴロンと大きなラフランスが入っていた。「東根市神町産」と書かれている。ふと、小学校の友人がたまに「神町のおばあちゃん」と言っていたのを思い出した。じんまちって東根の地名だったのだ。
ラフランスはジューシーで、届いてもう早々に食べごろの香りがした。ちょうどいい触り心地というのは、押したら僅かに弾力を感じるぐらい。ごろんごろんとしたこれら全てを明日明後日までおいしく食べ終えるのは、もったいなくて、無理そうだ。美味しいものは美味しいうちに。
息を上げながら重い荷物を上まで運んできてくれた配送業者さんの荷物をもう一度下に下ろす、いかにも重り運びのような気持ちで、そのいくつかを肉まんの入っていいた赤い紙袋に入れ、友人宅まで運ぶことにした。
強そうな、ツヤっとしたダウンジャケットを着て歩く。寒くても、暖かい格好をすればいい。

赤い紙袋をぶら下げながら、すたすた歩く。
スーパーの手前で、台車を片手で押すお兄さんが前からやってきた。片手で押している様子は配送業者のような、とても小慣れた感じだ。いつもの私であれば、顔を下に向けて見ないようにして通り過ぎるのだが、今日は何故か顔を上に上げて宙をぼんやり見ながら歩いていた。知り合いもそんなにいないこの町で、正面を歩いて困ることもないだろう。
そんな中、お兄さんは急に話しかけてきた。
「お姉さん、今いいですか?」
セールスか。広告も何も身につけてない、無味無臭の無印の雰囲気を出しながら、急にお姉さんと言われるとは思わず、ふうとため息をつく。お姉さんか。「急いでいます」とすかさず伝えて去る。

この街はのんびりしているようで、ぼうっとしていると宗教の勧誘をされることがある。今回は商品の紹介だと思うのだが、それにしても平日に一人で歩いていると、話しかけやすく、乗りやすいとでも思われているのだろうか。それとも、その人が平日勤務の仕事をしているだけなのか。
前にある人が、朝のテレビ番組の終わりに「どんな仕事にも意味があります」と言っていたことを思い出す。みんな、働いているのか。

そんなことはさておき、友人宅へ向かった。「ラフランスいる?」というLINEに返事はなかったけれど、この気温の低さであればもし数日留守にしていても大丈夫だろう。そうしてサッとドアノブ便をしたのちにまたあのグレーのパーカーのお兄さんが勧誘しているのを見かけて笑ってしまった。今日の担当エリアなのか、ここが。

帰りにカフェに寄る。勉強道具を出して寝ている高校生。本を熟読しながらゆったり過ごしている方。席はコロナ禍の頃よりも一人席が増えているように感じた。
席に座ると、ものすごく腰の曲がった高齢の女性が歩いてきた。背筋が伸びることはなく、曲がったまま、僅かに上を向いたり下を向いたりしている。近くのメニュー表を取りに立ち上がる。ゆっくりと上を向いて棚に手を伸ばす。するとクリスマス飾りに手が引っかかって、周りのものが全て下に落ちてしまった。大丈夫かなと思う。ツリーを拾うが、なかなか縦に立たない。置き直すがもう一度落としてしまい、なんとか元に戻すがしまいにはツリーは平置きになってしまった。この方は何事もないようにスッと拾って席に戻って行った。大丈夫か。みんな、何事もない。

日頃から、なんとなく人を見て「大丈夫かな」と思うことが多い。自分が大丈夫かな、の裏返しなのかもなあと思う。見守ってその後その人がどうしていたか、それだけで終わって良いのかもしれないと。用なしかもな。
少し勉強を進めて、もこもこの無敵のダウンを着て、家に帰った。夕食後に食べたラフランスのそれはもう美味しかったこと!

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