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賢者さんの物語

 僕たちが大魔王ゾーマを倒し、アレフガルドに再び平和が訪れて早数か月がたった。
 最初の一月ほどは、それこそ僕たちは英雄あつかいで、様々な行事に参加するうちにあわただしく時間が過ぎた。そしていったん落ち着いた頃になって、僕たちはこれからの自分たちの生活について考え始めた。というのも、ゾーマを倒してアレフガルドに光が戻ったのは良かったものの、同時に上の方で何かが閉ざされる音が聞こえ、僕たちは「上の世界」に戻ることができなくなってしまったからだ。そのため、僕たちはこれからこのアレフガルドで生きていかねばならなくなった。
 僕の旅に巻き込んでしまったために、故郷に帰ることのできなくなった三人の仲間たちには申し訳ない気持ちでいっぱいになったが、彼らはこの状況を受け入れてくれた。そしてこの世界で生きていくための道を、それぞれ考えようということになった。
 しかし僕たちはこの世界のことをほとんど知らなかったし、また生活の基盤もなかったので、まずは一月ほど、それぞれ別々にこれからの自分の生き方を探す旅に出かけようということになった。そして今日、一月ぶりに四人が再会し、それぞれの進路について報告し合うこととなったのだ。

 僕たちはラダトームの街の宿屋のパーティールームの一室を借り上げて、四人で食事をともにしながら話をすることとなった。食事は魔法使いさんのリクエストで、サマンオサ風の多国籍料理が振る舞われた。メインは牛肉を串にさして焼いたシュハスコで、他にも鶏肉をキャッサバの皮で包んで油で揚げたコシーニャや、平たいパンの上に挽肉やチーズなどをのせて焼いたエスフィーハ、トウモロコシや豆を素材とした様々な料理が大皿にのって運ばれてきて、僕たちはそれぞれの小皿に取り分けながら舌鼓を打った。酒はワインが用意されたが、酒に強い魔法使いさんはサトウキビの蒸留酒にライムを入れたカクテルを飲み始めた。
 こうして四人で食卓をともにしていると、旅をしていた時のにぎやかな雰囲気が思い出された。僕はアリアハンのルイーダの酒場で、魔法使いさん、僧侶さん、賢者さんの三人と出会い、それからずっと一緒に長い旅をしてきた。
 ルイーダの酒場は冒険者たちが集まる場所で、魔王バラモスを倒す旅を始めた僕が一番最初に訪れたところであった。そこで最初に話したのが魔法使いさんであった。赤髪の小柄な女性で、第一印象は少女のような幼い雰囲気であったが、話してみるとしっかりした性格であることが分かり、すぐに意気投合してパーティーを組むこととなった。旅を続けるうちに彼女の魔力も大きく成長し、攻撃系の呪文を得意としていたことからパーティーの重要な火力の担い手となった。特にメラゾーマなどの炎系統の呪文を得意とし、時にドラゴラムの呪文で火竜に変身し、炎の息で敵を焼き払うことから、魔物たちの間でも「炎の魔女」と呼ばれ恐れられていたといわれる。またパーティーではそのしっかりした性格から会計係としての役割も果たしてくれた。
 ルイーダの酒場で次に声をかけたのは僧侶さんだった。僕より年長の落ち着いた雰囲気の男性で、その柔らかい物腰の言動から徳の高さを感じた。彼は回復系の呪文を得意とし、戦闘ではもっぱら攻撃にまわる僕と魔法使いさんのサポートにつとめ、まさにパーティーの大黒柱であった。
 幸先良く頼もしいメンバーでパーティーを結成することができたので、僕たちはいざ旅立とうとしていた。するとそこに、先ほどまで給仕として働いていたバニーガールの女性が駆け寄ってきて言った。
「勇者さま、あたしも仲間に入れてください!」
 その様子を見て僕たち三人は呆気にとられていたが、まず魔法使いさんが口を開いた。
「あなた、何なの!私たちは遊びに行くんじゃないんだからね」
 そう言われてバニーガールの彼女は答えた。
「大丈夫!お店にはすぐに辞表出してくるし」
「……あんた、バカなの?」
「あたし、勇者さまを一目見て、運命の人だと分かったの。一生ついて行くわ!」
「ちょっと勇者さま、あなたからも何か言ってあげてください」
 しばらく要領を得ないやり取りが続いたが、バニーガールの彼女は意地でもついてくる様子だった。最後には僧侶さんが、
「危なくなったらすぐにアリアハンに帰しましょう。これも神の思し召しかもしれません」
と落ち着いた口調で言ったので、僕も彼女をパーティーに加えることを承知した。魔法使いさんは最後まで抵抗したが、
「足手まといになったら砂漠の真ん中ででも置いていくからね!」
と言ってしぶしぶ承知した。
 これが賢者さんとの出会いであった。
 しかしこの時の彼女はまだ賢者ではなくただの遊び人に過ぎなかった。呪文も何ひとつ使えなかったし、今まで剣を持ったことすらなかったので、冒険者として何の資質も持ち合わせていなかった。
 予想通り彼女は戦闘でも逃げ回っているうちに脚を絡ませて転んだり、不思議な踊りをしてみせたり、出来もしないイオナズンの呪文を唱えようとしてみたりと、僕たちの足を引っ張ることしかしなかった。そしてそのたびに魔法使いさんから厳しく叱責された。
「ほんとうにあなた何なの?せめて余計なことはせずにじっとしててちょうだい。あなた、私より少し背が高いと思っていい気になっているんでしょう。ほら、勇者さまからもっと離れなさい。今度ふざけたことをしたら、僧侶さんに頼んでバシルーラで強制送還するからね!」
「勇者さま、こわーい」
 まるで役に立たない彼女であったが、持ち前の運の良さからか、ほとんど大きな怪我をすることもなく旅について来ていた。そして僕たちが窮地に陥ったときも、なぜか彼女の幸運で難を逃れることがたびたびあった。
 そんな彼女が変わったのは、大陸の奥深く、標高の高い山々に囲まれたダーマ神殿にたどり着いた時だった。ここは転職を司る神殿と言われており、多くの転職を希望する冒険者たちがここを訪れていた。
 ただ、あいにく僕たちのパーティーには転職を希望する者はいなかった。僕は勇者という特別な職業であったため最初から転職することはできなかったし、僧侶さんも、
「うちは代々、僧侶ですし、私もいずれは実家のお寺を継がないといけないので……」
と言った。魔法使いさんも、
「私も今は魔法使いを極めたいのよね」
と言った。
 僕たちは神殿を立ち去ろうとすると、坊主頭に真紅の袈裟を着た神官が追いかけてきて、
「そこのお方。あるいはあなたこそ、賢者になることができる素質をお持ちかもしれません」
と言って遊び人の彼女を呼び止めた。
「神官さま、ご冗談でしょう?こいつ、ただのバカですよ」
 魔法使いさんはそう答えたが、神官は、
「何も考えていない天然のバカこそが、最も悟りに近い者なのです」
と真面目な顔で言った。
 こうして遊び人の彼女は晴れて賢者となった。賢者の叙任式が厳かに執りおこなわれ、彼女は賢者の正装であるノースリーブのローブとマントを着用し、頭には冠を付け、手には杖を携えた。こうして見ると馬子にも衣装とは良く言ったもので、彼女も立派な賢者に見えたのだが、そのうち彼女はくるぶしまであるローブの裾が邪魔だと言って、太ももがむき出しになるミニスカートほどの丈まで裾上げを施した。さらに胸元も、胸の大きさと谷間を強調するために何か細工をしたようだった。
 かくして賢者の歴史上でもおそらく、最も頭の悪そうな格好をした賢者が誕生した。とはいえ慣れというものは恐ろしいもので、スカートがまくれ上がって太ももむき出しの格好で、イオナズンやバギクロスといった強力な呪文を唱える彼女の姿は、それなりに頼もしく見えるようにもなった。しかし賢者になっても彼女の頭の中身はまったく変わっておらず、ここぞという肝心な時に、何が起こるかわからないパルプンテの呪文を唱えて、あわや窮地に陥りかけたこともあった。

 僕たちは食事をしながら、まずはこの一月ほどをどのように過ごしたかなどといった雑談を交わし、そこそこ料理の方も一段落したところで、それぞれ順に自分の進路について発表することとなった。
 ところがこの段になって僕は落ち着かない気持ちにとらわれた。実のところ、今日になってもこれからの進路を決めかねていたのだ。ゾーマを倒すという大きな目標を達成したがゆえに、燃え尽き症候群というほど深刻なものではないにせよ、次の目標を見つけられないでいたのだ。
 まずは僧侶さんから発表することとなった。彼はこの一月の間、アレフガルド中の街や村を訪ね回っていたという。
「私は、ゾーマによって家族を失った人々を支援する仕事をしたいと思っています」
 そう言って、彼は各地で見てきた状況について語った。平和は戻ったものの、魔物たちによって家族を殺されたり、深刻な怪我を負わされた人たちが多くいる。とりわけ親を殺された身寄りのない子供たちや、夫を殺され一人で子供たちを養わなければならない女性たちへの支援が急務だという。そこでまずは、そうした子供たちや女性たちが暮らせるための施設を建設したいと語った。
 僕たちは、さすがは徳の高い僧侶さんの考えることだと感心した。そして旅で蓄えたお金のうちからも、その建設費や運営費にいくばくかの寄付をしようということで、皆が同意した。
 次は魔法使いさんの番だった。彼女はこの一月の間、ラダトーム城の宮廷魔術師団から依頼されて、魔法の指導にあたっていた。そのためほとんどの時間をラダトームで過ごしていたはずである。
「実はね、私...…王子さまからプロポーズされたの!」
 魔法使いさんがそう顔を赤らめて話したので、僕たちは皆、大きく驚いた。
 聞くところによると、宮廷魔術師団への指導のために城に通ううちに、現在の王様の孫にあたる青年に見初められ、ついには交際するようになったのだという。王子は年齢も魔法使いさんとそれほど変わらず、また王族にもかかわらず誰に対しても敬意を持って接する謙虚な人物のようである。きっとお似合いの夫婦になるだろうと、僕たちは皆で彼女を祝福した。
 そして次は賢者さんの番だった。なお彼女はこの一月、ほとんどメルキドの街にある格闘場に入り浸って賭け事に興じていたようである。
「あたしは最初っから決めている通り、勇者さまについていくわ」
 彼女は無邪気な顔で言った。
「勇者さまと結婚して、子供をいっぱい産んで、明るく楽しい家庭にするのがあたしの夢なの」
「あなた、それ、ちゃんと勇者さまの許可もらっているの?」
 魔法使いさんがそう言うので、僕はあわてて首を横に振った。それでも賢者さんは意に介さない様子で、ずっとニコニコしていた。僕たちは皆、いつものことながら呆れてしまった。
 こうして仲間たちの新しい人生の話を聞いているうちに、僕はあることを思い出していた。それは僕たちがまだ旅をしている時に、「上の世界」のアッサラームの街で出会った不思議な占い師のことであった。

 アッサラームの街は、文明の十字路と呼ぶにふさわしく、様々な民族の、様々な旅人や商人が行き交っていた。バザールには多くの商店が軒を連ね、人々が行き来していた。ただこの街独特の商慣習のため、商店で売られている品物には値札が付いておらず、買い物をするたびにその都度、店主と交渉しなければならなかった。そのため薬草ひとつ買うにも小一時間かかってしまうこともあった。
 そんな街角に、一人の占い師が机を出して座っていた。サリーをまとった若い女性であり、肌は浅黒く、髪はストレートのロングで、はっとするくらい目鼻立ちの整った顔立ちであったが、必要以上に目立たないように意識しているのか、抑え気味の化粧を施していた。
 そんな彼女がふいに僕たち一行に声をかけてきた。彼女によると、僕たち一行の「星」の強さが気になったので、代金はいらないからぜひ占わせて欲しいというのであった。多少、うさん臭さは感じたものの、興味本位で占ってもらうことにした。
 占い師が用いたのはタロットカードで、大アルカナと呼ばれる22枚の絵札の束から一枚を選んで引くと、その内容がその人の進むべき道を示してくれる、というものであった。
 まず占ってもらったのは僧侶さんだった。彼は伏せられた22枚のカードの束から一枚を選び、それを表にすると、そこに描かれていたのは左手に杖を手にし、右手を上に掲げた聖職者の姿であった。カードの上にはローマ数字の「V(5)」が書かれており、カードの下には「教皇(The Hierophant)」の文字が描かれていた。
 これを見て占い師は、
「あなたのカードは徳や慈悲を表すとともに、精神的な指導者を表しています。あなたはこのカードのように、徳と慈悲を備えた指導者として生きていくことが指し示されています」
と告げた。
「おそれ多いカードを引いてしまい、恐縮です」
と僧侶さんはかしこまって答えた。僕たちはいかにも彼らしいカードの内容だと思った。
 次にカードを引いたのは魔法使いさんだった。彼女が引いたカードには、椅子に座り、右手に持った杖を掲げ、頭には冠をかぶった女性の姿が描かれていた。カードの上にはローマ数字の「III(3)」が書かれ、カードの下には「女帝(The Empress)」と書かれていた。
「私だったら「魔術師(The Magician)」のカードがぴったりかと思ったけどね」
と、どうやらタロットの知識があるらしい魔法使いさんが言った。
 占い師は、
「あなたのカードは繁栄と豊穣を表すとともに、結婚を表しています。きっとあなたは幸せな結婚をし、その家はいつまでも繁栄することでしょう」
と言った。
「あら、うれしい!どんな素敵な方と結婚できるのか、楽しみだわ」
 魔法使いさんはそう言って、僕の方をちらちら見ながら上機嫌な様子だった。
 続いて僕の番となった。僕が引いたカードには、両手にバトンを持った女性が描かれ、その周りには輪になった綱が描かれていた。カードの上にはローマ数字の「XXI(21)」が書かれ、カードの下には「世界(The World)」と書かれていた。
 これを見た占い師は、一呼吸おいてから、こう語った。
「これは22枚ある大アルカナの最後のカードで、とても深遠な意味を持つものです。それは一言では言い表せないのですが、あえて言うなら、完成や調和を表しています。またこの人物の周りに描かれた輪は、無限の循環を表すとともに、アラビア数字のゼロ、すなわち「無」も表しています。これらのことがあなたの人生にどのような意味を持つのか、今の私にはわかりませんが、あなたはぜひこのことを覚えておいてください」
「勇者さま、すごいわ!きっとこれは勇者さまが世界を救われることを意味しているんだわ!」
 魔法使いさんがそう言ってくれたので、僕は照れ笑いを浮かべた。
 そして最後は賢者さんの番だった。彼女の引いたカードには、杖を肩にのせて軽やかに歩く若者の姿が描かれていた。若者は派手な服に身をつつみ、杖の先には荷物がくくり付けられていて、その足元には後をついてきた白い犬が描かれている。おそらくこの人物は旅をしているのであるが、その道の先は断崖絶壁となっており、背景には白波が描かれている。カードの上にはアラビア数字の「0」が書かれ、カードの下には「愚者(The Fool)」と書かれていた。
「あはははは!あたしにぴったりのカード」
 賢者さんは愉快そうに笑い声を上げた。

 そしていよいよ僕が進路を発表する番となった。僕は居心地悪い気分で、
「実は……」
と言いかけた時、突然、賢者さんが大声で、
「勇者さま!お渡しするのを忘れてました。お母さまからのお手紙」
と言って、一通の手紙を取り出した。
「アリアハンで勇者さまのお家にみんなで泊まったことがあったでしょう。あの時にお母さまから、勇者さまへのお手紙を預かったの。もし勇者さまが、何か悩んだり、迷ったりした時に渡してね、って。結局今まで渡すチャンスがなかったから、今お渡しします」
 僕は封筒を開け、手紙を取り出した。一枚の便箋には、短くこう書かれていた。

「あなたは勇者オルテガの息子です。その血を誇りに持ち、剛く正しく生きなさい。母より」

 これを読んで僕はまさに目から鱗が落ちたような心持ちとなった。そして賢者さんにこう言った。
「ありがとう。君のおかげで心が決まったよ」
 そして皆の方に向き直り、
「僕はこの力と技を、次の世代に伝えていくことにするよ」
と言った。
「勇者どの、それはゾーマの最後の言葉を受けてのことですか?」
と僧侶さんは神妙な面持ちで尋ねたので、僕はうなずいた。
 ゾーマは僕たちに、最後にこう言い残したのだった。

「勇者よ……よくぞ儂を倒した。
 だが光ある限り、闇もまたある。
 儂には見えるのだ。再び何者かが闇から現れよう。
 だがその時は、お前は年老いて生きてはいまい」

 そして僕はもう一度、賢者さんの方に向き直って、こう言った。
「賢者さん、僕と一緒に来てくれないか?」
 すると彼女は満面の笑みで、僕に抱きついて答えた。
「もちろんです、大好きな勇者さまっ!」
 そして僕はこの時、アッサラームの占い師が賢者さんに語ったことを思い出していた。

「このカードに描かれた「愚者」は、実はタロットの世界の主人公なのです。タロットに込められた意味は、表面的なシンボリズムだけで理解してはいけないという良い例です。彼は無知で無力な存在ですが、世界を経巡り、最後には世界の真理に到達します。今はその意味は分からなくても、いずれあなたの人生の中でそのことが明らかになります」

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 かくして大魔王ゾーマを倒した勇者ロトは、光の玉をラダトームの王に手渡し、三つの宝物、すなわち雨雲の杖、太陽の石、虹のしずくを三人の隠者に託した。そして自身はいずこかに去って、その血を残した。
 それから年月が過ぎ、アレフガルドは再び絶望に襲われた。闇の中から竜王が現れ、光の玉を奪い、王女ローラ姫をさらっていったのだ。
 そして今、勇者ロトの血を引くという若者が王に謁見し、竜王を倒すための旅に出立した。
 アレフガルドの運命は、今まさにこの一人の若者の肩に担われたのである。

             To be continued to “DRAGON QUEST I”

【注釈】

・ サマンオサ風の多国籍料理はブラジル料理をイメージしている。日本ではまだまだ馴染みのないブラジル料理ではあるが、もともと他民族国家であるため様々な地域の料理の要素が取り込まれている。なお魔法使いさんが飲んでいるカクテルのベースになる蒸留酒は、カシャッサもしくはピンガと呼ばれるものであるが、アレフガルドではおそらく手に入らなかったのでラムで代用しているようである。

・ 「炎の魔女(Fire Witch)」の出典は、キング・クリムゾンのファーストアルバム『クリムゾン・キングの宮殿』(1969年)所収の表題作の歌詞に登場する言葉である。『ファイブスター物語』ではヒロインであるファナティック・ラキシスの別名とされるが、いずれにせよ「破壊」の象徴として語られている。

・ この物語を書くきっかけとなったのは、鳥山明さんが描いた女賢者のイメージ画がなぜあんなにセクシーな格好をしているのか、という疑問であった。これはきっと女賢者の前職は遊び人だったに違いない、というアイデアを展開して、このような物語となった。

・ ダーマ神殿は、位置的にはチベットあたりにあるようなので、神官の格好もチベット密教の僧のようなイメージにアレンジしている。

・ 魔法使いさんは王子からプロポーズされて幸せそうであるが、彼女の賢者さんに対するきつめの物言いや、アッサラームでのやり取りを見るにつけ、以前は勇者に対して多少なりとも気があったことがうかがえる。おそらくどこかの時点で、勇者には賢者さんがお似合いと気付いて手を引いたのかもしれないが、特にわだかまりも持っていないようである。彼女の血はラダトームのラルス王家に残り、ローラ姫に受け継がれるので、数世代を経て彼女と勇者の血は交わることとなる。

・ アッサラームの街の占い師のモデルは『ドラゴンクエストIV』の主人公の一人、ミネアである。

・ 占い師が使うタロットカードの図案は「ライダー版」のものを元にしている。その解釈はマルシア・マシーノ著(栄チャンドラー訳)『タロット教科書(第一巻)』(魔女の家BOOKS、1996年)を参考にしているが、物語に合わせて若干アレンジを加えている。

・ 勇者の母親が、息子への手紙をなぜ賢者さんに託したのかは不思議なことである。魔法使いさんや僧侶さんの方がよほど手紙を託すのに相応しい人物に見えるのだが、むしろ賢者さんになら素直な気持ちを吐露できるだろうという勇者の心理を推し量った母親ならではの判断によるのかもしれない。あるいは、賢者さんが勇者の将来の伴侶になる人であることを予見していたとしたら、さすがは母親と言うべきある。






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