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「忍夜恋曲者」(18歳以上向け)

 鎮守府将軍源頼信の家来にして勇者として名高い大宅太郎光圀は、関東は下総国を旅していた。高望王の孫にして関東に覇を唱え、ついには新皇を名乗り朝廷に刃を向けた平将門が討伐されたのはほんの数年前のことであった。そのため関東の治安の乱れはいまだ収まっておらず、将門の残党たちが反撃の機会をうかがっているとの噂も流れていた。光圀の目的は、そうした反乱軍の残党の動きを偵察し、場合によってはその芽を摘むことであった。
 下総国の相馬には、かつて将門が居を構えた相馬古御所と呼ばれる屋敷がある。しかし今は住むものはなく、荒れ果てて廃墟と化している。しかし近頃近隣の住民が噂するところによると、蝦蟇の妖術を使うものがこの屋敷に現れるのだという。この話を聞きつけた光圀は、真相を明らかにすべく一人、屋敷に乗り込んだ。
 ひとしきり屋敷の中を探索した光圀であったが、めぼしい手掛かりは見つからない。夜も更けてきたので、自慢の太刀を枕元に置き、剛毅にもひと眠りすることとした。

 しばらくして音もなく現れて光圀に近づくものがある。それは豪華な花魁の衣装に身を包んだ美女の姿であった。
 気配に気付き、枕元の太刀を手に飛び起きた光圀は、その美女に相対した。
「おのれ、何者!怪しい奴め」光圀は太刀を抜いて構えると、その美女は目を潤ませながら言った。
「怪しいものではござりませぬ・・・あちきは島原の遊女で如月と申す者でありんす。光圀様を追って、はるばるここまでたどり着いたのでありんす」
 彼女が言うところによると、京都にいた時に客に連れられて嵯峨や嵐山に行った時に光圀を見かけて好きになり、恋しい気持ちを伝えたくてここまで追って来たのだという。
 さてこの美女、見るからに怪しいのであるが、それもそのはず。その正体は平将門の娘、滝夜叉姫であり、勇者として名高い光圀がこの地にやってきたのを好機とし、光圀を籠絡して味方に引き入れ、ともに朝廷と戦おうという算段なのである。
 光圀の方もこの相馬古御所の怪異の噂を聞いていたので、如月の話をまともに信じた訳ではないのであるが、事の真相を探るためにここはあえて騙されたふりをして、場を和ませることにした。
 光圀は如月に、自分の隣に座るように言った。品を作って隣に座る如月に、持ってきていた酒を勧め、杯を交わした。如月は廓の客と遊女の艶話を語り始め、光圀もそれを聞きながら興に入ってきた。
 如月は艶話にちなんだ舞を見せたいと言い、立ち上がって光圀の前で踊りを始めた。最初は取り出した懐紙を使って踊り始め、それから羽織っていた打掛をするりと脱ぎ捨てた。さらに前で結んだ帯を解き、身体を回転させながらするするとほどいていくと、小袖の合わせが開いていき、下の襦袢があらわになった。
 帯がすっかりほどけたところで、如月はさきほど脱ぎ捨てた打掛の上に座り、品を作りながらゆっくりと小袖を脱いでいった。襦袢姿になったところで、脱いだ着物の上に仰向けに横になり、腰紐を解いて襦袢の合わせをはだけさせていくと、白い肌と、つんと上向きになった乳首があらわになった。さらに如月は脚を開くと、襦袢がはだけてそこから白い太ももがのぞいた。
 如月は手を下半身に伸ばし、その指を自分の蜜壺に差し入れた。如月は何度も仰け反り、呼吸が激しくなっていき、顔が紅潮していった。
 「あっ・・・!」如月はひときわ高い声を上げると、身体を海老のように反らし、一瞬固まった後に、ぐったりと横になった。しばらくそうしていたが、やがて顔をあげ、その様子を座って眺めていた光圀のもとににじり寄ってきた。

 如月は光圀の着流しの帯を解き、その合わせをめくり上げると、屹立した一物が姿をあらわした。如月は紅を引いた血のように赤い唇をそれに添えると、ゆっくりと口の中にくわえ込んでいった。如月の口の中でもさらに怒張を続ける一物は、まとわりつく唾液でぬめぬめと光った。
 一物から口を離した如月は、光圀の目をまっすぐ見据えて、「光圀様、抱いておくんなまし」と言った。そして脱ぎ捨てた着物の上に仰向けに身を横たえ、白い太ももを開きながら、光圀を誘った。
 光圀は如月を組み伏せるようにし、その赤い唇を強引に奪った。そのまま舌を如月の口の中にねじ込むと、如月はそれを歯で軽く噛んだ。
 続いて光圀は如月の豊満な胸を揉み上げ、その乳首を口に含んだ。如月は悦楽の吐息を漏らした。さらに光圀は如月の股の間に顔をうずめ、その秘部の蕾を舌と唇でねぶり回した。如月の花弁は待ち構えたように開き、そこから透明な液体が漏れ出て下に敷いた着物を濡らし始めていた。
 光圀は顔を上げ、怒張した一物を如月の花弁に添えると、またたくまにそれは如月の奥へと呑み込まれていった。
 光圀は如月の腰を抱え、腰を激しく動かし、彼女の秘部の奥を突いた。如月も光圀の頸に腕を回し、彼の上体を抱き寄せようとするので、ふたたび二人は口づけを交わした。二人の唾液が混ざり合い、つながった下半身も水のしたたるような淫靡な音をたてた。
「光圀様・・・如月の中に注いでくださいませ!」と言うので、光圀はさらに激しく腰を動かし、ついに彼女の中に精を放った。それと同時に如月の秘部もひくひくと収縮し、光圀の一物をすっかり包み込んだ。二人の背中はたっぷりの汗で濡れていた。しばらく二人はつながったまま余韻を楽しんでいたが、光圀がゆっくりと秘部から一物を引き抜くと、ぽっかりと開いた花弁の奥から白い液体が垂れてきて、床に敷いた着物の上にこぼれた。

 さきほどの対戦を終え、光圀と如月はたがいに身を寄せ合いながらまったりとしている。光圀は着流し姿、如月は襦袢の上に小袖を羽織っている。
 杯を交わしながら、今度は光圀の方から語り始めた。
「如月殿、この屋敷の謂れについてはご存知か」
「・・・いいえ、存じませぬ」
 如月は、気取られぬよう顔を背けて言ったのに対し、光圀は続けた。
「ここはかつて、平将門公が住まいとした相馬古御所。将門公は桓武帝の五世の子孫というやんごとない血筋にもかかわらず、不遇をかこって東国に下向された。しかしここでも、父からの所領をよこしまな一族の者どもに奪われ、やむを得ず兵を上げたのだ。勢いに乗って仇どもをことごとく打ち破ったのはよかったものの、成り行きの中で常陸国の国府を滅ぼし、はからずしも朝敵となってしまわれた。将門公は関東一円を平定し、自らを新皇と称して東国に独立王国を築こうとされた。しかし朝廷に命じられた藤原秀郷公と平貞盛公の討伐軍に攻め立てられ、多勢に無勢。辛島の北山の戦いで、当初は風上に立った将門公の軍が優勢だったものの、急に風向が変わり、討伐軍が雨あられのように矢を放ったところ、そのうちの一本が将門公のこめかみに命中し、落馬した将門公はあえなく命を落とされたのだ」
 この話を聞きながら、あえない最期を遂げた将門に思いを馳せ、如月は涙をこらえることができなかった。その様子を見て、光圀は如月に尋ねた。
「そなたはなぜ涙を流される」
 実は光圀、如月のことを怪しく思っていたので、あえて将門の話を語ったのである。相馬古御所での怪異ということで、この場所にゆかりのある将門に関係する者の仕業ではないかと思い、その反応を見るためにこの話を語ったのであった。
 これに対し如月は、「・・・もうすぐ夜も明けようとしているので、この涙は後朝(きぬぎぬ)の別れの涙じゃわいなあ」と答えつつも、狼狽して平静さを失い、光圀から身を離すように動くと、小袖の袂から何やら反物のようなものが転がり出た。それは勢いよく飛び出たので、転がりながら広がり、光圀が目にするとそれは赤く染められた錦の御旗であることがわかった。
 赤の御旗といえば、それは紛れもなく平氏を象徴するものである。相馬の地で平氏といえばそれは紛れもなく将門のこと。それを持っていたということは将門の残党であることを疑い得ない。光圀はこれを如月に問い詰めると、いよいよ観念した彼女は自分の正体が将門の娘、滝夜叉姫であることを告白した。
「光圀様・・・どうかこのまま我らの味方になってはくれませぬか」
「如月殿、私は主君頼信公に忠誠を誓った身。それに背くことはできず、またそなたをこのまま見逃すわけにもいかんのだ」
「勇者として名高い光圀様を味方にできればと思ったが、その気がないならもはやこれまで。こうなったら光圀様、そのお命をいただく他ありませぬ!」
 そう叫ぶと如月の周りに煙幕が立ち込め、その中から巨大な蝦蟇の背に乗り、髪の毛をざんばらに振り乱す如月、もとい滝夜叉姫の姿があらわれた。
 滝夜叉姫はそのまま庭先に飛び出したので、太刀を手にした光圀もそれを追った。すると屋根の上に蝦蟇に乗った滝夜叉姫の姿があり、光圀を見下ろしながらこう言った。
「わらわは本心で光圀様のことが好きじゃった。今度生まれ変わった時には、敵同士ではなく仲睦まじくいたいものじゃ」
 その直後、大音響とともに相馬古御所の建物が崩れ始めた。そして崩れゆく建物から姿をあらわしたのは、身の丈五丈(約15メートル)はあろうかという巨大な骸骨の化物の姿であった。
 光圀は、滝夜叉姫とその傍に立つ巨大な骸骨の化物と対峙し、愛用の太刀を構えた。かくして、世に名を轟かす勇者、大宅太郎光圀と、平将門の娘にして妖術使いの滝夜叉姫との死闘の幕が、切って落とされたのであった。

【注釈】

・ 本作は歌舞伎の演目『忍夜恋曲者(しのびよる こいはくせもの)』を下敷きとしている。この演目は常磐津の所作事(舞踊劇)であり、物語が主体というよりはむしろ「踊り地」が見どころである。そのためストーリー展開や時代設定などはかなりいい加減であるが、さしずめ江戸時代版のヒロイック・ファンタジーと言っても良いだろう。なお歌舞伎『忍夜恋曲者』の原作は、山東京伝(1761-1816)の未完の読本『善知安方忠義伝』である。

・ 平将門(903-940)は承平天慶の乱を起こして藤原秀郷・平貞盛に討たれた。一方、源頼信(968-1048)は藤原道長に仕え、河内源氏の祖となった人物であり、時代が合わない。このあたりの設定のいい加減さは、歌舞伎の演目ではよくあることである。

・ 相馬古御所がある下総の相馬は、現在の流山市の周辺にあたる。ときおり福島県の相馬地域と混同されるが、そちらは相馬氏の一派が下総から陸奥に移って住みついた地である。

・ 滝夜叉姫は島原の遊女のふりをしているが、もちろん島原遊郭が成立したのは江戸時代のことなので、これも時代設定が合わない。

・ 歌舞伎の場合、如月(滝夜叉姫)が踊り始めると、光圀も一緒になって踊り始め、二人による「踊り地」となるが、本作では如月一人が踊るという演出に変えている。なお如月の踊りの表現は、ストリップのそれを意識したものである。

・ 如月の「この涙は後朝(きぬぎぬ)の別れの涙じゃわいなあ」という台詞は歌舞伎でも語られるが、この「後朝(きぬぎぬ)の別れ」とは平安時代の表現で、男女が一夜を共にした翌朝(後朝)にお別れするときの、名残惜しい気持ちをあらわす言葉である。「きぬぎぬ」と読むのは、当時は夜具としての布団がなく、おたがいの衣服を脱いで重ねて下にしいてその上で愛を交わし、別れる時はひとつに重なっていた着物(きぬ)がおたがいの衣服として別々になるので、「きぬぎぬ」というのである。このことからも、歌舞伎の場面においても如月と光圀がここで肉体関係を持ったことが暗示されるが、二人で踊るという演出をすることによって直接的な描写を避けているのである。

・ 滝夜叉姫は正体を表すと、歌舞伎では相馬古御所が崩れ落ちる「屋台崩し」という演出がおこなわれ、滝夜叉姫と光圀が対峙するシーンで終わるが、浮世絵師の歌川国芳(1797-1861)は『善知安方忠義伝』におけるこの場面を浮世絵『相馬の古内裏』として描き、そこに巨大な骸骨を登場させた。本作ではこの演出を採用し、滝夜叉姫がこの巨大骸骨を異界より召喚したということにした。

・ 歌舞伎でも本作でも、滝夜叉姫と光圀の勝負の結果は描かれていない。こうした物語の常として勇者である光圀が勝利するのであるが、それは「言わずもがな」なので敢えて描かないというのは、日本の伝統芸能の演出の特徴のひとつであるといえよう。

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