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フィクションを通じたデザインリサーチ──建築史のなかのSF的想像力(中)

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◉二章:クリティカル・デザイン前史──紙上建築家の系譜

 前章の議論の結果、クリティカル・デザインの作品は消費の対象としての商品でありながら、複数の未来への想像力を喚起させるメディアでもあるという二重性を帯びていることが明らかとなった。

 ところで、建築史における特異な存在として、実際に建設されること──言い換えれば「商品化」されること──を放棄した一群の系譜が存在する。ペーパーアーキテクトあるいは紙上建築家と名指されるそれらは、建築の物理的な制約や形態から遊離して建築をメディアとして純化すること目指し、その結果、それらは積極的に商品価値を無きものとしていった。

 本章では紙上建築の歴史を繙くことでクリティカル・デザインにおける一方の商品性を相対化しつつ、他方のメディア的な性格においては建築史のなかにクリティカル・デザイン前史が伏流していることを示す。本稿の文脈上、ペーパーアーキテクトと呼ばれうる建築家のなかでもとりわけテクノロジーを用いた未来社会へのビジョンの提案に注力した作家を取り上げることが有益であると考えられる。そのため、ここではイタリア未来派のアントニオ・サンテリアに始まり、ロシア構成主義のイワン・レオニドフ、バックミンスター・フラー、アーキグラムといった作家に焦点を当てることになる。

●2-1.ペーパーアーキテクトの起源──アントニオ・サンテリア

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