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MBTIは決定論的なものではない

 


 最近vtuber界隈でもMBTIが流行っていて、コメントで「infpだった。トホホ・・・」だったり「全然勉強できないのにINTPだった!」とかいうのがありました。私自身MBTIにそこまで詳しくないですが、最初に見つけたときは自己分析の面白い指標が見つかったとワクワクしていました。ただ同時に、このような性格分析は決定論的なものなのではないかという恐怖も感じました。そこで、ちゃんと調べていくと、MBTIと似たようなBIG5理論という、MBTIよりかは割と信頼されており、かつ類似性も言及されている性格分析を見つけました。5つの軸について紹介すると

 外向性という軸は中脳ドーパミン報酬系に関係しており、社会的交流や金銭、社会的地位などポジティブな報酬への反応性が強い人、陽キャ

 開放性は新しい経験に対してオープンで、マクロ的で理論的、理想主義者で抽象的、文化に興味があり知的で個性的な傾向、芸術家や研究者。
 
 誠実性は真面目で几帳面、努力家で信頼でき責任感の強い傾向。スポーツ選手や仕事のできる人は高いのではないでしょうか。
 
 神経症的傾向はメンタルが強いか弱いかで、高い人は不安だったり怒りや衝動を感じやすいそうです。扁桃体と関係しているのではという説もあります。

 調和性は人の気持ちを考慮するかで、温和で寛容で、集団に埋没的かどうか、というような傾向です。ラッパーとか反社、誹謗中傷するような人は低いんじゃないでしょうか。

この5因子の軸の中にグラデーションのようにその人の性格が散らばっているのです。例えば外向性の軸でいうと人といるのは好きだけど別に一人でいても苦ではないという人もいれば、人といたくない人、一人でいるのは寂しくて耐えれない人などです。5つの大きな軸が複雑に絡み合ってその人の人格を形成しています。

 これらの性格の50%は生理的要因であり、遺伝子や、脳構造(未だ具体的には分からず)によって決まっているようで、双子の研究とやらでその遺伝率を調査したそうです。性格を作るもう半分は後天的なもので、妊婦の飲酒習慣や、その人の置かれた状況、環境などによるようです。

 私はこれらを最初決定論的な文脈でとらえていました。特に誠実性に関しては努力できるかどうか諦めが早いか、などに遺伝的要因が絡んでおり、極端に誠実性が低い人間は、たとえ強く意識したとしても真面目になれないのではないか、そしてそれらは資本主義のイデオロギーやメリトクラシーなどを根本から覆す恐ろしい事実なのではないかと思いました。そしてついには、私たちの人生は生理的要因と環境的要因が織りなす只の自然現象であり、適当な解釈を設けて社会を回しているだけなのではないかと思いました。そう考えてからはメンタルの強いほうの私でも、狼狽し数日間少し吐き気がしました。なぜならテレビで流れているような、スポーツ選手の輝かしい功績も、起業家の逆境に立ち向かいながら起こす革新的で斬新な事業も、勧善懲悪ものの創作も、海外の猟奇殺人も、全て偶然そうなったもので何の意味もないと感じてしまったからです。その究極のニヒリズムはいわば宇宙に襲われている感覚に近く、私や社会の無意味さ、矮小さに、とても生きた心地がしませんでした。
 私たちが偉業に素晴らしさを感じたり、犯罪者に恐怖と、時にはそのサイコパス性に若干の魅力を感じるのは、自分たちに備わっていない極端な性質を彼らが持っており、その出所が分からず、神秘性を兼ね備えているからです。私たちは抽象的で、説明のつかない人智を超えた現象に、神の力を視るのです。
 それを傍若無人にも自然科学とやらが、その神の力を奪い去ってしまったのです。
 おそらくこの潮流は、既に社会にわずかな兆候として表れています。多様性やポリコレ、裁判の少年法や、刑事責任能力の有無、絶対的な指針が揺らぎ社会は迷っています。これらは私たちに内在していた自由意志や責任といったエネルギーが自然科学によって分散してしまったことが一要因にあるのではないかと思われます。スパイダーマンノーウェイホームのネタバレになるので見てない人は飛ばしてほしいのですが、主人公ピーターは他の世界線(他のスパイダーマンシリーズ)のピーターを呼んで、他のピーターがかつて倒したヴィランの悪人になった要因を根本的になくすような、治療のような倒し方をするのですが、これはただ勧善懲悪で悪を倒したら、ヴィランの育った環境や根本的解決を無視しているという問題が指摘されるのではないかという、社会の空気が背景にあるのではないかと個人的には思っています。

 話しは戻りますが、そんな感じで暫く世間が馬鹿らしくなり、人間の自由意志を信じれなくなっていたとき、テレビにランジャタイという芸人が出ていました。ネタは全く意味が分からないのですが平場は面白い人達です。コンビの片方の伊藤というやつが平場では殆どしゃべらず、綾波レイと同じ髪形をしていたり、ネズミの糞を食べたり、部屋がクソ汚かったりと、変な人物なのですが、この人はINFPなのかな、などと考えながら見ていました。その後海外のPDBというサイトでINFPだと投票で推測された有名人を見ていると、シェイクスピア、ジョニーデップ、ゴッホやカートコバーン、宮崎駿、などが出てきました。元よりmbtiなどたいして信じていなかったのですが、その潮流にある、性格分析や学者たちの努力の結晶である統計的な研究結果、脳や遺伝子からなる人生の決定論的影響に、若干のニヒリズムに嵌りかけていた私は、思わず噴き出してしまいました。全然違うやないかい、と。伊藤のmbtiがあっているかはともかく、そのときに私の悩みは笑いとともに吹き飛んでしまったのでした。
 もちろん生理的要因で、文化に興味を抱きやすかったり、あるとは思います。ただそれが人生を記述していると言えるでしょうか。私はこれら性格分析は人生の5%も記述できないと思います。
 また人の性格は場合によって変わると思います。家で勉強や仕事ができなくても、職場や学校に行けば集中できるという人は、家で活動的でなかった誠実性が変化しているのではないでしょうか。勉強には真面目になれなくても、スポーツやゲームには真面目になれる人、結婚したら落ち着いた人、性格分析はそのような複雑性を完全に包摂してはいません。アインシュタインはINTPだったのでしょうか。奥さんといるときには社交的だったのではないか、部屋がとんでもなく散らかっていても、物理というパーソナルな分野においては整頓されていて、恐ろしく真面目に取り組んでいたのではないでしょうか。他の分野においては、中学生ほどの知識しかなく、ひどく凡夫であった可能性はありませんか。

 私事ですが、しばらく、ここ6年くらいはインターネットやスマホに依存していまして、その生活のエネルギーの大半を仮想世界に投じてきました。しかし、その生活にもいい加減飽き、何のけなしに、ネットの時間を大きく制限する掟を、自身に課しました。それを守ってると暇で暇で、脳のクオリアに大きな変化を感じました。なにやらしっちゃかめっちゃだった頭の中の騒音が消えおそらく情報過多で炎症を起こしていたのであろう前頭前野も収まり、なにより驚いたのは自身から友人を遊びに誘ったことです。かなり内向的で社会と関わってたまるかと世捨て人のような考え方をしていた私は、その暇さに耐えれず、脳の奥底にある、社会と外の世界と関わりたいという欲望がまんまと尻尾を出してきたのです。ああ、こんなとこにいたんだと、機を逃さずつかみ上げた私は、思いのほか隠れていた欲望が面白く、今でこそ、前までが最低だったのもありますが、かなり社交的になったのではないかと思います。またネットに無理やり指示されてきたマクロな視点で考えろという圧力も消え、テクノロジーを失い小さな世界に立ち返った私はニヒリズムに苛まれることも少なくなりました。宇宙と比べれば戦争なんかも、大したことのないように思われ良くないですよね。

 おそらくですが私たちは同じホモサピエンスですから、そんな脳は極端に違わないでしょう。習慣的に使っている脳機能とは反対のあまり使ってない機能も意識すれば使えるはずです。私たちは意識しないうちに遠くに行ってしまうのです。一昔前にリア充爆発しろ!と言っていた中学生の半分がもしかしたら、どこかで、何かきっかけがあり、恋愛の楽しさに目覚め、久しぶりに会った友人に、「けいおん?あー俺もうアニメとか見ないから」など話しているかもしれません。もう半分は、恋愛は諦め、世捨て人のような考えでバキバキ童貞を貫いてるかもしれません。そのように分岐していったのは自然現象なのでしょうか?私はそうは思えません。自身がそうなるように、選択したのです。人生でいつの間にか遠くの文脈に行ってしまい、理解できない存在になり、自身に存在するわずかな火種すら、見つけられなくなってしまうのではないでしょうか。自身に大きく欠落しているものは自身が忌避し、軽蔑しているものなのでしょう。
 自由意志とはいったいどこに宿っているのか。それはおそらく自由意志を信じることにあるのではないでしょうか。自由意志を信じ、環境や規則を構築し、習慣を形成する。自由意志を一切信用せず、人生は確率論で決まっている自然現象で、大抵自身の力ではどうにもならない、そう考える思考習慣自体が誠実性を低める要因になっている場合もあります。

 MBTIの流行は、親ガチャなどと合流して人生はどうにもならない運ゲーだという風潮を高める可能性もあります。諦念にかられ、寝そべり族のような生活をするのも一つの生き方ですが、人間の脳や人生はかなり柔軟性がありその複雑性ゆえに固定的ではないということです。つまり自身の思想ですら変化しうるものなのです。

 


 


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