プリンス:ニュー・パワー・ジェネレーションの誕生 その7

割引あり

13.『Corporate World』の完成

 89年夏のザ・タイムの『Corporate World』のためのセッション、残り3曲となった。

 86年6月17日、ワシントン・アヴェニューの倉庫で、パレード・ツアー時のザ・レヴォリューションの面子によりレコーディングされた3曲の内の1つが「Data Bank」だ。プリンスが突然ミュージカルの考えを思いつき、そこで使おうとしていた曲であった。そしてそのミュージカルのタイトルは『Dream Factory』だと言われている。『Sign O' The Times』のリリース前にザ・レボリューション名義で作られた2枚組のアルバム・タイトルである。ザ・タイムの90年の4枚目のアルバム『Pandemonium』に収録されたのは、なぜかザ・レボリューション・ヴァージョンよりも疾走感がないアレンジとなってしまっていた。筆者としてはやはり❝僕のデータ・バンクに君の電話番号を記録したい❞そう女性を口説く前半、そしてメンバーを学校の先生に見立てて紹介していく後半、どちらもスリリングな展開続出のプリンス&ザ・レボリューションによる演奏の方を断然に推す。電話番号と言われるとザ・タイムの「777-9311」を思い出すが、そういうことからプリンスが閃いて後に提供することにしたのかもしれないと思ったが、そうではどうやらなさそうである。プリンス達によるものは2ヴァージョンある。詳しくは『プリンス:サイン・オブ・ザ・タイムズのすべて』の75ページを参考にして頂きたい。
 89年夏、ペイズリー・パークでモーリス・デイをリード・ボーカルに再録音され、キャンディ・ダルファーが同年8月に同じくペイズリー・パークでサックス・オーバーダブを追加したものが、『Corporate World』に収録された「Data Bank」#3(5:25)となる。そのヴァージョンは『Pandemonium』に収録されたものより10秒少し短い。イントロがシンプルで短く、バッキングがやや質素だがその分キャンディのサックスが強調されて聴こえる。そして最後はフェード・アウトで終わる。一方『Pandemonium』の方はバッキングに余韻がありもわっとしたミックス。ヴォーカルにもエコーがかかっている感じだ。結果ドラムが埋もれて聴こえる。そして最後10秒弱長くフレーズが流されて、しっかり曲が終了する。両ヴァージョンともファルセット等様々な声質のプリンス、ジェロームがバッキング・ヴォーカルで居る。
 ❝データベース、僕のデータ・バンクに君を入れておきたい。君が愛を手に入れたなら、僕には時間、ザ・タイムがある。ただ君の電話番号を教えて欲しい。そうすれば僕は君の完璧な魅力の前に恋に落ちるだろう。可愛い女性は全て格好いい男性が必要。信じてくれるなら、おねんねしよう。マジで。他の男が君に自分こそが上手だと言っている。近くで見てみなよ。おねしょしているかもしれないぜ❞。歌詞にザ・タイムとある。これはザ・レボリューションのヴァージョンの歌詞にもある。    
 その「Data Bank」[2ヴァージョンあるが歌詞はほぼ同じなので総称として以降レボバとする]では冒頭、One, two, Buckle my shoe、1,2,靴履こう、のマザーグーズからの引用で始まる。この韻を踏んだ言葉がドラムのボビー・Zに伝わって、それがキューとなり演奏がスタート、更に全体にドライブ感が増す効果を生み出す[レボバにはマザーグーズの引用がない#1(7:56)があり、そちらの方が実はより疾走感があったりする。ただマザーグーズの引用付の#2(8:25)でも十分カッコいいヴァージョンだ]。残念ながらザ・タイムの「Data Bank」にはそのカウントがない。モーリスがジェリービーン・ジョンソンにそう言ってから始まる「Data Bank」を作れなかった。それはプリンスが彼らを排除しているからだ。バンド・ヴァージョンを鼻から作る気が無いのだ。

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