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Hank西山のアルバム『Unknown Mood part II』を聴いて

Hank西山のツアー・サポート、レコーディング参加の履歴。久保田利伸、ゴスペラーズ、ジョディ・ワトリー、ボブ・ジェームス、ロイ・エアーズ、ポール・ジャクソン、僕が大好きなアーティストだけでもとりあえずはとピックアップしたけど、まだまだ取りこぼしがある。ゴダイゴのトミー・スナイダーの娘、シャンティの珠玉のアルバム6枚にミュージカル・ディレクター、コ・プロデューサー、作曲で大いに関わっているし、バンド内でなくてはならないギター・リストとして絶大なる信頼をフィリップ・ウーより寄せられていることも記しておかなくてはならない。そしてハイラム・ブロックが参加、傑作ながら長らく廃盤だった00年のファースト『UNKNOWN MOOD』が再プレスされる朗報の後、満を持して『UNKNOWN MOOD partII~A Good Guy On The Beach』がリリースされた。

ギターという筆で心の中に再生されている風景を自由に描いている。アルバムを聴き進める内に感じさせてくれるのがまずそれだった。アルバム・タイトル曲「A Good Guy On The Beach」は夕暮れ時の海辺、そんなシーンが見えてしまう程にヴィヴィッドなアコースティック・ギターのインスト。陽気さと物悲しさをこれぞの比率でブレンドし、リスナーの期待感を優雅に煽る絶好のオープナーとなっている。西山が眠くならないようにね、と僕に注意喚起してくれた「Ancient Voyage」は音にストーリーがあり、森林浴の如き快適さや、生命の息吹や自然の匂いまで感じられて確かに落ち着ける。でも寝てしまうというよりは夢見心地なナンバーで、境地に達した感で一杯になる。「Vision Beyond 2」はファーストに収録された「Vision Beyond」の再録音で、名曲だけにライブでも披露されることが多い。抜けの良いシーウィンド感が心地よい「Metro」、ヴァイオリンが効果的、神聖な儀式で流れれば浄化効果間違いなしの「Turquoise~Unknown Path」、誰もが抱いている大事なものを呼び起こすきっかけをくれる「MARIA And MARIA」の叙情。動から静へ、曲展開がつくづく上手い。アルバムの名作たる所以だなあ。僕がどこか西山に期待しているグルーブ感の妙、それが味わえるのは「An Affair In Rio」で、下地はアコースティック・ギターを縦横無尽に駆使してスイングさせるファンク、そこに不思議なメロディの別のギターの音色が絡み(ギターは全て西山による)、どこかEW&Fの「Brazilian Rhyme」、その完成度を想起させる。そこでは西山の美声も聴けたりするので必聴だ。憂いがあるけど艶もあるギター・ワークの「The Last Day」も心の絵が見えてくる最高のテクスチャー。「When GG Goes Marchin' In」はアル・ジャロウも嫉妬しそうなフランシス・シルヴァのスキャットとファンキーでコリンコリンとした音色のギターとのアンサンブルで徹頭徹尾踊れるチューン。スティービー・ワンダーに捧げるとした「S.MORRIS BLVD」での楽し気に跳ねるギターもワクワクさせてくれるが、カルロス・トシキのバンド(西山もメンバー)B-EDGEのベーシスト、ウォーネル・ジョーンズと、MISIAやSuperflyのコーラス、『ルパン三世 The First』の主題歌「Gift」でも有名な稲泉りんがヴォーカルの「The Smile That We Left Behind」はこのアルバム唯一のバラード歌モノで、エリック・クラプトンだってカバーしちゃうんじゃないか、シングルを切るならこれ絶対の名曲だ。ラストの「ALCHEMIC」まで、時や場所を凌駕する壮大な旅を感じさせ、その一方リスナーそれぞれの注文、要望に合わせた安らぎと気持ち良さもしっかり届けてくれる。労わりのギター・マイスターHank西山の待望のアルバム。やっぱり絶品以外の何物でもなかった。


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