〈百年文庫〉61から70の間で
〈百年文庫〉というシリーズが、かつて刊行されていました。
https://www.poplar.co.jp/hyakunen-bunko/
私はこのシリーズの佇まいとコンセプトにいたく惹かれ、コツコツ買い集めました。
とはいえ、当然ながら100冊ぜんぶが好みというわけではなく。
読み返しながら、10冊ごとに好みの作品を書き留めていきたいと思います。
なお、今回は後ろから読み返しています。
61 「俤」
水上瀧太郎『山の手の子』 ネルヴァル『オクタヴィ』 鈴木三重吉『千鳥』
62 「嘘」
宮沢賢治『革トランク』『ガドルフの百合』 与謝野晶子『嘘』『狐の子供』 エロシェンコ『ある孤独な魂』ほか
63「巴」
ゾラ『引き立て役』 深尾須磨子『さぼてんの花』 ミュッセ『ミミ・パンソン』
64 「劇 」
クライスト『拾い子』 リラダン『断頭台の秘密』 フーフ『歌手』
65 「宿 」
尾崎士郎『鳴沢先生』 長田幹彦『零落』 近松秋江『惜春の賦』
66 「崖」
ドライサー『亡き妻フィービー』 ノディエ『青靴下のジャン=フランソワ』 ガルシン『紅い花』
67 「花」
森 茉莉『薔薇くい姫』 片山廣子『ばらの花五つ』 城 夏子『つらつら椿』
68 「白 」
梶井基次郎『冬の蝿』 中谷孝雄『春の絵巻』 北條民雄『いのちの初夜』
69 「水」
伊藤 整『生物祭』 横光利一『春は馬車に乗って』 福永武彦『廃市』
70 「野」
ツルゲーネフ『ベージンの野』 ドーデー『星』 シラー『誇りを汚された犯罪者』
クライスト『拾い子』
不実な「拾い子」と、それに人生を狂わされた家族の話。自業自得と軽率な悪意ばかりだけれど、最後に「赦しを得て天国になど行きたくない」「わたしは地獄に堕ちて、あの男に地獄で復讐する」という展開はたいへん好き。救いよりも報復を。復讐は成されてしまえ!
長田幹彦『零落』
東京から出奔して、北の果てで舞台に上がり続ける老役者というのが無性に泣ける。旅の一座として、移動と移動の合間に起こる色恋沙汰がすべて物悲しい。叶って、叶わなくても、虚しい。舞台はあれほど煌びやかなのに。
ドライサー『亡き妻フィービー』
亡き妻を追って、追って、追って。他人の目からは喜劇とも悲劇とも見えても、これほどに幸福な最期があるだろうかと思う。
ツルゲーネフ『ベージンの野』
美しくも得体の知れない恐さで好き。誰かが死んだ話をしていても、何が悪いというより、「かわいそうになあ」というくらいの距離感が、妙に心地いい。
アンソロジーにはよき出会いがあると、しみじみ感じます。
残りはあと60冊。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?