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〈百年文庫〉71から80の間で

 〈百年文庫〉というシリーズが、かつて刊行されていました。
  https://www.poplar.co.jp/hyakunen-bunko/

 私はこのシリーズの佇まいとコンセプトにいたく惹かれ、コツコツ買い集めました。
 とはいえ、当然ながら100冊ぜんぶが好みというわけではなく。
 読み返しながら、10冊ごとに好みの作品を書き留めていきたいと思います。

 なお、今回は後ろから読み返しています。


71から80まで

71「娘」
ハイゼ『片意地娘』 W・アーヴィング『幽霊花婿』 スタンダール『ほれぐすり 』

72「蕾」
小川国夫『心臓』 龍胆寺 雄『蟹』 プルースト『乙女の告白』

73「子」
壺井 栄『大根の葉』 二葉亭四迷『出産』 葉山嘉樹『子を護る』

74「船」
近藤啓太郎『赤いパンツ』 徳田秋声『夜航船』 野上弥生子『海神丸』

75「鏡」
マンスフィールド『見知らぬ人』 野溝七生子『ヌマ叔母さん』 ヘッセ『アヤメ』

76「壁」
カミュ『ヨナ』 安部公房『魔法のチョーク』 サヴィニオ『「人生」という名の家』

77「青」
堀辰雄『麦藁帽子』 ウンセット『少女』 デレッダ『コロンバ』

78「贖」
有島武郎『骨』 島崎藤村『藁草履』 ジット『放蕩息子の帰宅』

79「隣」
小林多喜二『駄菓子屋』 十和田操『判任官の子』 宮本百合子『三月の第四日曜』

80「冥」
メルヴィル『バイオリン弾き』 トラークル『夢の国』 H・ジェイムズ『にぎやかな街角』



74「船」

近藤啓太郎『赤いパンツ』
赤いパンツを履いた当人が「大漁のご利益」を信じていないことがいいし、息子たちを納得させるために親方がしぶしぶ先生を乗せるところもいい。
最後に大漁旗代わりに「赤いパンツ」を掲げる茶目っけも好きでした。

野上弥生子『海神丸』
海難事故の飢えから、文字通り「人を喰う」話が、実話ベースで語られる生々しさ。語られないまま、文字通り「葬られた」実例が、世界中でどれほどあることか。


71「娘」

ハイゼ『片意地娘』
素直になれない男女の話、と簡単に言えてしまうものではあるけれど、お互いがまるで諸刃の剣のようで、斬りつけ合ってようやく邂逅する結末が、私は無性に泣けました。

W・アーヴィング『幽霊花婿』
やや冗長な印象はあったし、亡くなった本来の花婿には気の毒だけれど、〈幽霊花婿〉と花嫁がちゃんと好き合ったうえで結ばれる結末に、ニッコリしました。


 アンソロジーにはよき出会いがあると、しみじみ感じます。

 残りはあと70冊。

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