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ワイン飲みとしての日本酒の楽しみ方

米から作られる国産醸造酒

 ワインがブドウを原料とした醸造酒であるのと同様に、日本酒は日本人にとって欠かせない米から作られる醸造酒です。近年はササニシキなど飯米を利用した日本酒造りも積極的に行われていますが、日本酒の醸造に一般的に用いられるのは酒造好適米と呼ばれる種類の米です。ちなみに、筆者は酒造好適米である美郷錦を炊飯したご飯を食べたことがありますが、言われないと分からない程に美味しくいただきました。ワイン用ブドウ種のジュースを飲んだことがある人はご存知かと思いますが、同じ品種でもワインで飲む印象とジュースで受ける風味の印象は不思議とかなり違います。美郷錦のご飯を食べたときも、日本酒になった後に織りなす繊細かつ複雑な風味を見つけ出すことはできませんでした。
 冒頭から余談が長くなってしまいましたが、普段はワインを多くお飲みになるという人にも、日本人として日本の酒文化にもこれまで以上に触れていただくきっかけになればという思いで本稿を起案しました。

アルコール度数からみた2種類の日本酒飲み

 伝統的な日本酒の原酒(無加水)の多くのアルコール度数は17度程度であることが多いです。最近は、原酒で16度であったり15度であったり日本酒もあり、さらに低アルコールの日本酒も今では珍しくありません。ここで、筆者が提案したいことは、自分の趣向にあった日本酒のアルコール度数を意識して、日本酒を選び楽しんでいただきたいということです。
 ワインのアルコール度数は約12〜14度であることがほとんどですが、もしあなたが17度の原酒であろうとも低アルコールの日本酒でも美味しく楽しめられる趣向をお持ちならば本稿は無視していただければ思います。そういう人にとっては楽しめる日本酒の幅は無限に広がっていますわけですから。
 一方で、口に含んだときのアルコール感が気になって日本酒を十分に楽しめていないという人もいるのではないでしょうか。例えば、私の場合はアルコール度数の上限を15度にして日本酒を選ぶ1つの基準にしています。ウィスキーや焼酎をストレートで嗜む私にとっては17度でも全く飲めないということはないのですが、私が日本酒を日本酒として最大限に楽しめる上限は15度というのが経験上の私的な知見です(酒質のバランスが良いものは16度でもそれ程アルコール感が気にならない場合もあります。)。上記の基準を得たきっかけは、日本酒愛好家垂涎の日本酒を次々と生み出す新政酒造の佐藤祐輔社長がかつて自身のブログで記述した内容に大いに同感して感銘を受けたことにも由来しています。

日本酒はワインやビールと比べると、口に入れた時、アルコールの刺激が必ずどこかに感じられて、本来楽しむべき繊細な原料由来の成分や、酸・甘みなどをかき消しているようなものが多いと思います

新政酒造 蔵元駄文より

 このブログの記述からは、新政酒造がワインのようなアルコール度数の日本酒にこだわる一旦が垣間見れます。実際、新政酒造が造る日本酒は15度が主流だったのから、最近はこれよりもさらにアルコール度数が低い傾向にあります。そしてこれに追随するかのように、低アルコール日本酒の醸造に成功している酒蔵は近年増えつつあります。この潮流は決して一時期な流行りに留まることはでしょう。

ワイン飲みはワイングラスで日本酒を飲むべき

 ワイン飲みの人には、日本酒を国際規格準拠グラスなど小ぶりのワイングラスで飲むことをお勧めします。ワイン飲みは、外観、アロマ、風味の順にテイスティングしますが、日本酒の対しても同様に鑑賞を行なっていただきたいものです。同じ蔵でも使用している米や造りによって大きく異なるからです。また普段から同じグラスを使用するよってそれぞれの日本酒の違いが感じやすくなります。ワイングラスでテイスティングすることによって日本酒の繊細な特徴を捉えることが出来ます。

瓶内における酸化作用と成分均一化

 ワインに比べて日本酒の利点の一つは、瓶内の澱も賞味出来ることができることです。ワインを飲むシーンにおいて澱をグラスに注がないように細心の注意が注意が必要ですが、日本酒の場合はむしろ澱がらみのような酒では澱が瓶内全体に均一に回るようにします。
 また、日本酒も開栓直後は風味が硬く感じられる場合があります。そのような場合は適度な酸化が有効です。ワインでいうところの還元が日本酒にもあります。日本酒の場合は、上述のワインの澱のような問題がないので、デキャンタージュをする代わりに、瓶を上下に振って空気接触を促すことで適度な酸化を促すことが出来ます。ワインボトルの口にはめ込んで使用するポアラー(注ぐ際に空気接触をより促して酸化が進むように設計された器具)も意外と活躍します。そこまでしなくても、少しずつ楽しめば酸化による日毎の変化を感じることが出来ます。日本酒の口当たりが優しくなっていくことが実感されるはずです。
 さらに、澱がらみの日本酒以外でも瓶内の均一性を保つために静かに瓶を上下逆さまにするなどしてコンディションを調整します。これは筆者の経験上、常に立てて保管された日本酒では、比較的重い成分が重力によって自然と瓶内下部に溜まり、瓶の上部と下部とで風味が微妙に変わる傾向があるという印象に基づくものです。一方、ワインの場合は、ボトルを降ったり逆さにすることは上述の澱の存在にとってタブー中のタブーであることはご承知の通りです。

日本酒選びは意外に難しい

 アルコール度数以外に日本酒の風味と事前にするためのパラメータとして、日本酒度や酸度というものがあります。例えば、日本酒度は酒質が辛口か甘口か示すものですが、酸度と合わせてもこれらの情報だけで、自分が望む通りの味の日本酒に出会えるかどうかは難しい場合があります。日本酒選びにも、ワインと同様にリテラシーやコツがある程度必要になります。特に、ワインの場合は絞り出したブドウ果汁のアルコール発酵によって醸造されますが、日本酒の場合、米のでんぷんを糖化させるための麹菌をまとった麹米を準備し、さらにこの糖化作用とアルコール発酵を樽内で同時に並行して発生させるという並行複発酵という非常に複雑な化学反応を得て醸造されます。そして、日本酒の風味は非常に繊細でかつその中で多様なバリエーションとなるため、上記のパラメータだけでそれを推し測ることは困難です。
 よって、日本酒を楽しみためのリテラシーを身に付けたいという人には、居酒屋で様々な日本酒を実際に飲んでみたり、酒店で詳しいスタッフさんに話しを聞いてみることが良いと思います。そうした経験を積み飲み慣れてくれば、ワインと同様、お店に書いてあるテイスティングコメントに加えて日本酒度や酸度の他にも酒米や精米歩合等の情報からおおよそ味の想像がつくようになっていきます。お店の品揃えによる日本酒の趣向が自分のそれと合えば、自分が美味しいと感じられる日本酒と巡り会える可能性は大きく高まります。そういう意味では、自分の趣向にあったお店に出会うことやそうした日本酒を製造している酒蔵を知ることが何よりも大事です。

まとめ

 このように、日本酒はワインと共通する点と相違する点があります。同時に、日本の先人達が継承してきた重要な文化でもあります。ワインにしかない魅力があるのと同様に、日本酒でしか味わえない楽しみも多いです。本稿では触れませんでしたが、燗酒という楽しみ方もあります。
 普段はワインばかりという人もワインを飲むがちょっと疲れたと感じたときは、是非とも日本酒にも触手を伸ばしていただきたいと思います。





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