YAMAHA SEQTRAKレビュー(ファームウェアv1.1)~ガジェット系の皮を被ったガチグルーヴボックス~
はじめに
解禁と同時に予約したYAMAHA SEQTRAK。今年のNAMMショーに合わせて各社から新製品が発表されていましたが、XやYoutubeなどの盛り上がりとしては本商品が一番だったのではないでしょうか。
キャッチーなPV。無骨な銀のQY70を造っていたヤマハらしからぬteenage engineering(以下TE)などに通ずるポップなデザイン。そして何より5万円台という価格はかなり魅力的。
筆者が入手したのはホワイト×オレンジです。色味について触れておくとかなり好き。オレンジも結構赤に近いというか、果物のオレンジというより金時人参とかに近いです。朱色ほどではないけれど。かなりかわいらしいデザイン。好きです。
基本スペックなど
構成としては、DRUMトラック×7+SYNTH(AWM2音源)トラック×2+DX(4オペFM)トラック×1+サンプラートラック×1で必要十分。ドラムトラックは一応KICKやSNAREなど刻印されていますが、実際はどのDRUMトラックにもすべてのドラムサンプルをアサインできます。全部タムとかもできます。いろいろできそうです。(SYNTHトラックのAWM2波形のアサインとかはできない)
サンプラートラックは現状キーボードにアサインして演奏みたいなことはできず、ただワンショットで鳴らせるだけです。ただ。ボイスサンプルとかを入れると一気にそれっぽくなったりもするので、結構効いている気がします。これはわかってて今はつけてない、いわば「アップデートでの強化の余白」な気もするので、たぶん対応するでしょう。
プロジェクト&パターンのシーケンスの仕様について
本体には合計8プロジェクトを記録でき、1プロジェクトあたり各トラックごとに6パターンを保存可能。各パートで違うパターンを再生できるのは、展開を作る上で便利かもしれません。
パターンの最大長は128ステップで、各トラックごとに個別にステップ数を指定出来ます。ポリリズムができますね。
いわゆるモーションシーケンスも可能です。モーションシーケンスとして書き込める情報もそこそこあるので、現代のこうしたリズムマシンとして必要なものは揃っています。
筐体について
つまみはとても軽く、シーケンス入力と鍵盤を兼ねたキーはよくも悪くもカチャカチャとした印象。割と深めに押すことを求められるキーです。ノートパソコンのキーよりも深いようなイメージです。タイピングしているような音がします。感触自体は心地よいものの、若干剛性感に不安はアリ。プラスチックなので仕方ありませんが。
個人的にはこのキーで不便さを感じるのは、パフォーマンス中に例えばハイハットを16分で一気に入力したいとき。KORG volcaシリーズで、タッチセンサーをなぞってハイハットを入れる事に慣れている身からするとワンテンポ時間がかかる印象です。
重量はびっくりするほど軽いです。モックかと思います。ここまで軽いと、もうちょっとサイズを小さくしても良いのかなと思いましたが、操作のしやすさとしてはこの筐体サイズは正解なのかもしれません。ちなみに、見た目でOP-Zくらいかなとか思っている方もいるかと思いますが、平気でOP-Zよりはデカいですし、それどころかOP-1よりデカいです。
シーケンサーについて
もう少しシーケンサーについて書くと、概ね良好です。先ほども記した通り、モーションシークエンスや、各パートごとのステップ数指定など、複雑なこともできます。
パターンを流しながら、つまみの動きを記録させるだけではなく、入力したステップを長押しして、たとえばピッチをそのステップだけ上げる、ハイハットのサスティンを伸ばすみたいなこともできます。連打もマイクロステップという機能で可能です。
ただし、16ステップ以上のパターンで自動でページを送ってくれないのは結構不便です。(私が知らないだけかもしれない。やりかた知ってる方いらっしゃれば教えてください)
1〜16ステップを再生したのち、17ステップ目に入る時に17〜32ステップにページが切り替わってくれるもうちょっとリアルタイムにサクサク打ち込める気がします。現状、PAGEボタンを押さないと送れません。これはアップデートでの改善を期待。
プロジェクトの切り替えについて
個人的にはそこまで不便ではないですが、プロジェクト切り替え時も読み込みが入り、再生が止まります。
普段の使用には全くストレスにならない読み込み時間、というか読み込み時間だけの話だとむしろ爆速ですが、いずれにしたって再生は完全に止まるので、長い時間複数のプロジェクトにまたがって延々とプレイするようなことは厳しそうです。
後に書く話にも通じますが、こうした操作感やシーケンサーの仕様から、リアルタイムで一から打ち込みつつパターンを発展させていく…というより、どちらかというと、あらかじめパターンを作りこむという使い方が想定されている印象を受けます。
公式にもMUSIC PRODUCTION STUDIOと銘打たれているように、アドリブというより、仕込みの機材だと思います。TEの機材でいうなら、マスターレコーダーこそついていないものの、テンポ感としてはOP-ZではなくOP-1のほうが近いかもしれません。
充実したエフェクト&マスターセクション
これが個人的にSEQTRAKの一番の美点だと思いますが、エフェクトとマスターセクションが非常に充実してます。
特にトラック別にシングルエフェクトとは別にフィルターを独立して持っていたり、センドリバーブとディレイが準備されていたり、マスターエフェクトとしてもコンプ、ディレイ、フィルター、5バンドのEQが装備されており充実。 しかも、それぞれ、ただ「付いてるだけ」ではなく、複数のタイプが準備されていたり、5バンドのEQに至ってはパラメトリック仕様で相当追い込めます。すでに入手していて、まだアプリ側からエディターを触ったことが無い方はぜひ繋いでほしいですが、見た目のポップさからは想像できない位、かなり深いところまで調整できます。
なんだか、普通の楽しいグルーヴボックスみたいなPRがされていますが、かなり本気の仕様です。これはうれしい驚きでした。単純に音がガジェットガジェットせず、こなれた感じでカッコよくなるので。
多彩なプリセット&サウンドデザイン
プリセットも充実してます。さすがAWM2音源。聴き慣れた良い音がします。また、SYNTHトラックは同時発音数128音とかなり余裕がとられているので、がっつりピアノを弾けたりします。特にエレピとピアノはCP80のプリセットとか複数パターンあって、めちゃくちゃ力入っています。 これはこの手の機材にしては異例だし、感動。音源モジュールとして普通に使えます。(5ピンのMIDIの接続が付属の化物みたいなアダプタ通してなのが気になるが)
本気度はサウンドデザインにおいても同様で、SYNTHトラックは波形こそ触れないものの、LFOがついていたり必要なものは揃っています。
先ほども述べたシングルエフェクトですが、こちらもかなりの種類が準備されていますし、これまた見た目のポップさとは裏腹に音がリッチ。私はウーリッツァーをアンプシミュレーターで歪ますみたいなのが好きですが、そういうのもいい感じにできます。
(アンプシュミレーターも複数タイプがある上、ものによっては細かくマイク位置とかもいじれます。ここまで来るとこの手の機材にしては過剰でゾクゾクしてくる。)
極め付きはDXトラックで、FM音源のフルエディットが可能。実際の作業のしやすさはさておき、本体のみでもかなりエディットでき、アプリを繋げると全体像を把握しながらできます。
各オペレーターもサイン波だけではない&フィードバック各々持つ、いわゆるDX7よりも次の世代のFM音源で、キースケーリングもできたりかなり凝っています。
名言こそされていないものの、仕様としては同社のreface DXに近いタイプに感じます。プリセット名もDX Legendなど重複しているものがあるので、結構確定に近い気もします。8音ポリでこれまたリッチ。
詳しいFMシンセシスにそこまで明るくないので、それについては詳しい方に譲ります。
アプリありき?
さて、これほどパラメーターが準備されていると、凝りたくなるのが人間の性。しかし、大前提として本体にはスクリーンはなく、ここまでの数のパラメーターをエディットするには無理があります。状態の把握も難しいです。パフォーマンスとしてグリグリ動かすには十分なツマミはあるしそこで不便はないのですが。
したがって、そういうことを追い込みたくなったら、アプリを接続しながら使用することになるのですが、割とここの作業がDAWっぽいというか「ざっくり作ってざっくりライブしようぜ!!」という感じではなく、ちまちました作業になりがちです。
せっかくすごくいい音が出るように準備されているのが、若干機材の持つ手軽さみたいなものを享受しにくくしているとも言えるし、反対にアプリを使ってあげないと深いところのパラメーターは触りにくかったりするので、「いい音」という本領を発揮させにくいとも感じます。
デザイン的にスクリーンレスにしたかった気持ちは非常にわかりますが、個人的にはスクリーンレスにこだわらず、せめてARTURIA MicroFreakくらいのサイズのモノクロOLEDスクリーンで良かったので、ついててもよかったのかなという気もします。そうなると5万円台は叶わない気がするので、おそらく、コスト的なことも鑑みて削ってるんだろうなという気はしますが。
ちなみに、結構LEDランプの表示自体はわかりやすいです。工夫されていると思います。サウンドデザインなどパラメーターに関連するツマミは4つあり、それが今何に対応しているかはランプで示してくれます。
これが結構かわいいと言うか工夫されていて個人的にデザインとしては好きなところです。ただ、それでも限界があるという話です。
あんまりアプリの出番が多いと、いくらスタンドアロンとはいえ、「スマホ用の音楽制作ソフトをコントローラーで操作している」ように錯覚してしまうのが唯一のマイナスポイントに感じます。これは、想像以上に「音」の部分が本気の仕様だった故のよくばりな感想です。
ビジュアライザー
ビジュアライザーに関しても「本気すぎる」。いろんなオブジェクトがあって楽しいですし、こちらもいろんな細かい設定ができます。私はVJソフトを触ったことないですが、さながらVJソフトのようという意見も見ました。
ただ、こちらに関しては先ほどの音源とは異なり、明確な不満点があります。結構目玉であるはずのビジュアライザーのAR機能が使いづらさを感じます。そもそも、AR技術というのがかなり高度なもので、それをちゃんと動かすためにキャリブレーションがかなり厳しいです。
動作が不安定で落ちるようなことはないですが、毎回平面の認識→映っている現実のSEQTRAKとアプリ側のSEQTRAKのワイヤフレーム画像を神経質に合わせる作業が絶対に入るのが使いづらい。
単純にカメラからの映像にビジュアライザーがレイヤーされているだけでも楽しいので、もっと適当に合成してくれていいのにという気持ちもあります。SEQTRAKを認識しないでも使えるモードがあると大変うれしい。そうすると、外の映像に合成とかもっとやりやすくなる気がするので。
ちなみに、こちらに関しては、もし動画編集の技術をお持ちの方なら、背景をグリーンにしてクロマキーとして抜いてしまった方が遥かに手軽です。音も無理にアプリで録ろうとせず、DAWで録って重ねる方がやりやすい気がします。(つまり、アプリにはMIDI信号だけを流して、無音のビジュアライザー動画を録っておいてそれを合成する)
スマホのスペックとか関係あるのかなと思いましたが、私が使用しているのは昨年末に買い替えたPixel8 Proで、そんなに非力なスマホではないと思っています。
DAW的であることをどう受け取るか
様々書きましたが、総じて、私個人としては満足しております。ただ、使いこなすのは難しいとも感じます。ボタンの組み合わせも多いですし。個人的にはそういうデザインにした以上仕方ないと思って、あまりネガとしては書きませんでしたが、同時押しが多いという意見もわかります。
その意味で、あんまり初心者向けというかラフに遊ぶ用途には向いていないというか、それだとあんまりSEQTRAKのいいところに触れきれないままな気がします。
ビジュアライザーにせよ、ちょっとコツというか、頭を使う場面が多いです。楽しいのは楽しいんですが、PRのテンション感とは違う。手放しで遊べるような見た目のポップさとは裏腹に、TEのそれとはノリが全く違います。本当にMUSIC PRODUCTION STUDIOです。そのギャップが面白くもあるんですが。
ちなみに、使うことそのものが難しいのではなく、単純に「できることの多さとUIとか筐体が釣り合っていない」だけに思えます。だからこそ、アプリがあるんだと思いますし、アプリは見やすくはあるんですが。ただ、スマホを出しちゃうと結局……という。
いっそのこと、プロジェクト機能をもっと拡張して、アプリ側でパターンをCubaseのMIDIイベントみたいにSEQTRAKのパターンを並べられるような感じにしてしまってもいいかもしれないと思いました。「ソフト内臓、プロセッサ内臓MIDIコントローラー」みたいな。
Ableton Pushのスタンドアロン版とかそういう感じだと聞きますので、たとえばCubasisが統合して動くとか。そうなってくると、本当に往年のQYシリーズに近づいていくので、それを嫌ってわざわざそうしてない印象も受けるので、これは望みは薄いかもしれません。
ただ、それにしたって、これが5万円台なのは破格だと思います。音源モジュールとしてでも元取れますし、普通にアプリとこんなに綿密に連携してるの自体凄まじいことです。なので、買いだとは思います。
最後に
今後もアップデートかかると思いますし、そこでどういう変化があるかが気になります。これは個人的な印象の話ですが、割とヤマハさんアプリとかの更新を面倒くさがるというか、面倒を見るのを放棄しがちな印象があるので、ヤマハさん、ちゃんと最後まで面倒見てくださいよ!!!!!それだけは唯一の願い!!!!!!好きだから!SEQTRAK!!!!!!
(了)
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