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年末気分が薄いのは経験値が足りないからだ

「なんか、年末って感じがしませんね」
昼休みに隣に座るパートさんが呟いた。
確かに日中15度を超える日も多く、初冬というより秋という感じがしないでもない。
でもそれだけだろうか?

「コロナが原因じゃない?」
ぼくが呟きにそう応えると、パートさんは笑いながら言った。
「それ、どういう意味ですか?ww」
「ww」にはおそらく「テキトーなこと言ってんじゃねえよ」という意味が込められているのだろうが、決してテキトーに応えたわけじゃない。

「ぼくが思うに、経験値が足りないんだよ」
「経験値?」
パートさんはまだぼくがテキトーなことを言ってると思ってる。
「そう、経験値。例年なら、ゴールデンウィークやお盆休みに遊びに行ったり旅行に行ったりしたでしょ?でも、今年はコロナでそれができなかった。それだけじゃない。飲み会やランチ会だって圧倒的に足りなかったはずだ。それらの経験が足りなかったせいで、感覚的に年末だと頭が認識しないんじゃないかな?」
我ながらかなり筋の通った理論だ。その手の学会に論文を提出すれば採用されるかもしれない。

「経験値ですか……」
ぼくの手応えとは裏腹にパートさんは納得してないようだ。というか、何気ない呟きに前のめりで応えるぼくを鬱陶しいと思ったのかもしれない。
チッ。

「もう今年が終わりって信じられない」
ウォーキングに付いてきた娘が、昼間のパートさんと同じようなことを言いだした。
「それな。なんでだと思う?」
ぼくはドヤ顔で持論を娘に述べた。
「なるほど!そういうことか!」
さすが我が娘。感覚は親子で似ているようだ。
持つべきものは話の通じる娘だな、とウォーキングで白い息を吐きながらマスクの下でほくそ笑んだ。



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