Letter's distance(レターズ ディスタンス)

「この手紙を 拾ってくれて ありがとう。 そんな あなたに 必ず 会いに行きます。」

それは かれこれ 1週間前の休日の出来事。

いつもいく海辺に 流れ着いた 1つの瓶。

時代錯誤に感じた その封を 解いた。

その内容が これだった。

彼は 待ち続けた。

一向に『会い』に来る気配なんてないまま 時だけが過ぎた。

正直 捨ててしまっても 問題無いとすら 考え始めた 3ヶ月後。

仕事を終えて 自宅のポストを 覗くと 宛名の無い 便箋が 入っていた。

「拾ってくれたんですね。 ありがとう。 今日は いらっしゃらないみたいでしたので 後日 また 伺います。」

いつなんだろう?

そして 怖い。

(何故 俺の家が 分かったんだ?)

眠れない日々が 続きそうだ。

何があるか分からない こんな世の中だから。

ー3ヶ月前ー

「ここでいいの? あけちゃん?」

『ワン!』と ゴールデンレトリバーの『あけちゃん』が 鳴いた。

どうやら ここらしい。

私には 全く 分からなかったけど ここがいいみたい。

私には 時折 あけちゃんの言いたいことが『見える』瞬間がある。

今日も 休日で 暇をしていたら あけちゃんに 叩き起こされて 今に至る。

潮風に 打たれながら あけちゃんを見てみたけど それ以上は『見え』なかった。

きっと これで 満足したかな?

あけちゃんは 颯爽と 歩き始めた。

これが『私達の始まり』になるなんて 思いもせずにいた。

ー3ヶ月後ー

「お散歩 行くよ?」

『ワン!』

いつも通り あけちゃんは 元気に 吠え返した。

でも その日は 違った。

いつものお気に入りコースを あけちゃんが 外れて 歩き出したのだ。

「どこ行くの あけちゃん?」

私の言葉なんて 聞こえていないほどの力で リードを 引っ張る。

『見つけた。』

あけちゃんから 聞こえてきた。

「え? 見つけたって 何を?」

『ワン!』

あけちゃんは とあるマンションの一室の前で ドッカリと 寝転んでしまった。

『お手紙。』

「えっ? …この前の?」

『ワン!』

嘘をつくとは 到底 思えない。

私は あけちゃんを 信じて インターフォンを 押してみた。

震えていた。

(怖い人だったら どうしよう…)

残念ながら 少し待ってみたものの 住人が 出てくることはなかった。

「…かえろっか。」

『…クゥ~ン。』

寂しそうな 鳴き声を漏らすと あけちゃんは 立ち上がって 私のお家に向かって トコトコ 歩き始めた。

(…どうしたらいいんだろう。)

何故だか 分からないが あけちゃんが 教えてくれた 道標を 見逃してはいけない気がしていた。

ー1週間後ー

あけちゃんの元気がない。

別に ご飯は たくさん食べるし 散歩にも 行きたがる。

でも なんか 哀愁を 帯びている。

(多分 あのことだよね…)

そう。

あの日から なんだか サッパリしない表情をしている。

「分かった! もう一度 お手紙書いて 行ってみようか?」

『ワンワンッ!』

嬉しそうに 尻尾が ブンブンしていた。

「気にしてたんでしょ?」

『クゥ~ン…』

自宅の鍵をかけて 忘れもしない あのマンションに 向かった。

『手紙』と呼ぶには あまりに 短い一言を 携えて。

『拾ってくれたんですね。 ありがとう。 今日は いらっしゃらないみたいでしたので 後日 また 伺います。』

インターフォンを押さない私を チラチラ見ていた あけちゃんだけど 大人しく ついてきてくれた。

「これでいい?」

『ワン!』

いいらしい。

ー数日後ー

また 来てしまった。

「あれ?」

この前までは チラシの一枚も入っていなかったはずの ポストから 白い紙の端が見えた。

「…これって…」

『見知らぬ誰かへ。 正直 怖かったけど 悪い人じゃなさそうなので お返事してみます。 まずは お名前を 教えてください。 そしたら 教えます。』

不器用な文面からも窺える 実直な性格に 思わず 笑ってしまった。

あけちゃんも 嬉しそうにしている。

急いで 自宅に戻り『名前入りの手紙』を 投函した。

「これでよし!」

満足気な 雰囲気を 察したのか。

あけちゃんは またしても 尻尾を ブンブンしてくれた。

ー数時間後ー

「…お?」

ポストの中に 見覚えのある便箋が 入っていた。

「来たんだ…どれどれ…」

鍵を開けながら 便箋も 開いた。

『私は 明河原雪菜と申します。 何度も ごめんなさい。 怖い思いもさせて ごめんなさい。 宜しければ あなたの お名前も 教えてもらえますか?』

そう 書かれていた。

いつの間にか『恐怖』は『安心』に 変化していた。

「…これでよし!」

コンビニで買ってきた お弁当を 電子レンジで 温めながら『名前入りの手紙』を ポストに入れて 眠った。

ー翌日ー

「よく寝たな…」

志紀は そう呟いて 休日を迎えた。

「…そうだ!」

時計の針は 13を 過ぎていた。

勢いよく ポストへの階段を 駆け抜けて 中を覗く。

「まだ 来てない…」

先程の勢いを失って 階段を 登った。

「夜の飲み会まで 時間あるし もう一眠りするか…」

残念感を 隠しながら 目を閉じた。

ー数時間後ー

「わかったから! そんなに 慌てなくても!」

今日は あけちゃんが そわそわしている。

妙に 急かすのだ。

「…あった…!」

息を切らしながら その手紙を 開いた。

『おはよう。 いや こんにちはかな? 雪菜さん。答えてくれて ありがとう。 私は 澤野志紀と 申します。 出来るなら 今度 聞きたいことがあるので 会えませんか? 日時は 合わせるので。 返答していただけると 嬉しいです。』

そう 書かれていた。

(私に 興味があるの? しかも 聞きたいことって なんだろう?)

そう 考えながら またしても 急いで 手紙を『書き直す』ことにした。

そして また『投函』した。

「…楽しいなぁ。」

最近のあけちゃんは いつでも ご機嫌だ。

その理由に 私も あけちゃんも 気付いている。

きっと『笑顔』だからだ。

時計の針は 15を 指していた。

ー数時間後 夜ー

「風呂入っていくかぁ…と その前に。」

少し肌寒い空の下に 上着を 羽織って ポストに向かった。

「…あった。…つうか 寒くねぇか 今日…」

秋の始まりに 文句を垂らしながら 手紙を 開いた。

『こんばんは 志紀さん。 雪菜です。 聞きたいことって なんだろうって 思いながら この手紙を 書いています。 来週の日曜日が お休みなので その日に 会えたら 質問に お答えします。いかがですか?』

「来週の日曜日…有給でも とるか 久しぶりに。」

心の高揚を 誤魔化しながら シャワーを 浴びた。

志紀の 心は もう 来週の日曜日に 向いていたのは 言うまでもない。

「ちょっと 遅れるな…連絡しとくか…」

志紀は『快諾』の旨を 綴って ポストに 手紙を 放り込んで 駅に向かった。

ー日曜日までの 1週間ー

二人は『あえて』その日が くるまで 会わないことにした。

そして 文章上で 言葉を 交わし合った。

高鳴る 胸の鼓動を 互いに 秘めながら。

ー約束の日曜日ー

『ジリリリ!』

携帯端末の目覚ましで 二人は 目を覚ます。

雪菜は アイシャドウに 想いを乗せた。

志紀は 雪菜の影に 想いを馳せた。

そんな 二人が 出会う。

「ブーツを履いた 優しい雰囲気の人…」

これは 志紀からの情報と 雪菜の想像が 混じっている。

「スキニージーンズに スニーカーで 優しい雰囲気の人…」

これは 雪菜からの情報と 志紀の確信が 混じっている。

『見つけた!』

二人は 声を揃えて『First contact』を 果たした。

駅前の『ドトールコーヒー』に 二人は 腰を下ろした。

「…」

「…」

何から 話せばいいのか 分からない。

『あの…』

被ってしまった。

『お先に…』

また 被ってしまった。

『聞きたかったことが あって!』

『伝えなければいけないことが あって!』

『笑顔』の始まり。

これからも 続いていく。

『ワンッ!』

今まで 大人しくしていた あけちゃんが 二人の『笑顔』を 祝福する。

『大丈夫だね。』

雪菜には 確かに そう聴こえたのだった。


※この物語は あたすの『フォロワー様』の ご出演により 成立しております。
感謝 申し上げます。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?