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春が運ぶ橋の行方を

こんな僕でも 誰かを 愛せるんだ。

何を持って 愛していると 言えるかは 人それぞれなんだろうけど。

それでも 僕なりに 愛していると 言い切れるだけの心の揺らぎが 確かにあった。

「春風(はるか)って いつも 元気だけど この桜並木を 歩いてる時は 特別 嬉しそうだよな。」

この季節は 組んでいる腕の稼働が 忙しい。

いつも以上に 不規則に 振り回されるのは それだけ 春風(はるか)が 楽しんでいるからなんだろうなんて 僕の心も 楽しんでいたのを 数分前の時計みたいに 思い出せる。

「そうかなぁっ?!」

弾んだ呼吸に 溶け込んで 鼻を刺激する 桜の香りを 忘れられるほど 記憶力は 落ちていないようで。

いつも 待ち合わせしていた 公園は この季節になると 春風(はるか)を いつもより 輝かせることに 特化していた。

「はしゃぎ過ぎると また 身体に障るぞ?」

春風(はるか)は 慢性的な喘息持ちだった。

楽しんでいる姿は この世の何より輝いているのに 度を過ぎると その笑顔は 苦悶に変わってしまう。

「自分で コントロール出来るから 大丈夫だよ!」

なんて 強く言われたら 否定するのは どうにも 違う気がしていたけど やっぱり 春風(はるか)を 想うと 心配になってしまうのも 事実だった。

「自分だけの身体じゃないんだぞ?」

って 凄んで 1度だけ 注意をしたことがあった。

「…ありがとう。」

儚さを帯びた感謝は 朧気で 胸を締め付ける 切なさも 同時に 帯びていた。

1度見てしまった その顔が 焼き付いて 眠れなかった。

そして 言ってから 春風(はるか)自身が 一番 感じているはずだと 眠れない夜に 考えていた。

それから 春風(はるか)は あんまり はしゃぐ過ぎることが 減っていった。

今 思えば それは 減ったのではなくて 出来なくなっていったのだと 分かる。

1度 注意をしてしまった時から 約1年が 経った頃。

「シュウちゃん…しばらく 会えないかも。」

マジメな顔と口調で 呟いた。

それもまた この季節の お決まりの場所だった。

「知ってるよ…いままで 春風(はるか)の傍に居たのは 誰だよ?」

天気予報は 快晴だったはずなのに。

春風(はるか)から 流れてくる風は 冷たかった。

晴れやかな楽しさを 楽しめなくなっていく春風(はるか)を 見てきたから。

会える頻度が 減って。

会える時間が 短くなって。

少しずつ 無理をしているのを知りながら 取り繕った。

「私 シュウちゃんと 一緒に居たいよ…」

僕には その時 止めるだけの覚悟も決意も 出来なかった。

それでも 春風(はるか)は 僕の一部だった。

「会いにいけばいいだけだろ?」

僕に 出来ること。

一緒に 泣いてあげることでも。

別れを切り出すことでも。

上部だけの 優しさそうに聞こえる言葉でもなかった。

「こんな私でも 本当に 会いたい?」

僕よりも 辛いはずの春風(はるか)が 告げた。

「何も 出来ないから 傍に 居させてくれよ。」

頭上で カサカサと揺れる枝が 上下に 揺れていた。

あれから どれだけ 桜並木は 成長したのだろう。

桜の木達が 大きくなったと 感じれる程には 過ぎた。

「お父さん! お母さん! おはよう!」

こっちの方が 分かりやすいかもしれない。

「おはよう…春架(はるか)。」

「はるちゃん おはよう!」

また 君と 出会った季節が 訪れる。

「同じ読みとか どうなのかな?」

ちょっと 疑問符が 強めの春風(はるか)の言葉。

「春風(はるか)が 繋いだ命でしょ? 春風(はるか)と 僕が架けた命のバトンなんだから いいじゃない?」

いつか 分かるようになったら 伝えよう。

僕の鼻をくすぐる香りは いつも君。

いつからか 季節さえも 関係無くなったけれど。

だから。

だからこそ 君が 良かったんだ。

「二人とも お散歩 行かないの?」

行き先は 伝えずとも 聞かなくとも 知っている。



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