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会えた時には 生ジョッキ

「かんぱぁ~い!!」

勢いに任せて ぶつけあったのは きっと ジョッキだけじゃなかったはずだ。

乗り越える姿を 見てきた。

時には 一緒に 乗り越えてもきた。

知っているから この『威力』だったんだ。

合わせたジョッキの数以上の想いが ここにはあった。

「まさか こうなるなんてな笑」

「それな笑」

「本当だよ!」

「また 集まれるとは 夢にも 思わなかったよね…」

5年前。

それぞれの夢を 語りながら どうするべきかを みんなで 考えていた。

お互いの思いが 交錯していたと 今にしてみれば 分かるけど その当時は 構っていられなかった。

「結果的に 男性陣は 夢を 追いかけて 女性陣は 現実に 落ち着いたってとこか笑」

俯瞰するように 呟いたのは 洸矢(こうや)だった。

無口だが 発する言葉には いつも 芯を捉えた 重さが 伴っている。

「今を楽しんでるけどね笑」

絢奈(あやな)は あっけらかんと 放った。

明るくて あまり 考えていないように 見られているけど 実は 人一倍 考えていることを 知っている この面子は 微笑みながら 頷くばかりだった。

「大変だけど 自分で 選んだ大変さだから 俺も 全然 楽しいけどな笑」

ここにいる みんなを 見渡すような 快活な笑顔を しているのが 匠馬(たくま)だ。

目標を どうすれば 達成出来るかを 効率的に 導きだして 今は 彼自身が やりたいことを やっている。

だからこその この笑顔と声音なのだろう。

「私が 1番 驚いてるところあるんだよね…」

柄にもない 憂鬱な表情をしているのは 奈都実(なつみ)で 素を知っている 他の三人は 笑いを 堪えるのに 必死に なっている。

流れに 逆らわない。

「成るように 成るよ!」

それが 奈都実の 口癖だった。

この不思議な 4人は 何故だか 波長が 合った。

本気で お互いを考えてはいるものの 本気で 喧嘩をしたことは 1度たりとも無いのだ。

「で 洸矢くんよ…相変わらずか?笑」

匠馬が ニヤニヤしながら 洸矢に 尋ねた。

「悪意しか感じないのは 俺だけなのか?笑」

絢奈と奈都実も 悪い笑みを 浮かべていた。

「けどさ いちいち 言ってるの お前ら だけだから。」

結局は 洸矢の無意識な 真摯さを纏う言葉で 優しくなれる。

洸矢は 知らないかもしれない。

その何気無い言葉達が 三人の心を奮わせて 今に 至ることを。

そもそも この集まりの発端になったのだって 洸矢の『そろそろだな…』から 始まっていた。

匠馬は 基本的に 決定する際は 自分1人で 決めることが 必然になっていた。

絢奈は 相談する相手を 心の底では 求めていたけど そんな時に 決まって 声を掛けてもらっていた。

奈都実は 流れに逆らうべき瞬間を 教えてくれる 唯一の存在だと 認識していた。

「それぞれ 人生を楽しんでいるってことで もう一回 改めて 乾杯しよう!」

洸矢の一言に みんなが 生ジョッキを 持ち上げる。

カラン。

カシャン。

各々の感情を乗せた 4つの生ジョッキが 産声を上げた。

また ここから 始まっていく。

過去を過ごした この場所にある ビアガーデンで。

今を 燃やす。

きっと 汗ばんでいたのは シャツだけではないと この4人は 知っている。

湿気を 忘れるほどに 互いを 伝え合う。

刻む。

この夏を。

ただ。

※この作品は あたすのフォロワーである『アセアンそよかぜ』様のリクエストに 応えさせていただいた作品になります。

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