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流桜(るおう)

河川を 風に 雨に 吹かれた桜の花びら達が 流れていく。

少し散ってしまった桜並木が 足を止めさせた。

(綺麗だな…撮ってみるか…)

ピントを合わせてみたけど 中々 いい位置を 見つけかねていた。

(おっ! ここ いいな。)

身体ごと その位置を確保しようとした。

「…いたっ!」

ピントを合わせるのに 夢中で 周りを見ていなかった。

「ごめんなさい!」

尻餅をつかせてしまったのは 同い年くらいの女性だった。

「私も ここが いいなって なってたから…ごめんなさい。」

立ち上がりながら 愛想笑いを 浮かべられてしまった。

なんだか 申し訳ない。

「お先にどうぞ。」

感情の読めない微笑みを浮かべて 彼女は シャッターを切った。

「どうぞ?」

薦められてしまったから 慌てて シャッターを切った。

今度は ピントが 合わない。

「ボヤけた…」

その一言に 覗き込んでくる彼女。

「もう一枚!」

間髪入れずに シャッターを切った彼女の端末に 写っていたのは 呆気に取られた僕と 絶妙に射し込んだ日光を帯びた バカらしくも 美しい一枚。

「これ あげるね?」

半ば 強制的に 連絡先を 交換してから 3度目の春が来た。

「今年は あなたが 写す番だね!」

そこには 笑顔の君と 出会った あの日に どこか 似ている日射しが 初めて ぶつかった瞬間を 思い出させる。

3年前に 見た この同じ場所の桜は 時が 流れても 色褪せない。

「また 来年も 来よう。」

繋いだ掌から 伝わってくる 温もりは 日射しよりも 遥かに 暖かった。

「来年は 私の番だね!」

季節を越えて また ここに 来よう。

二人は 流れていく桜に この3年間を 映した。

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