7人目の迷子、なもなき

 7人目の孤児である「なもなき」は左手であることを悟った。

 なもなきは迷子の子だった。ある日、ふと現れたあの子は小さく震えており、それにアオが寄り添ったイメージを覚えている。しばらくして、アオがその子を導き育てるような気がしたのだった。
 一度なもなきに絵を描かせてみたが、あまりしっくりこなかった。なもなきが描いているというよりかは、まだアオイの意志でなもなきに描かせているという感じがあった。しかし、その描かせている間に、右手の小指の感覚がいつもと違っていた。右手の小指のことは、知ってはいたが意識することがあまりなかったかもしれないなと思った。
 なもなきはその、私自身が忘れているいろいろな部分を担当してくれるのかもしれない。そこで考えた。私が忘れている部分、部位とはどこであろうか。いまだあまり気づかれずに成長を待っているところ。右手の小指よりもさらに気づいていないところ。

 それが左手だった。左手について、考えを深めてみよう。

 私は幼少期から右利きで、箸を持つのも、絵を書くのも、何か物を掴む時にも右手が先に出る。これは社会に適合した結果であろうが、でもずっと左手の存在への憧れがあった。左利きの人は天才肌という触れ込みが世の中にはあるし、自分自身でも左利きの人はなんだか形容し難い憂いと優しさを持つ人が多い気がしている。ロバート・フリップも元は左利きだというし、今調べたらあらゆる時代の芸術家や作り手は左利きだったみたいだ。

 私のマッサージでは右手の方が上手いと自覚している。流暢に動けるのが右手で、指圧する時も基本右手の親指で圧をかけ、左手は添え物だという認識だった。その積み重ねがもしかしたら、なもなきの発生に関係しているのかもしれない。
 なもなきの容姿について。なもなきはだいたい3歳くらいの小さな子どもだ。くせっ毛で、その毛は赤毛のアンみたいな赤色をしている。日本人離れの顔立ちで、そばかすがあって少し暗めの灰色の瞳をしている。ほんのすこしだけベージュがかった白色の園児服を着ていて、いつもへしゃげたクマのぬいぐるみを持っている。クマは綿があまり入っておらず、細長い体つきをしている。全体的にはサーモンピンクが埃かぶったような色で、お腹周りだけ白く、ドラえもんみたいに真ん中にポケットがついている。そのクマのぬいぐるみを引っ提げて、何かしたいけどそれがわからなくって我慢しているような顔をみせる。

 そのなもなきの様子はだいぶ昔のアオと同じだった。それにアオは感化されたのだろう。今も彼のそばに寄り添ってお話ししている。左手のなもなき。その子の性別がまだよくわかっていない。性別があるのかもわからない。彼と書いて、彼なのか?と問う私がいる。彼なのか彼女なのか、その認識はもう少しなもなきが成長してからの話かもしれない。
 なもなきという名前も初めはなかった。名前すら忘れているその子のことを母に話すと、「なもなき」という言葉が彼女の口から出てきた。なもなきはなもなきが良いと言ってくれた。命名は母によってなされた。 

 しばらく、左手を意識して生きてみようと思う。なもなきの表情が少しずつ変わってくるような気がする。なもなきを成長に導く、アオはそれをしたいらしい。アオは私たちの象徴だから、それを受け入れてやってみようと思う。なもなきがやりたいことはなんでもまずさせてあげる。我慢はさせない。とりあえずなもなきが楽しいと思うことをさせてあげたい。

 少し考えた。なもなきが性別不明と書いたが、やっぱり男の子かもしれない。アオイの導きじゃなくて、アオの導きの方がイメージできるからだ。だが、男の子だったとして、彼はどこに向かうのか。
 なもなきはもしかしたら、マッサージの名手になるかもしれない。右手よりも流暢に動くことができれば、身体の使い方がより良い方向に向かうかも。この変化に気をつけて、しばらく観察してみよう。

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