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短編小説『老人と商社マン』

仕事で某地方へ出張中のエリート商社マンAは、沖合いで釣りをしている老人Bが目に入り込んできた。

Aはこんな場所で魚が釣れるのかと不審に思い、その確認も兼ねて老人Bの近くまで足を運んだ。

商社マンA『こんにちは。どうですか?魚は釣れてますか?』

老人B『見ての通りだよ。全く釣れないね。』

確かに周囲で釣りをしている人の気配も無く、老人の暇つぶしなのだろうとAは察した。

Aは『もっと釣れそうな良い場所があるのではないですかね?』と親切心を出して、更に話しかけてみた。

するとBは『人の多い所は苦手でね…それに、こんな物しか趣味が無いんだけど、釣れなくても別に構わないんだよ…』と、覇気の無い返事が返ってきた。

そこでAは商社マン魂に火が付き、老人にビジネスを提案してみる事にした。

A『実は御提案があるのですが、折角なのでその趣味を商売にしてみませんか?』

B『どう言う事だね?』と、老人は少し驚いた様子で返答してきたが、実際にはあまり関心の無さそうな態度だった。

A『魚が大量に取れそうな場所を見つけて許可料を払い、そこで釣れた魚を市場に卸すんです。』

B『それで?』

A『それから、漁船を買うんです。そうすれば、もっと大漁になります。』

B『それで?』

A『そしたら今度は冷凍倉庫を借りて、魚を加工してストックするんです。そうすれば、市場だけでなく国内のホテルやレストランからもオファーがきますよ。』

B『それで?』

A『今度は更に規模を拡大して、海外に輸出するんです。もっと利益が出て、裕福になれます。もちろん、それまでの計画や銀行との融資方法も全て私がやりますので…』

B『何だか良く分からない話だな。で、そうなったとして私は最終的にはどうなるんだね?』

A『もう、何もしなくても悠々自適な生活が約束されます。そうすれば、貴方の好きな釣りが毎日できるんですよ。』と、自信を持って老人Bに答えた。

B『なら、そんな大層な事をしなくても、こうしている今と何も変わらないじゃないか…』

A『えっ…』

(完)

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