後期つわりの対策法
こんにちわ。
今回は後期つわりで悩まれている妊婦さんに向けた記事となります。
・後期つわりの原因が知りたいです。
・後期つわりの症状が辛いので楽になる方法が知りたいです。
この様な疑問にお答えします。
この記事のテーマです。
1. 後期悪つわりの症状・時期・原因・対処方法について。
2. 後期つわりの対象法について。
3. 後期つわりの鑑別疾患として注意するべき疾患について。
- 研修医・医学生の方向け
4. 追記:後期つわりの際に使用する薬剤
- 使用する薬剤に心配し過ぎないために
早速みていきましょう。
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後期つわりとは【症状、時期、原因、対処法について】
■ 後期つわりの症状
多くの場合、妊娠後期の吐き気は妊娠自体と関係があり、病的な症状ではなく、生理的な症状です。
具体的には嘔吐、吐き気に加えて、げっぷや心窩部痛(みぞおちのあたりの痛み)、胃痛などがあります。
■ 後期つわりの症状が出てくる時期
お腹が大きくなることが原因であれば、妊娠後期から症状がどんどん悪くならないか心配です。
この様な心配をされる方も多いと思います。
ところが妊娠週数が進んでくると、赤ちゃんの頭が下がってきます。(産まれる準備をするために降りてきます。)
そのため37週、38週頃になり週数が進んでくると、症状は悪くなる訳ではなく、赤ちゃんが生まれる準備として子宮の出口(子宮口)に近づいて降りてくると、後期つわりの症状は楽になってきます。
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後期つわりの原因は
■ ホルモンによる身体への影響
そもそも「後期つわり」という病名はありません。
「つわり」は基本的に妊娠初期(妊娠5週~16週)に起こる症状を定義したものです。しかし妊娠後期にも同じような症状が出てくることがあります。
そのため俗称としてに「後期つわり」という言い方を使います。後期つわりというだけあり、初期の悪阻と共通した部分もあります。
妊娠週数が進んでくるにつれて、胎盤からホルモン(プロゲステロン)が分泌されます。そのホルモンによって、胃や腸などの筋肉が緩んでしまいます。医学的には「下部食道平滑筋が弛緩する」とも言います。
そのため胃や腸の動きが低下してしまい、妊娠していない時よりも「消化が悪くなる」と感じてしまいます。
■ 赤ちゃんが大きくなるための身体への影響
増大した子宮は胃を圧迫し、
分泌されるホルモンが腸管の動きの低下に影響します。
また、妊娠週数が進むにつれて赤ちゃんは大きくなっていきます。
上の図を見て頂くと分かるように、赤ちゃんのいる子宮の上(頭側)には胃があります。赤ちゃんが大きくなるにつれて、胃が圧迫されてしまいます。
そのためにご飯を食べても、食べ物が胃を通過する時間がかかってしまいます。
妊娠していない時であれば食事をしてから5-6時間もすると、摂取した食べ物が胃の中に残ってないのですが、妊娠後期にもなるとまだ残っていることがあります。
ただ胃に食べ物が残っているだけなら時間を置いておけば少し楽になりますが、それ以上に胃が圧迫されると食道の筋肉もホルモンの影響で緩んでいることもあり、胃酸が食道にまで上がってきてしまいます。
この状態を「胃食道逆流症」といいます。
あまりにひどい胃食道逆流症になると、胃薬、吐き気止めなどを飲む必要も出てきます。(胃薬や吐き気どめの赤ちゃんへの影響については後ほど説明します。)
このように、妊娠初期のつわりはホルモンバランスの崩れによるものですが、一方で妊娠後期のつわりは物理的な胃の圧迫+ホルモンの影響が原因です。
ここで後期つわりの対策法について解説していきます。
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後期つわりへの対処法
先日以下のツイートをしました。
この対策方法について深掘りして解説していきます。
1. 寝方を工夫する
後期つわりは胃が圧迫されて、消化管の働きが悪くなっている状態です。仰向けになると重力によって、胃が圧迫されやすく胃酸も逆流しやすくなります。
寝る時には、布団を畳んで背中に入れるなどして少し体を起こして寝ましょう。(半座位での就寝)
2. 食事対策
後期つわりの原因は「大きくなった子宮が胃を圧迫すること」です。
そのため食べ過ぎに注意した食事摂取をしましょう。
具体的に後期つわり対策の食事摂取の仕方を挙げていきます。
・消化に良いものを食べる。
・一回あたりの食事量を減らして回数を増やす。
1日3回→5・6回へ食事の分割摂取など
・胃への負担軽減のために水分を取る時期と食事の時間をずらす。
→ただし、脱水に注意して水分制限はしない様に注意する。
・刺激物(胃に負担のかかる食材)は避ける。
・寝る前3時間は食事を摂らない様に心掛ける。
・食後にすぐ横にゴロンと寝ない。
■ その他、注意するべき点
妊娠初期のつわりと同様に注意するべきポイントもあります。以下にまとめておきます。
・脱水に注意(深部静脈血栓症のリスクとなるため)
・ビタミンB1不足によるウェルニッケ脳症に注意
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後期悪阻の鑑別疾患として注意するべき疾患
- 研修医・医学生向け
悪阻と思っていても実は「胃がん」だった症例報告など、注意すべき鑑別疾患が多くあります。
妊娠中に増悪する他臓器の疾患として、消化管の疾患(虫垂炎や胃腸炎、胃潰瘍、十二指腸潰瘍)や、その他にも肝疾患が色々あります。吐き気に伴って頭痛がみられる際には「くも膜下出血」も鑑別の1つに挙げる必要があります。
また、「妊娠高血圧症候群」の症状の一つとして吐気や嘔吐もあります。
そのため、中々良くならない場合には鑑別疾患に十分に注意する様にしてください。
さらに以下の様なツイートもありました。
特になかなか良くならない時には上記の疾患も鑑別に入れた上で注意して入院管理を行う様にしましょう。(以下、参考文献です)
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まとめ
今回のポイントのまとめです。
・食事は1回の摂取量を減らして、5・6回程度の分割食にする。
・食事摂取後はすぐ横にならない。
・寝る前3時間は食事を摂らない。
・消化に良い物をなるべく食べる。
最後まで読んでいただいて有難うございます。
妊娠初期の悪阻と後期の悪阻が異なるとは言え、症状が酷すぎるとケトン体が蓄積して点滴が必要となることもあります。
中々症状が良くならない方がいれば必ず医師に相談するようにしましょう。
みなさんがより良い妊娠生活を送られることを祈っています。
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追記:後期悪阻の際に使用する薬剤
■ 胃薬
第1選択はアルサルミン®︎(スクラルファート)やマーロックス®︎(水酸化アルミニウムゲル製剤)というものです。
それでも良くならなった時には、ガスター®︎(ファモチジン)、タケプロン®︎(ランソプラゾール)を使用します。
ガスター®︎はH2受容体拮抗薬という部類に属するもので、タケプロン®︎はプロトンポンプ阻害薬(PPI)に属するものです。
【参考文献】 » 薬物治療コンサルテーション 妊娠と授乳
■ 制吐剤
日本では吐気止めに対してはプリンペラン®︎(メトクロブラミド)を良く使用します。
※ プリンペラン®︎は有益性投与となっており、児への影響はほぼ否定はされていますが、長期間の投与によるリスクも指摘されており10週以降の使用と長期投与は避ける様にとの報告があります。
そのほか、制吐剤にはいくつか種類がありますが、RCTで成績があり北米で積極的に使用されている薬剤を紹介します。
・ dimenhydrinate (ドラマミン®︎)
・ promethazine(プロメタジン®︎)
・ metoclopramide(メトクロプラミド®︎)
・ ondansetron(オンダンセトロン®︎)
・ methyprednisolone(メチルプレドニゾロン®︎)
※ 上記のリストは日本産科婦人科学会の公式見解ではなく、北米での優先順位を踏襲したものですが、日本産科婦人科学会のガイドラインでも参考に記載されています。
【参考文献】
» 薬物治療コンサルテーション 妊娠と授乳
» Authors not indicated. : Nausea and vomiting of pregnancy. ACOG Practice Bulletin number 52, April 2004. Obstet Gynecol 2004; 103:803-814 PMID: 15051578(Bulletin)
■ サプリメント
吐気を緩和してくれるビタミンとしてビタミンB6があります。(但し日本産科婦人科ガイドラインでは推奨レベルCとなっています。)
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最後まで拝読して頂き有難うございます。
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