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POLA美術館 ピカソ「青の時代を超えて」展 小さな記録

こんばんは。
先日1人で行ったPOLA美術館 ピカソ「青の時代とそれから」が素晴らしかったので書き残します。
POLA美術館は箱根の山奥にあるガラス張りの透明感あふれる大好きな場所。
冬空の薄いスカイブルーと葉を落とした森を全面に移した美術館に、ピカソの「青」。朝でも夜でもない青(私には夜明け前に思える)、空と海を混ぜた青。そこに落とされる赤の匂い立つような鮮やかさが胸にささる「海辺の母子像」が今回の展覧会の象徴的一枚になっている。



アカデミー賞で話題になった村上春樹原作映画「ドライブ マイ カー」で、瀬戸内海の海と空を混ぜて靄をかけたみたいな青の中を走る赤い車の映像をみて、青の中に投入された赤の美しさに感動し、その時思い浮かんだのがこの母子像だった。

青の時代といえばピカソ20歳前後の迷い多き貧しい時代。新しいキャンパスを買うお金がなくて、絵を描いては塗り潰し、を繰り返していたそう。母子像の背後にはまた別の絵画があることを最新のX線技術は明らかにしている。

この母子は夜とも朝ともとれる深い青の中で、空と海の間で、絶望も希望もたたえている。哀しみも喜びも滲み出している。解説を読み、当時は娼婦が多く育児が許されていた刑務所の中で女受刑者を描いた一枚であることを知った。この母子の未来は暗いかもしれないが、生きているその身体がある限り未来はある。冷え冷えとした青の静寂の中に浮かび上がる鮮やかな赤が、生きる情熱と希望の光に思える。いつもそばにおきたい一枚になった。

青の時代の作品は続き、その後変遷を経てキュビズムという四角と直線で概念的にモデルを描くザ・ピカソともいうべき時代へ入る。
有名な大作ゲルニカを終え、ベトナム旅行でリラックスしたピカソの可愛らしい一枚が印象的。
ポップな色彩で見ていてウキウキさせられる。

青の時代の作品を描いた作者と同一人物と思えないくらいポップなんだけど、どちらも写真ではその吸い込まれるような色彩が半減してしまうから、直接目に焼き付けることをお勧めします。他の作品もとにかく色彩が素晴らしかった。絵の具の調合が並はずれていた。すごいって言われ続ける芸術家はやはりすごい。有名なものには有名たる所以がある。それを感じた。

納得がいくまで何度も作品を塗り替えていくピカソの、一枚のキャンパスの上で気が遠くなる程に絵が変化する様を壁一面の動画で紹介した展示もとても良かった。文字で書いてもピンと来ないだろうから是非自分の目で見て欲しいものです。
迅速に最適解を提出しなくていいんだ、ごちゃごちゃ言いながら納得するまであーだこーだ悩んで塗り替えたらいいんだ、と、偉大な芸術家の背中に教えられる。
荷物は重いが(グッズがめちゃくちゃ良かったので色々買っちゃった)心は軽く、ガラスの箱舟みたいな美術館を後にした。胸いっぱいに冬の箱根の空気を吸い込んで。この展覧会のためだけに箱根に来たけど大正解だった。感受性がごそごそ動いて、生きてる!って感じた。


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