プリンシプルベースアプローチ
プリンシプルベースアプローチという言葉を見かける事があると思います。
プリンシプルベースアプローチとは、金融機関に関して言えば金融庁のHPに以下の様なものがあります。
規制対象の金融機関が尊重すべき重要ないくつかの原則や規範を示したうえで、それに沿った行政対応を行っていくということ
とのことです。
対立概念ではありませんが、別途ルールベースアプローチとは
ある程度詳細なルールや規則を制定し、それらを個別事例に適用していくということ
とのことです。
さて、先日南海トラフ地震情報が発信されましたが、これを聞いたとき過去の記憶が想起されました。
私は阪神淡路大震災の時には大阪の拠点に勤務しており、西宮市にある勤務先の寮に住んでいました。その揺れ方は半端なく、それはすごいものでした。5時47分に地震が発生し停電が発生、すぐ食堂に集合し全員の無事を確認後、6時30分過ぎには同僚の車に分乗して勤務先に向かいました。銀行員おそるべしです。
最寄駅前のビルが全壊している状況、阪神高速の走行部が下に落ちている状況を見ながら一般道で勤務先に向かい、通常なら30分程度で着くところ、2時間少しかかって勤務先に到着しました。(出た時間が早かったのでこの程度で済みましたが、出発が少し遅れた同僚は正午くらいに到着しました)
到着してから、出勤できた人員と、担当部署のバランスを確認、預金窓口、融資、外為の人員がいることを確認し、出勤できた人数は僅かでしたが、オンラインは稼働していたので、開店する事が決定されました。
1月17日は休み明け、15日の翌営業日で法人の決済日でした。融資の実行が出来なかったり、手形割引が出来なかったり、振り込みが入ってこなかったりすると不渡が発生しかねない状況でした。
業務を開始すると、徐々に事態の深刻さが明らかになってきました。当日の当座預金の手形決済資金に充てる為に割引手形を遠方から徒歩で持ってこられた企業もありました。また、予定していた振込入金がない企業、逆に決済資金を仕入先に送金したいが、来店できずどうしたら良いか?といった相談が電話であったり…。手形交換所が潰れて手形小切手の交換持ち出し不能が判明したり、どうしても現金出金が必要乍ら来店できず加えて印章を地震で紛失したお客様が別の支店に来店され照会の電話が入って来たり…。それは大変な状況でした。
その大変な状況に対応している時に、私は規程が決まっていることの有り難さを痛感していました。起こっていた事はどれもこれも規程に決まっていないこと、と言うか想定していないことばかりだったからです。
そんな状況下、当時の支店長が自らの責任で難題を捌いていきました。ルールに決まっていない対応を行う旨所管本部に報告し、捌いて行きました。例えば膨大な振込データを東京の電算センターに毎日新幹線で若手に持ち込ませたり、役員決裁の融資稟議は役員に電話で直談判し口頭決裁を取り付けていました。もはや信頼関係が拠り所の世界てす。その支店長の判断は規程の主旨を踏まえてギリギリの状況下で妥当な対応をしていました。まさにプリンシプルベースの判断と対応でした。
「責任は俺が取る。何も心配せずお客様にできる限りのことをせよ」これが我々に対する支店長の指示でした。
今でもその支店長は最も尊敬する方の1人です。
その後、役員が担当店を回って融資稟議を決裁して回る暫定ルール、振込データを輪番で近隣の支店の代表が取りまとめて毎日新幹線で東京に持ち込む暫定ルール、その他暫定ルールが次々と決まって全店に本部からFAXで示達されていきました。
まさにルールがない中で然るべき対応を現場で行い、後から明文ルールが決まっていく状況を目の当たりにしたことを今でも強く覚えています。
金融機関に限らず変化が早い現代に於いてプリンシプルベースアプローチによる現場力が一層重要になって行くでしょう。アラ還おやじとしては、これからの時代を担っていく若者たちがプリンシプルベースアプローチのアクションが出来るのか?が心配になります。規程は暗記しても、規程に明確には定められていない事象が発生した時どうするのか?何だか、大学入試を暗記重視から思考力重視に変えようとしている部分とどこかダブります。
極端に言えば決まっていることを決まった通りにやるのは誰でもできます。明確に決まっていないことを自ら考え妥当な結論を導き出しアクションし責任を負う力を養うことが教育の場に求められるべきではないでしょうか?難関大学を出て有名企業に就職しても、プリンシプルベースアプローチができないと厳しい気がします。
決まってないことはやって良いのか?それともやってはいけないのか?
難しい問題です。
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