教本を一冊作る〜「クラシックギターワークアウトブック」ができるまで

YAMAHAから新しい本が出ました!

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YAMAHA(ヤマハミュージックエンタテインメントホールディングス)から「1日に3つのフレーズを5分ずる弾くクラシックギターワークアウトブック」という本が出ました。一冊全て僕が書きました。普通の人にとって教本ってどういう流れで出るのかなー?と未知の世界ですよね。どんな感じで作っていったのかを記録に残しておきたいと思います。

6月頃企画打ち合わせ

もともと数冊の本をYAMAHAさんから出しています。

2019年3月に「クラシックギターの教科書」2020年1月に「子どものためのクラシックギターレッスン」を出しております。これがコロナのひきこもり楽器ブームでとーーっても売れました。まあ、そんなこともあって、また何か作りましょうかね?という話はずーっとあったわけです。

この時の担当さんは残念ながら2020年夏過ぎに他界してしまいました。この担当さんが「ちょっと富川先生にやってもらいたい次の企画が何個かあるんですよね」と言っていたのは覚えていました。というわけで、彼が残した企画をまずはやろうよ!ということでYAMAHAの担当さんと打ち合わせすることになったのです。

こちらもいくつか次の教本についてのアイデアがあり、それも持って行ったのですが、まずはこの前の担当者が残したものをやってしまおうと。そんな流れ。

270個もエクササイズを作るの??

「クラシックギターの教科書」はYAMAHAの「教科書」シリーズの1つです。で、この教科書を担当した人が「ワークアウトブック」という本を書くという流れになっているのだとか。そういう話をされました。

まずは富川先生、ワークアウトブックやりましょう!と。

その内容は以下のようなもの。

1日に3つのエクササイズを5分ずつやる。5日で1つのテーマ。5日ごとにテーマをまとめるちょっと長めの練習曲をつける。全部で18テーマ。つまり、90日分あります。90日×3つのエクササイズ=270個。それとテーマごとの練習曲が18個

正直、その話を聞いた時、「前の担当者さん、恐ろしい遺産を残してくれたなあー」とビビりました。その数のエクササイズを作るの???…大変だなあーと。

新しい担当者も決まり、8月くらいに詳しく話ししましょうとのことで、それまでに概要を作ることに。

全体の流れを決める

全体の流れとしてはこんな感じ。その時のメモです。

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(まあ読めないでしょうから今から下に書き出しておきますね)

8/25までに仮原稿。9/20までに楽譜と解説を含めた全原稿を提出。11月20日頃までに修正や全体バランスのチェックして、入稿。12月頭ごろ出荷。

実際はこの全体バランスを組むところや校正(楽譜校正も含む)が結構時間がかかり、2022年に入ってから出荷、発売ということになりました。

2021年6月ごろからひたすら全体の構成を考え続けました。まずは18個のテーマを決めます。そして仮にエクササイズを作ってみる。その作業をひたすら続けました。

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こんな感じくらいのテーマに分けるまで結構時間がかかりました。2週間くらいあれこれほじくり出しました。既存の「クラシックギターテクニック本」も古今東西30冊くらい研究しました。

既存のテクニック本は、基礎技術を無茶苦茶丁寧に掘り起こしてあるものか、怒涛の勢いで山ほどエクササイズを羅列してあるものか…そのいずれかしかありません。はっきり言ってしまうと、奏法に関して細かく書くことなんて無限大にできる。そして、エクササイズも「チリも積もれば」方式でやっていけば無限大に作れてしまうのです。

ですが、この「ワークアウトブック」シリーズでは、それはできません。とにかく90日間でクラシックギターのテクニックの全貌をつかんでもらわなくてはならないのです。

各テーマごとに過不足のないエクササイズを用意しなくてはなりません。チリも積もれば方式でやり過ぎてもダメですし、エクササイズとエクササイズの間に「ワープ」があってはいけない。そのバランスが難しかったです。

「最初の5日間」がとても大切!

最初の5日分のエクササイズの設定がだからこそ重要ではありました。ここでその後も繰り返し出てくる「基本的な奏法の考え方」を明示しておかないと後で整合性が取れなくなってくるからです。

右手と左手の基本ってなに?…というところをシンプル且つ深く伝えることにしました。この基本が全編通して通奏低音にように流れる(音楽的な比喩使っちゃったw)ような内容にすべきだと。

そう考えました。

そうすると、18個のテーマ毎のそれぞれのエクササイズの位置付けが少しずつ分かってきました。

エクササイズのアイデアを具体化する

エクササイズの譜例を作っていく作業はまずはマニュアルで。

こんな感じで下書きします。まずは五線譜を使うよりも「だいたいこんな内容で」という感じ。「Day」で分ける感じはこの感じ…だとすれば、「Day」毎で3つどのようなエクササイズを作ればいいのか?…それをひたすら90日分270個分やっていきました。

ノート一冊丸々使いました。
ギターを使って音を確かめるというよりは脳内でやる作業。なので、ひたすら喫茶店にこもってやりました。コロナ禍の時短営業の喫茶店の中で寡黙に一日数時間やりました。

五線譜に書き出す

全体のエクササイズの具体内容が見えたら、あとはひたすらギターで音を出しながらエクササイズを五線譜に落とし込んでいきます。

この段階もまだ手書き。
五線ノート3冊使用。ガリガリ書いて、実際に音を出してみます。その時の指の感触というか…これもメモとして残していきます。実際に音を出して、指を使って弾いてみることでしか「奏法の感覚」は再認識できないものなのです。

初心者や中級者の方がどんな感じをこのエクササイズから感じるだろうか?…ということをシュミレーションしながら五線譜に書き取っていきます。
解説を文章で書くときにこの時の「指で弾いた時の感覚」が役に立つのです。奏法っていうのは「身体感覚が先行」なんです。身体がどう感じとるのか?…そこが出発点。それをどう言語で表すか…そこは教える人間の手腕。その手腕に関しては日本のギター界の誰よりも自信があるのですが、楽器の学習者ってこの辺りの罠にかかりやすい。なので、僕も先に身体感覚を優先するわけです。

五線譜を手書きしたあとは浄書ソフトでラフに楽譜を作っていきます。
同時進行で文字解説も書きます。これも字数制限などがありますが、最初はだいたいの目安で入れていきました。レイアウトしてみると実際に文字数の印象は変化しますので、あくまでも仮で。
この作業が終わって、だいたい仮原稿を提出したのが2021年8月終わり頃でした。

初校を見直す

仮原稿を担当者さんに確認をとり、楽譜もこちらでしっかりとディテールまでわかるものを作っていきます。割とこの作業はとにかく時間がかかる。毎日少しずつやりました。

8月終わり頃から9月なかばくらいまで。夏休み返上で、ひたすら譜例作り。

それをYAMAHA側の浄書の方が綺麗に作り直したものをレイアウトして「初校」としました。

もちろんこの段階では浄書ミス多数。クラシックギターの運指というものはとても配置の場所が難しいものなのです。音符の近くに置いた方が良い場合もあれば、右手のフォームイメージに合わせて配置した方が良い場合もあったり…その辺りをひたすらチェックしていきます。

赤ペン、赤ペン!

原稿提出の時点で運指がなかったけれど、つけた方がいいなというものもたくさんあり、ひたすらPDFに書き込んでいきます。

このエクササイズには写真があったほうがいいかな?とか図を入れたほうがわかりやすいだろう…というところも検討していきます。

こんな感じで、図や写真の指定をしていきます。だいたいのイメージですね。

今までもヤマハさんからは教本が出ていますので、転用できるものもあります。それ以外は作ってもらうしかありません。私の手書きの図から作ってもらうものとまずは写真を撮ってから図に起こしていくものなどを決めていきます。

ちなみに、こういう図を書いていると「しっかりデッサンの勉強もしたいなー」なんて思います。2020年の自粛期間中もそんなことを考えて「勉強したいことリスト」に入れてたんだった 苦笑。そんなことを思い出しました。(今日から少しずつ始めよう!!!)

あとは校正を繰り返して動画撮影

第三校が出来上がることには、文字情報も楽譜の浄書もほぼ95パーセント綺麗に整っています。

それでも、この楽譜にはこんな指示を入れた方がいいかなあ?_とかこれは運指いらないかもな…など結構ちまちまと修正しました。

そしてその段階から写真撮影&動画撮影。11月終わりころに。

この教本には1日で3つのエクササイズがあります。それを270個全て撮っていきます。既存のワークアウトブックシリーズでは、これまでエクササイズそのもののお手本演奏しかありませんでしたが、このクラシックギター編では1つずつのエクササイズのお手本を示し、そこから再び私が喋りながら解説するということにしました。

文字情報と「喋ることによる情報」。

その2つがあると学習者の方の理解が深まると思ったからです。最初は自由に喋る方が良いのかもなあーと提案したのですが、まずはお手本を示し、その解説を1分から2分ほど。シンプルにしました。

動画撮影アングルにも注意をしました。こう見たらわかりやすいだろうなあーというアングルをエクササイズごとに設定しました。

こんな感じです。これだけじゃわかりづらいかもなあーと、ちょうどリハで我が教室に来ていた九州のギタリスト池田慎司くんに「こんな感じの写真欲しいんだよねー」と撮ってもらいました。

さすがプロギタリスト!「こういうイメージの写真欲しいんだよね!」というのがバッチリ。おかげで動画撮影担当さんも「欲しい絵がわかる」と言ってくれました。
こういう感じで、僕のイメージ図と写真を事前に担当者さんに送っておきました。そうすると現場でもスムーズに撮影することができますもんね。

基本的に同じアングルを一気に撮っていきます。教本内容の整合性が取れるように配慮するのが現場では一番気を使いました。

また僕自身が喋るので、何度か「噛んでしまって」NGをw
まあこの辺りもなかなか難しいもんです。喋りのプロではないので。そして演奏も割とスムーズにいくものも多かったですが、「なんだこの練習は!!!」と結構引っかかってしまったものも数個ありw

自分で作ったエクササイズなので、自己責任ですね。

とはいえ、エクササイズ分90日の90本の動画と18個の練習曲、計108個を午後の時間で一気に撮り切ることができました。

そのあとは写真撮影。写真として必要なもの、図を作るために必要なものを全て撮っていきます。これは点数もそれほど多くないので、ささっと終了。

全ての素材が整った&入稿

全素材が整って動画のリンクを貼り付けます。そして写真も入れてみます。その原稿が出来上がってきたのが、12月半ばごろ。写真に矢印やキャプションを入れる作業などをして12月クリスマスあたりに念校がやってきました。

そして、チェック入れて、入稿。あとは印刷機が回るのを待つだけ。

2022/1/26発売

流石に予定の12月発売には間に合いませんでした。年をまたいで、1月の終わり頃発売という設定で。

発売日までにプロモーション会議を担当さんとしました。どういう風に宣伝していくのか?…YAMAHA本体さんの宣伝方針と僕がどこまでこの教本を素材として宣伝していいのか?…著作権的な部分もあるのです。

とりあえず宣伝動画作りましょーということで、またYAMAHAさんにて撮影。教本本編の動画と写真撮影をしてくれた三浦さんとまた再会。

もちろん書籍の現物もできております。動画撮影日は1/19でしたね。こうやって現物を手にすると本当に嬉しいもんです。

原稿全部できあったよー!と思ってデータ入稿しても、なぜか終わった感がないんですね。本は現物のインクの匂いを嗅ぐまで書き終わった気がしないんです。

ということで、僕の顔を喜びに満ちています。
ということで紹介動画です。是非みなさんみてくださいね!どんな内容かよくわかりますよね!

「本を作る」ということ

本を作る=ものを作る。楽しいものです。苦労や乗り越えなきゃいけない壁はどんな物作りにもあるのですが、それだからこそ楽しいのですよね。

もちろん、もともと脳みそにアイデアや知識がなければできないものではあるのですが、それを組み替えたり、新しい要素を付け加えたり、一気に無駄な部分を削いでみたり…そんな過程も楽しいものです。そして、最初の骨組みがとても大切なのですが、作っていくうちにまたアイデアが生まれたり。

各段階で締め切りはあるのですが、その各ステップごとに「こうしたらいいのかなあ?」というものがあって。

CD録音物にしても著作にして、作ってみないとわからないことってたくさんあるんです。一歩踏み出してみないとわからないし、作った側にしかわからない「ここすごいっしょ?」という点がある。

そして、ものを作るということに関して毎回思うのが「スタッフさん」の協力なしには何もできないなあーということ。CDであろうが、コンサートだろうが、著作であろうが結構たくさんの裏方さんの作業があるんです。

今回もたくさんのスタッフさんにお世話になりました。

そんな感じで頑張って作ったものなので、皆様是非ともよろしくお願いしますね。買ってね!!!


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