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海と成った少女

幾千年の昔、海が大好きな少女がいました。少女は家族の仕事の手伝いもせず、毎日海へ行き、お魚さん達と戯れていました。


ある日、お魚さんが少女に言いました。

「君はここへ来るたびに私達の事を羨望の眼差しで見ている。どうしてだろう?」

少女は言いました。

「そのエラ、そのヒレ、そのウロコ。どれも私には無いもの。どう足掻いたって、手に入れられるはずないものを貴方達は当たり前のように持っている。それが羨ましいの。」

お魚さんは答えました。

「その手、その足、その大きな脳。私達にとっても君がどうも羨ましくて仕方がない。」

お魚さんと少女は、互いに互いを羨ましく思うのでした。

「じゃあ、体を交換しましょう」

「いいのかい?」

「うん」

 互いに心が躍りました。そうして体を交換し終えると少女は海へ、お魚さんは家へ帰って行きました。


数日後、手も足も脳も手に入れたお魚さんは、魚の姿になった少女を銛で刺して、焼いて食べてしまいました。しかし少女は自分が死んだことにすら気付かないまま、夢の中で永遠に旅を続けています。

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