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夜の命達

幾千年の昔、人形を集めるのが大好きなお姫様がいました。

お姫様の部屋には何百体もの人形がおり、一つ一つに名前を付けて大切にしていました。

とある日、お姫様が寝静まった夜。人形達は夜な夜なムクッと体を起こし、一斉に踊りだしました。

「ほうれよいよいさっさ。よいよいさっさ」

「おい新入り!てめえ名前なんてんだ?」

「ゴート」

「いい名前じゃあねえか。俺はロイ、んでこいつはトム。俺達ァ全員自分の名前を気に入ってんだ。このお姫様に付けてもらった名前をな」

大切に扱われる”もの”には命が宿ります。愛がそれを可視化させるのです。

「俺達の夢はそう、お姫様に”ありがとう”と伝えることだ。命をくれてありがとう。愛してくれてありがとう。ってな」

「だがそれは叶わねえ」

そうです、人形達が自由に動き回れるのはお姫様の寝静まった夜だけなのです。そして、人形達はその間騒がしく踊ったり音を立てたりしてお姫様を起こそうとしますが、一向に起きる気配がないのです。

「そろそろ夜が明ける。今日もお姫様を起こせなかった」

そうして人形達はスヤスヤと寝息を立てるお姫様の頬にキスをします。

「良い一日を」

そう言って人形達は還っていきました。


朝、鳥のさえずりでお姫様は目を覚まし、人形達を見て言います。

「あっ。ゴートの体が傾いているわ!直さなくっちゃ。」

「ごめんねゴート。きっと昨日の夜私が雑に置いたせいだわ」

そして長く、愛めいたお姫様の朝の恒例行事が始まります。

「おはようゴート。おはようロイ。おはようミシェラ。おはようカラ。おはようトム。おはよう・・・



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