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人魚はあまりにも魅惑である。

幾千年の昔、空に浮かぶお月様が涙を流しました。

その一滴の粒は空高くから舞い落ち、海にはじけた瞬間に煌めき輝く石となったのです。

そしてなんとその石は月の光に照らされるとまるで共鳴するかのように黄金の光を発するのでした。

しかしその石はあっという間に月の光の届かない海の底まで沈んで行ってしまったのです。




とある日、海を遊泳していた人魚が、海底で美しい石を見つけました。

人魚はその石の美しさに惚れてしまい、その石をネックレスにしました。


夕方、人魚は浜辺の手ごろな岩石の上に座り歌っていると、次第にお月様が山のてっぺんから顔を出し始めました。


その時です。

人魚の首を飾っている美しい石が、月の光に照らされ煌めき輝きだしたのです。

人魚は驚くと同時に焦りました。

「はやく隠れないと光に知らされた人間に見つかってしまう」

しかしもう手遅れでした。

振り返るとほうきを逆に持った農夫が三人ほど、赤い目をしてこちらを見ていました。

人魚は急いで海に帰ろうともがきましたが、地面を人間よりはやく走れるはずありません。

人魚は農夫につかまってしまい、全身の血を抜かれてしまいました。


「やったぞ、人魚の血はとても珍奇な代物でとても高値で売れる。これでうちは億万長者だ。さっそく都の商人に会いに行こう」


農夫が去った浜辺には残酷な人魚の抜け殻があるだけでした。







しばらくして、無名の画家がその浜辺を訪れました。

そして無名の画家は人魚の抜け殻を目にするやいなや持っていた鞄からキャンバスを取り出し鉛筆を握り、人魚の美しい死に顔をこと細かく描写しました。

後日、その絵のあまりの美しさに魅了されたとある国の王様は高値でその絵を買い、無名の画家はたくさんの報酬を得ることが出来ました。

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