ボクシングの選手人口とファイトマネー

「ファイトマネーが増えればボクシングをやりたいと思う人が増える」は本当か?


確かにボクシングの試合の報酬(ファイトマネー)は少なく命がけで行う競技(仕事)として割に合わない。
その現状ではボクシングを始めようと思わないのではないかと考えるのも理解できる。
だが、はたして問題はそこだろうか?
今回は僕の「2つ」の視点から本質の部分を考えてみたい。

まず1つ目は『Aパターン』
【目的】ボクシングが好きでやりたい
【手段】練習に集中できる良い環境づくりにお金が必要。競技を継続していくために生活費のお金が必要
【現状】ファイトマネーが少なく生活が苦しい。アルバイトなどに時間と体力を奪われる。

『Bパターン』
【目的】お金を稼ぎたい
【手段】ボクシング
【現状】ファイトマネーが少ない、稼げない

上記2パターンが本質のはずです。

ファイトマネーを増やせばボクシングをする人が増えるは『Bパターン』に当てはまります。

はたして
「あはたはなぜボクシングをするのですか?ボクシングをする目的は?」
という問いに対して、稼ぎたいからと答える人は何人いるのでしょうか?

サラリーマンの平均給与は461万円

平均給与は461万円
資本金 2,000万円未満の株式会社においては409万円
個人企業においては274万円
2023年確認 ※国税庁HPより

はっきり言います!

お金を稼ぎたい目的の人はボクシングを手段として選びません。命を落とす可能性のある職業(ボクシング)をわざわざ選ばなくても、サラリーマンの方が稼げます。

日本のボクシングの場合、3か月に1試合ペースで年間4試合。1試合のファイトマネーが100万円あっても年収400万円
4回戦から1試合100万円もらえたとしても、4試合して年収は普通のサラリーマンと同等。日本ランカーや世界ランカーになってノンタイトル1試合100万円もらえても普通のサラリーマンと同等。仮に1試合200万円の報酬でも年収800万円だと大手企業のサラリーマンでも稼げる金額。※サラリーマンは福利厚生も整っている上に、怪我で会社を休んでも給料は入ってくる。

コミッションは大きな脳へのダメージを負った選手の生命、健康を守るため3ヵ月~4ヵ月試合出場を禁止するルールもあり、年間の試合回数が減る可能性もあり年収がさらに下がる可能性がある。

しかも終身雇用でも年功序列でもないのでベースアップもなければ、37歳で引退(定年)になり就職経験のない無職のおっさんになるリスクまである。

それらをふまえ大きな苦労と命を落とすリスクを引き換えの報酬ならば4回戦から1試合あたり200万円~300万円ほど貰えるのであれば『Bパターン』でボクサーを増やすことも可能かもしれないが、全ボクサーにそんな金額支払えないので不可能でしょう。

世界レベルの興行でメインの試合をできる選手くらいしか1試合で数百万から上の金額は稼げません。

結局ボクシングで大金をつかむ事ができる人は全体の中の一握りの人間だけというのが現実です。
ということは、稼げるからボクシングをやろうにはならない。『Bパターン』は実質不可能。

ちなみにボクサーの報酬がファイトマネーのみと思っている人が多いのですが、実はそうではありません。
世界タイトルを争う選手などは、日本の場合ファイトマネー+広告収入が入ります。アメリカの場合はファイトマネー+ペイ・パー・ビューの件数による金額のパーセンテージが報酬として支払われます。
実はこれがファイトマネー以上の莫大な金額だったりします。

結局、世界タイトルを争うレベルに到達しないとサラリーマンより稼げないという事です。

人が求める価値は一つなのか?


本来ボクシングをやろうと思う人種はボクシングが好きで命を懸けてでもやりたい!と思う夢追い人や、何らかの信念やアイデンティティ(identity)をもった人です。『Aパターン』です。価値観が違うのです。

具体例でいうと、世界挑戦できるならファイトマネーはいらない。全額相手に渡します。興行にかかる費用もこちらが全て負担します。
といった形で、数億円の赤字を出してでも試合をしたい人がいるくらいです。
※良いか悪いかは別

人間の考える「価値」は一つではありません。
ファイトマネーを増やせばボクシング人口が増えるという思考の人は
金銭を「価値」と考える商人の思考の持ち主

ボクシング好きは商人気質の人は少ないと思っています。
武士や職人気質の人が多い。
武士や職人の考える「価値」は金銭でなかったりします。この手のタイプの人達は金銭でコントロールできません。高報酬を支払うからこの仕事をやってくれと頼んでも断ったりします。

アメリカの場合、この辺りのシステムがしっかり出来ていてボクサーの強さや実績(誰と戦ったか、良い試合をする選手か)の数値を金額で可視化するシステムになっている。
選手もファン(お客様)も同じ価値観を共有させている。
強い(実績)=人気=高報酬

アメリカのボクシングは試合のチケット+試合中継の1番組のみ視聴の権利を購入(ペイ・パー・ビュー)で報酬が決まる。
ファンは本物と偽物の目利きができるくらいリテラシーを持っている。
マッチメイクが良くない偽物にはお金(チケット代やペイ・パー・ビュー代)を出さない

いわゆる武士(剣術の達人)職人こそ高収入が得られるシステムになっている。

日本の場合は民放の無料放送、最近はサブスク型の動画配信サービスで観戦(ペイ・パー・ビューと勘違いしている人がいるが違う)
いわゆる広告収入モデル。
日本のシステム的に試合内容や実績(誰と戦ったか)のボクシング競技の本質より、選手のキャラ作りや広告代理店やテレビ局がマーティング等を上手くするかで選手のファイトマネーが変わってしまう。

実はアメリカのボクシングと日本のボクシングはビジネス的に少し違うんです。
いずれにせよ、世界タイトルマッチレベルに到達するまで日本もアメリカなど世界のボクシングもサラリーマンより稼げないのに変わりはありません。

結局ボクシング競技者の人口(分母)を増やすなら「Aパターン」の人を増やす努力が必要だと思っています。ボクシングは素晴らしいスポーツで、ボクサーってカッコいいな!ボクサーって凄いな!自分もあんな風になりたいな!と、ボクシング・ボクサーを愛してもらえるような情報発信をし、ボクシング観戦者のリテラシーも上げるような解説と放送が必要なはずです。

その上で「Bパターン」の現状より少しでもファイトマネーを上げる方法も考える必要があるんだと思う。


選手自身も努力が必要

ひと昔前の世界のプロボクサーは、各ラウンド中、もしくは試合の全体の中でお客さんを喜ばすためにリスクを背負って真正面からの打ち合いをする場面(まさにブレイキングダウンのような殴り合い)いわゆる見せ場ラウンドをつくってお客さんを楽しませていた。最近は競技性が高くなって勝ちに徹する試合が多くなった。これも人気低下の一つ。

やはり選手もプロとしてお客さんの見たいものを提供する努力が必要。

本気の高度なボクシングと野蛮な殴り合いを同時に見せる事ができてプロボクサーなんだと思う
そこにカッコ良さ、魅力を感じて自分もボクシングをやってみたい!と思う人が増えてくる。

その上で幅広い客層の獲得のためにも

「本気の高度なボクシング」

「ボクシングルールのバラエティー」
も大事だと思っています。

ただ大事なのは嘘をつかないこと。
バラエティーを本物の真剣勝負だと言わない。顧客を騙してお金を稼ごうとしない。

日本の広告収入システム的にマーケティングがメインになるので、何も知らない顧客を騙して稼ぐのが一番簡単に手っ取り早く稼げる。だがその副作用として信頼と信用を長期的には失う。騙した人は儲けれるが10年後、20年後その業界は衰退し皆が稼げない市場になってしまう。


ただボクシング界の人達も、人それぞれの考える正解、正義、守る物が違うので一枚岩にはなれないのは当然。20年後のボクシング界がどうなろうと知ったこっちゃない人もいる。
今お金を稼いで今の自分と家族、今自分のジムの選手にお金に困ることのない幸せな生活を与えてあげたい。といった思いで今あるパイの取り合いをする人もいれば、今は苦しいけどパイを大きくしてからボクシング界全体で分配した方が良いと考える人もいる。

難しいですね…

まとめ


ボクシングの人口減少の理由は「ファイトマネーが少ない」という理由だけではない以上、競技者人口を増やすにはボクシングの「価値」の本質を再確認し適切に発信していく必要があるという事です。

僕もボクシングにかかわる仕事をしているので、パーソナルボクシングやYouTubeで地道にボクシングの奥深さ、素晴らしさ、きびしさ、楽しさを伝えてボクシングとボクサーをより深く理解してもらって、1でも多くの人にボクシングを愛してもらい、ボクシング人口を増やせるよう微力ながら頑張り続けます。




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