めがね
コンタクトが妙にずれて今日も目が痛い。ツーウィークのコンタクトレンズは開けてまだ5日目なのに、もう使い物にならない。メガネに変えようと目を開く中指に力を入れるが、ずれる癖になかなか取れないレンズに苛立ちが募る。
顔の余白が広いことが強いコンプレックスだったあの頃、少しでも隠すために大きめのフレームのメガネを選んでからはや5年。顔の余白は白いマスクで隠されて、伸ばしっぱなしの前髪とメガネをかけたら顔のほとんどが出てこない。隠しすぎだよなと、メガネのフレームをなぞりながら信号が変わるのを待つ。
駅まで徒歩10分、あと8分で到着する電車にどうしても乗らなくてはいけなくて、ずれるメガネを抑えながら駅まで走る。早くなる呼吸にマスクの中で行き場を失った熱い息は、しっかりとメガネを曇らせる。必死に走っていることが誰からも分かりそうで、恥ずかしさに俯きながら駅までの道を急ぐ。
自分でも変な自意識だとわかっているけれど、高校生の時に明るい男子学生と接してこなかった私は明るい男子高校生の集団に苦手意識をいつまでも隠しきれない。駅前には高校へ向かう彼らがたくさんいて、彼らの目には私なんて映っていないはずなのに、その目が愚かな私を笑っているのではないかと、今日も怯えながら暮らしている。
メガネが曇ってよく見えない。電車に乗り込めたと同時にため息をつく。いつまでこんな自意識を持って生きていくのだろう。自分のつまらない気持ちに悶々としているとき、とんと肩を叩かれた。
「メガネ曇りすぎ、わたしに会いたくて走ったの?」
「そうだよ」
こんな会話は恥ずかしくないのに、メガネが曇ってよかった。あなたに今日も会えたから。
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