自己肯定感(Self-esteem)の考え方

皆さんは自己肯定感という言葉をどれくらい知っていますか?

自分自身を認めてあげる力。
自分を肯定して、自分に寄って物事を考えるような力。

このように考えている方が多いのではないでしょうか。

上記のことが分かっていれば自己肯定感を理解していると思います。しかし、多くの方は自己肯定感のメカニズムについて詳しく知らないのではないでしょうか。
私自身「自己肯定感」という言葉を漠然と捉えていましたが、大学院で自己肯定感を題材とした研究を行っていく中で、学術的な理解を深めることが出来ました。

今も勉強中の身ですが、今回は皆さんの知らない自己肯定感の一面を私の知ってる範囲で共有していきたいと思います。


1.自己肯定感(self-esteem)ってなに?

ここでは自己肯定感(self-esteem)の定義についておさらいしておきます。

まずはじめに言及しておきたいのは、実は私は自己肯定感ではなく"self-esteem"(セルフエスティーム)について研究をしていたということです。

同じではないのか?という意見もあると思いますが、厳密にいうと少し違います。

自己肯定感とは自身を肯定する力なのに対し、セルフエスティームは自分に対する意見というようにNHS(National Health Service)では定義付けられています。
NHSによると、健康的なセルフエスティームを持つ人は楽観的な見方やポジティブな反応を得ることができ、
その逆の低いセルフエスティームを持つ人はネガティブな考えを持つ傾向があり、その結果、人生における困難に立ち向かったときに自信が持てなかったり、自分に対して批判的な感情を持つことが多いとされています。

このように少し自己肯定感とセルフエスティームでは定義が異なることから、私がこれから説明するものは厳密に言うと自己肯定感ではないということを頭の片隅においていて下さい。

よってこれからはセルフエスティームを使って説明していきます。

2.セルフエスティームは一つではない

皆さんはセルフエスティームは一つではないことを知っていますか?
え、自分は一人だから一つなのでは?と考えている方もいらっしゃると思います。

しかしそれは自分を総括した時のセルフエスティームです。

詳しく説明すると、上記のセルフエスティームはグローバルセルフエスティーム(global self-esteem)というもので、自分自身を総括的にどのように見る傾向があるかを示すものです。これが一般的に使われているセルフエスティームであると思います。

では他のセルフエスティームは何か。

それはセレクティブセルフエスティーム(selective self-esteem)といって、判断する分野ごとのセルフエスティームになります。

分かりやすく説明するためにいくつかの質問を作ったので答えてみてください。

あなたは自分の学業や仕事に満足していますか?
あなたは自分の食生活に満足していますか?
あなたは自分の容姿に満足していますか?

いかがでしたか?一つ一つの質問に対して違う意見や評価ができたのではないでしょうか。
たとえば全体的なグローバルセルフエスティームが低かったとしても、どれか一つ、例えば歌は得意と思っている人は、歌の分野におけるセレクティブセルフエスティームは健康的であるといえます。

このように人は一概にしてセルフエスティームが低いということはできますが、その実には様々な分野での自分への評価がなされています。
そしてグローバルセルフエスティームはセレクティブセルフエスティームに、セレクティブセルフエスティームはグローバルセルフエスティームに相互的に影響を与えているのです。

3.セルフエスティームと同じくらい大事なセルフコンセプトってなに?

皆さんはセルフコンセプト(Self-concept)という言葉をご存じですか。

セルフコンセプトとは自分が考える自分自身、自分とは何かというものです。

例えば、自分は学生で、数学とスポーツは得意、容姿は良くない。
このような自分とは何で、どういったものなのかという概念がセルフコンセプトになります。このセルフコンセプトは自分への評価を含まない点がセルフエスティームとの違いになります。

ここで一つ明言しておきたいのは、セルフコンセプトとはほとんど思い込みであり、真理ではないということです。

例えば自分の容姿に自信の無い人がいたとします。
その人は「自分の顔は不細工だ」というセルフコンセプトを持っています。
しかし、そのセルフコンセプトは真理ではありません。
なぜなら人の顔の美醜は時代や人の感覚に大きく依存しているからです。
つまり、人や時代によって美醜の基準が変わるので、正確に言うと「自分の顔はこの時代において、多くの美人とされている人と比べると、それとは違った顔つきである」というのがより真理に近い解釈となると思います。

このように多くの人のセルフコンセプトは思い込みによるものが多く、また環境を変えることで大きな違いを生み出すような変動的ものなのです。

ではこれがどのようにセルフエスティームと関わってくるのでしょうか。
結論から言うと、セルフエスティームとは
『自分が考える自分自身(セルフコンセプト)に対する意見や評価』
であるといえます。

つまり、自身のセルフコンセプトを見た時に、「肯定」「否定」「良し」「悪し」という意見をもつのがセルフエスティームになります。

ここで皆さんはセルフコンセプトがいかにセルフエスティームにとって大事なものか分かったのではないでしょうか。

セルフコンセプトとはいわゆる答案用紙で、自分とは何なのかを示すものです。そしてセルフエスティームは採点です。しかしその自己概念が正しく認識されていないと、正しい評価というのが得られないのと同じで、セルフエスティームは健康的に育っていかなくなってしまします。

私はこのことから、セルフエスティームを上げるためにはまず、より正確に自分自身とは何なのかを知る必要があるのではないかと感じます。

4.健康的なセルフエスティームを持つ人とそうでない人の違い

ここで一つ、健康的なセルフエスティームを持つ人と、そうでない人の意見の持ち方の違いを見ていきたいと思います。

例えば、「頭が悪い」と人に言われた場合を想定します。(この場合、言った人は自分にとってある程度信用できる人であると仮定します。)


健康的なセルフエスティームを持つ人は、それをまず自身の一つのセルフコンセプトとして受け入れます。そして頭が悪いことに対して必要以上の否定も肯定もしません。「私は頭を使うことが苦手なんだな」「もっと頑張ろう」というようなフラットな意見を持ちます。

一方で低いセルフエスティームを持つ人は必要以上に否定意見を自身のセルフコンセプトとして受け入れ、「私はなんてダメな人間なんだ」と自分自身を否定する傾向にあります。さらに肯定的な意見である場合もあまり信じようとせず、セルフコンセプトの再形成は困難になる傾向があります。

さらにセルフエスティームが高すぎる人も健康的ではないといえるでしょう。そういった人の場合は「周りの人間が自分のことを分かっていないからだ」「自分は悪くない」という様に「頭が悪い」というセルフコンセプトの形成を拒み、肯定的な意見しか受け付けなくなります。

上記のように、セルフエスティームの違いから対応の違いが分かってきます。

皆さんははどのような反応を取りがちですか?

次の章ではもともとのセルフコンセプトやセルフエスティームはどのように形成されていくのかを考えてみます。

5.セルフエスティームとセルフコンセプトの土台

ではセルフエスティームとセルフコンセプトはどのように形成されていくのか。
それはずばり、自分にとって重要な人からの意見やフィードバック、または社会の風潮や規範からです。

私たちは幼少期から多くの大人に囲まれて育っています。その中でも自分にとって重要な存在(多くの場合両親)から得られる情報が私たちのセルフコンセプトとセルフエスティームの元となっているとジョン・ボウルビィの愛着理論では論じられています。

例えば両親から「かわいいね」と言われると「私はかわいい」というセルフコンセプトができますし、その時の両親の表情がポジティブなものだと「かわいい」ということを肯定的に受け止めることができます。

幼少期の子どもの感覚はまさに真っ白なキャンバスであり、周りの大人、特に両親の意見をそのまま吸収します。

先ほども言ったようにセルフコンセプトもセルフエスティームも変動制のある概念であり、ずっと幼少期に形成されたものを受け継ぐことはありません。しかし、必要以上に肯定や否定をされた場合や、それが一度も再編成されず大人になった場合は、自己概念を変えることは困難となってきます。

「自己肯定感を持つには幼少期の親との関わりが大事」と言われることが多いですが、まったくもってその通りであるといえます。

6.幼少期のセルフエスティームにおける議論で見逃しがちな点

この章では「乳幼児期の子どもへの関わり方がその後のセルフエスティームに大きな影響を与える」と考えている方の盲点を紹介したいと思います。

前章でお伝えした通り、幼少期の子どもにとって自分を守ってくれる大人が無条件の肯定をしてくれることは、その後の人生で安定したセルフエスティームをもち、人間関係を良好に保つのにとても重要なことです。

しかし、子どもにとって人格形成に最も重要な時期は幼少期だけではありません。自分以外の他者を意識し始める前期青年期(12~15歳)も重要な時期に当たります。なぜなら青年期から自分を客観的に認知する能力(metacognition)が発達するため、より自分が相手にどう思われているか敏感になるからです。その時期に否定ばかりされてきた人はいかに家族に愛されていたとしても、セルフエスティームは健康的なものにはならないというわけです。

さらに幼少期の親の関わり方が重要であるという愛着理論を唱えたジョン・ボウルビィも、自身ににとっての重要な人物は成長するにしたがって親から友達や恋人に変化していくと言及しています。

つまり私たちは、セルフエスティームの基礎を幼少期に築くわけなのですが、それが絶対的なものではないということです。

それは逆の視点からも言うことができます。
もし親から十分な愛を得られなかったとしても、自分にとって大事な人から認められ、肯定されることで個人のセルフエスティームは健康的なものになっていくのです。

7.健康的なセルフエスティームを得るためにすること

では、健康的なセルフエスティームを得るために大人になった私達は実際どうしたら良いのでしょうか?

この記事を読んでいる多くの人が既に大人になり、健康的なセルフエスティームを築きやすい幼少期も前記青年期も過ぎていると思います。

しかし現在でも健康的な自己肯定感は得ることができるはずです。

ここからは理論的なセルフエスティームを理解したうえで筆者が考察したものを3つ紹介します。

一つ目に、正当なセルフコンセプトを得ることです。

先述したように、低いセルフエスティームを持っている人は、肯定的な意見ではなく否定的な意見に同意する傾向があります。これは自分が思い込んでいるセルフコンセプトに合っているものが納得しやすく、受け止めやすいからです。

しかし、そのままでいるとせっかく肯定してくれる意見にあまり素直に反応することができなくなってしまいます。

そこで今一度、自分自身が正当に自分を判断できているはどうかを見つめなおす必要があります。

自分は仕事ができない、と思っている人は失敗にばかり着目するものです。一度広い視野をもって、仕事の中でも何が得意で、何が苦手なのかを考えてみてはどうでしょうか。
また、本当にあなたは誰の役にも立っていないのでしょうか。
自分や周りを見つめなおし、セルフコンセプトを柔軟に変えていくことでセルフエスティームにも影響が出るのではないでしょうか。

二つ目にできることは、環境を変えることです。

先述した通りセルフエスティームは一つ一つの分野別にあるもので、それを包括したものがグローバルセルフエスティームになります。

そして環境が変わって評価されるものが別の分野になると、その分野や自分にとって得意であればあるほど自分自身が認められているように感じます。

例えば、小学校では足の速いA氏がみんなから評価を受けていて、B氏は勉強はできましたがあまり自分を肯定できなかったとします。
しかし中学校に上がると、そこが勉強のできる人が評価される環境だったので、B氏のセルフエスティームは上がっていきます。

このように、環境によって主として評価される分野が違うことによって、自分の得意分野が評価されるような環境を選べばおのずとセルフエスティームは上がっていくのではないかと考察します。

最後、三つ目は自分にとって重要な人物はだれか考えるということです。

これまで何度も話したように、自分のセルフコンセプトもセルフエスティームも、自分にとって重要な誰かの意見や評価によってその形を変えていきます。どうでもよい誰かの意見ではあまり変化は見込めません。

それは両親であるかもしれないし、友達、恋人、上司であるかもしれません。

しかし、あなたにとって重要な誰かはもろ刃の剣です。

その人に否定されるとあなたのセルフエスティームはみるみる落ちていくでしょうし、逆に肯定されると上がっていきます。

もしあなたが自分のセルフエスティームの低さで悩んでいるのなら、だれが主にそうさせているのか考えてみてください。
そしてもう一度、その人があなたにとって本当に重要な人物であるかどうかを考えてみてください。
場合によっては相手はあなたを搾取している可能性もあります。
あなたは相手を代替不可能と思っているだけで案外離れてみるとあっけなくその人がとるに足らない人であったと気づくかもしれません。
もちろんあなたと相手には切っても切れないような縁があるかもしれませんが、そのときは必要以上にその人の意見に耳を傾けない努力、もしくはその人以上に信頼できる誰かをあなたにとって重要な人にしましょう。

あなたが重要であると思っている人物の意見は、そのままあなたの人生となります。それぐらい大事なことであると自覚して人と接してみてください。


まとめ

最後まで読んでいただきありがとうございました。

この記事では主に、セルフエスティームのメカニズムやセルフコンセプトの重要性、どのようにセルフエスティームを健康的に保てるかを学術的な視点から端的に話させていただきました。

巷では、自分で小さな目標を立てて、それができたら自分を褒めることが自己肯定感を持つことにつながる、とよく聞きます。

もちろんそれで上げられる方もいらっしゃると思いますが、その方たちはある程度自分を好きで認めているからこそ(自分が自分にとって重要である)、自分の言葉でセルフエスティームを修正できているのではないかと思います。

しかしあくまで、特に七章は私の考察であり、実際に実験を行って得た知見ではありません。セルフエスティームのメカニズムを知って、こうすればセルフエスティームは上がっていくのではないかと予測したものです。

人によって様々なバックグラウンドがあり、セルフエスティームはその人のバックグラウンドを反映している場合が多いです。多くの人たちは人生において困難に感じることがあったのではないでしょうか。

日本はセルフエスティームが低いことでも有名な国です。一人でも多くの人が自己否定ではなく、現実を受け止め、時にはあきらめ、前向きに生きていけることを願っています。

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