【春秋一話】 12月 本を探しに本屋へ行こう
通信文化新報(2020年12月7日 第7069号)
10月27日からの2週間は読書週間。読書週間が定められたのは終戦まもない1947年(昭和22)年、出版社・取次会社・書店と公共図書館、そして新聞・放送のマスコミ機関も加わり11月17日から第1回『読書週間』が開催され、大変好評だったため翌年の第2回からは10月27日~11月9日(文化の日を中心にした2週間)に定められ開催されている。。
例年この期間を中心に全国で様々な催しが開催されてきたが、今年はコロナウイルスの影響を受け千代田区神田神保町の古書店街が主催する「東京名物神田古本まつり」をはじめとした古本市が中止を余儀なくされた。神保町の古書店組合では代替えの古本市として、通常から行っているインターネット上の古書販売に加え、老舗古書店の参加により「2020神田古本まつり『バーチャル特選古書即売展』」を開催した。
本を購入する手段にインターネットが利用されるようになったのは2000年11月にアマゾンが日本語販売サイトを開設したことで本格化したと言われている。調査会社アルメディア(東京・豊島区)によると2019年5月時点の書店数は1万1446店で20年前と比較して半減しているという。
書籍だけでなく新聞も購読者が減少しているが、インターネットのニュース記事で読めるから宅配契約をする必要がないことが理由だという。確かにインターネットのニュースサイトは数多あり読み放題でもある。しかし、インターネットでは自身の検索ワードやトップニュースから関心のある項目を読むことが中心になり、関心のないニュースや、普段触れない話題を読む機会は減少する。
こうした人間の傾向とネットメディアの特性の相互作用による現象を「フィルターバブル」というそうだ。アルゴリズムがネット利用者個人の検索履歴やクリック履歴を分析学習することで個々のユーザーにとっては望むと望まざるとにかかわらず見たい情報が優先的に表示され、利用者の観点に合わない情報からは隔離され、自身の考え方や価値観の「バブル(泡)」の中に孤立するという情報環境を示す言葉である。
インターネットで本を検索していると「あなたがお探しの本に近いものはこちらです」などとメッセージが表示され購入することがあるが、これを繰り返していると自身の価値観の「バブル」の中に閉じこもり、外が見えなくなるということである。価値観には合わないが貴重な本に巡り合う機会がなくなってしまう。一方、実際の本屋で本を選ぶ際には目的の本だけでなく他の本も目にすることになり思わぬ本に出会うこともある。
10年ほど前だが本屋の新書コーナーで1冊の本が目に入ってきたことがある。その本はまるでかぐや姫が出てきた竹の節のように本棚で1冊だけ光輝いているように見え、その本が私に「あなたのための本だよ」と話しかけているような気がして購入し一気に読んだ。その本の著者が現在本紙で連載を執筆中の前川孝雄氏であり、その後の私の人生を大きく変えた1冊となった。
コロナ禍でネット上の書籍販売は売り上げが伸びており、さらにリアル店舗が少なくなることが懸念される。稀代の読書家として知られる出口治明氏(立命館アジア太平洋大学学長)は「人、本、旅」が人を成長させると説いている。感染予防に万全を期しながら本との出会いを探して街の本屋へ行ってみてはどうだろう。
(多摩の翡翠<カワセミ>)