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【ちいさな深夜特急①】はじめての東南アジア


○○○○ 今回のルート ○○○○
①4/27 関空→ハノイ・ノイバイ空港→ラオカイ
②4/28 ラオカイ→バックハー→ラオカイ→(夜行)
③4/29 (夜行)→ハジャン→クアンバ
④4/30 クアンバ→ドンバン
⑤5/1 ドンバン→ベトナム最北端→(予定変更)とある村
⑥5/2 とある村→ドンバン 5/3 ドンバン→メオバック
⑦5/4 メオバック→ルンタム→ハジャン
⑧5/5 ハジャン→ハノイ→ノイバイ空港→(夜行)→翌朝帰宅

初めてのベトナム・野良バス停から300km


5時間ぶりに見えた雲の下の世界は、土が赤い世界だった。
初めての東南アジア、初めての熱帯。
日本よりももっと青々とした木々と、その下の赤い土のコントラストが新鮮だった。


正午過ぎ、ハノイ・ノイバイ空港到着。
飛行機のタラップを降りると、強烈な日差しが襲い掛かる。
4月末とはいえ、ほぼ熱帯の初夏。しかも今年は酷暑。
中部ベトナムでは42度にもなるというから驚きだ。

日本の地方空港ほどのコンパクトなターミナルで、SIM確保と両替を難なく済ませ…
さて、どうしようか。
このままリムジンバスでハノイのバスターミナルに行ってもよいのだが、ある情報が私の次の一歩を迷わせていた。

今日の目的地は、ハノイから北西に300kmほど先・中国国境の街ラオカイ。
ハノイ中心部までは空港から南に約40km。空港の3kmほど西側に、ラオカイに行く高速道路のハノイ寄りの終点がある。
つまりハノイ市内のバスターミナルに路線バスで向かい、そこからラオカイ行きの高速バスに乗り換えると、ノイバイ空港とハノイ都心を意味なく1往復する羽目になるのだ。

ただ、ネットに載っていた情報によれば、
「ノイバイ空港の西側にある大きい交差点のあたりからバスに乗れる」
とのこと。

本当かはわからない。が…
同じ道を行って帰ってくるのは、なんだかつまらない。
乗れると書いてあるのだから、乗れるのだろう。
乗れなかったらタクシーでハノイのバスターミナルに行けばいい。
何より、初ベトナムなのにハノイに一歩も入らずラオカイに直行するというのも、何だか面白いではないか。

早速タクシーを捕まえ、「LAO CAI」と伝えて3km先の交差点に行ってもらう。
降ろされた交差点からは、片側3車線の道路がT字にクロスしており、分岐側にラオカイ行きの高速道路が伸びていた。
ベトナム人と思しき先客も何人かおり、心強さを感じる。

Noi Bai Intersection
バスは待っていれば来る。とりあえず待つ。ひたすら。


ハノイから絶え間なくやってくるバイク、乗用車、トラック、そしてバス。
かなりの割合がこの交差点を曲がって高速道路に入ってくる。
その中から、ラオカイ行きの高速バスを探し出し、乗る。
やるべきことはこれだけだ。

しかし、容易にそれをさせてくれないのがアジア。
まず、バスはもともとここで止まる気がない。ここはただの交差点で、バス停ではない(当然ポールも屋根も何もない、ただの太い道路の路肩だ)。
だから、バスが来たら思いっきり手を振って止める。思いっきりだ。

でも、そのバスが乗るバスではないこともある。
実は観光バスだった・実はラオカイと途中まで同じ高速道路を走る、別の行先のバスだった… などなど。
基本的には、運転席に行先を書いたボードを出しているバスが乗合バスなのだが、交差点なので曲がってくるまで判別がつかない。それに、交通量が多いので直前までボードが見えないこともある。
とにかく頑張って1秒でも早くボードを見つけて、手を振るか判断する。
間違って停めてしまったら?…ゴメンって言えばなんとかなるよ。

運よくラオカイ行きが来ても、素通りされることがある。
ハノイ発の時点で満席だと、当然通過する。
灼熱地獄を耐え、やっと来たバスに素通りされる…悔しい!!

ただ、ラオカイ行きは20~30分に1本ペースで走ってくる。それだけは救いだ。
途中地元のおばちゃんに「もっとバスがよく捕まえられる場所」を紹介してもらい、場所を変えながら炎天下の路肩で約1時間。

向こうから青いバスがこちらに向かってきた。ラオカイと書いてある!
思い切り手を振ると…止まった、止まってくれた!
「LAO CAI???」と聞くと、「こっち来い!」とイケメン車掌が手招きしてくれた。
やった、これでラオカイにいける!

気付いた時には車列に押されてバスは動き始めていた。ドアも閉めずに。
こうして、私のベトナムでの第一歩は踏み出されたのだ。
たった今乗り越えたほんの少しのスリルが、私をベトナムに少しだけ溶け込ませてくれたことを感じながら。

席は無限にある

ベトナムの長距離バスは、フルフラットに近い「スリーパーバス」が一般的。
二段重ねになった寝台が横3列並んでおり、定員は大体45人前後だ。

その3列の寝台の間を通る2本の通路。そこにおじさんが何人か座っている。
その時気付いた。このおじさんたちは、通路が座席なんだ。

恐らく、ハノイのバスターミナルの時点か、あるいはバスターミナルからノイバイに来るまでの間に拾ったか何かだろう。
席をとれなかった彼らは、肩幅より若干狭いぐらいの通路に寝て乗っている。

靴は乗り口で脱ぐルールで、なおかつ通路にもふわふわのクッションが敷いてあるので、通路で寝ること自体は問題がない。
とはいえ、ラオカイまであと4時間、背もたれもないここで耐えるのか…??

ただ、席がないからにはこうするしかない。
ひとまず、通路に座ってみる。揺れる車内で上体を固定できない厳しさはある。
でも、こればかりはしょうがない。寝台の柱を両手でつかみ、体育座り。
これで、あと4時間。がんばる。

高速バスの通路席。慣れないがこれがここの流儀。
ちなみに、マットがふわふわなので3時間ぐらいならいける。

ハノイの外郊外。窓の外にはのどかな水田が広がる。
その中をぶち抜く高速道路。運ちゃんもだんだんテンションが上がる。
次第にバスは、目の前に車がいればどんどん追い抜くようになっていった。
対面通行の区間でも、煽り、急加速し、抜いていく。
例え先の見えないカーブでも、向こうから車が来ていても。
ヒヤッヒヤしたことが何度あったことか。

そんな運転についていけない乗客は、
あちらこちらで呻き始め、その呻きは最終的にゲロゲロ…に変わる。
危機一髪とゲロゲロ…のオンパレード。自分までゲロゲロ…しないか不安になってくる。

『深夜特急』では、パキスタンで猛スピードで追い抜きをかけまくる夜行バスに常識を破られた沢木の記録がアレンジされ、本文中に収められている。
もしかしたら、私が今味わっているこの感覚こそが、沢木の感じたことそのものなのかもしれない。

激しい運転とは打って変わって、車窓は長閑そのもの。
低地民・タイ族の高床式の住居と水田の合間を、スイギュウがのんびりと歩く。
徐々に少数民族のエリアに入りつつあることを実感する。

眩暈の中のラオカイ

日が落ちるころ、高速道路がぷつりと切れ、バスはバイクの洪水の中をかきわけ始める。
試練のバスはラオカイの街に入ったのだ。
大通りをひたすら進むと、バイクの数が徐々に増え、それと同時に建物の密度も増していく。
その建物がぷつりと切れ、ぽっかりと穴が空いたような暗闇の前で降ろされた。
そこが、ラオカイ駅だった。

Ga Lao Cai.
ちょっと静か。

はじめてまともに降り立ったベトナムの街。
その第一印象が、この薄暗いラオカイ駅。
拍子抜けしたのか、安心したのか。
あまりに普通な、地味なその駅を見た瞬間、
移動疲れ、灼熱でバス待ちを耐えた疲れ、バス疲れ、
時差2時間遅れ分の眠気…
すべての疲れが堰を切ったように襲い掛かってくる。

逃げるように、予約しておいた宿の名前をバイタクの運転士に告げ、向かってもらった。
値切る余裕もなく、言い値で飛び乗った。

途中見えた河の向こうの中国の光り輝く街が、疲労と頭痛に襲われる私の頭にぎりぎり刻まれた。
いいんだ、明日じっくり見れば。街は逃げないんだ。

夜が明ければ、すべてがよく見えるようになる。
旅はまだまだ始まったばかりだ。
明日からも、たくさんの刺激がぼくを待ち受けているに違いない。
きょう眩暈に邪魔されているのも、旅の神様が何か意味を持ってしていることなんだ。

きっと。きっとね。





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