多数のツッコミが吉岡一門で、それを受けて立つのが武蔵なのである! 映画『狂武蔵』感想

YouTubeにて武道・武術関連動画を見てると、おそらくほとんど人はリコメンド欄に出てくるんじゃないかと思われる「狂武蔵たくちゃんねる」。

失礼ながら、坂口拓氏の存在はこのチャンネルを見るまで知らなかった。格闘家・矢地祐介選手とのコラボ動画によって、知った人もいるのではないか。

俳優業のみならず現代忍者とも言われる坂口氏によるゼロレンジ戦闘術や、肩甲骨を活用したウェイブパンチの理論も非常に興味深いのだが、その坂口拓氏と同時に『狂武蔵』という映画も知ったのである。



通称「一乗寺下り松」。宮本武蔵vs吉岡道場一門という、vs佐々木小次郎の「巌流島の戦い」の次に有名な宮本武蔵決闘の逸話である。史実かどうかはさておき、個対集という講談映えするような出来事の映画化だ。

歴史モノの映画やドラマを見てると必ず出てくる歴史・時代考証警察による厳しい取り締まり、「ツッコミ」を激しく受けそうな映画であるが(そもそも「これは映画なのか?」という映画警察による取り締まりもありそうだが)、この映画に於いてそのような「ツッコミ」をしていくのは無粋である。

むしろ、その「ツッコミ」を何かと理由付けて正当化させてあげるのが正しい見方なのではないか、と思うのだ。
ということで、とくに気になった部分を擁護していきたい。


取り囲んでいるだから、後ろから斬れ! 

ほとんどの観客が、最初に、そして何回もツッコむ要素である。「今、後ろから刺せただろ!」と思うことが多々あるが、そこは深く考えてはいけない。

PS4のゲーム『ゴースト・オブ・ツシマ』でも、「サムライたるもの"誉れ"を重んじで戦わなければならない」、と領主から耳にタコが出来るくらい言われる。この"誉れ"とは「正々堂々たる意義」だと解釈してるので、吉岡一門も「相手の背中に傷を負わせるなど恥。武士たるもの正面から斬りかかれ」という教えなのかもしれない。

一応、武蔵も木や壁などを背にして囲まれないように戦っていたが、いくら名うての剣豪とは言えども、10人以上から取り囲まれ、4・5人から一斉に石でも投げつけれれば、怯むに違いない。が、そんな卑怯なことは一切しない。ただひたすら刀を使って一人一人丁寧に斬りかかっていく。

まさに"誉れ"ではあるが、さすがに刀だけではなく、吉岡一門も槍術・弓術の練習しているだろうし、武蔵によるそれら対処法も見たかった。


宍戸梅軒はなぜ室内で戦ったのか!

序盤の森の戦いから後退していき、廃墟の村で戦うことになる。そこで室内戦が発生するのだが、なぜか吉岡一門とは関係がない宍戸梅軒が登場する。

宍戸梅軒と言えば、鎖鎌使いとして武蔵と戦った人物である。武蔵モノであれば必ず出てくる人気キャラの一人だ。

おそらく吉岡側が対武蔵の刺客として用意したと予想するが、何上に鎖鎌としてもっとも不利な場所、障害物がたくさんある屋内で戦ったのだろうか。

きっと武蔵を見て、一気に頭に血が上り、一刻も早くリベンジしたかったからに違いない。


さっき斬られただろ!

同じ人物がたくさん出てくるのだが、これは吉岡一門の制服と思うことにする。頭をかち割られてもいつの間にか復帰。額は割れやすく血が出やすい箇所なので、一見致命傷に見えるが、まだ戦えるだけなのだ。


こうして、吉岡一門の数のごとく、この映画には数多のツッコミポイントがあるのだが、それを一人で返していくのが武蔵ということでもある。


終盤こそ本編

終盤、雨が降る中(奥の空は晴れていたというツッコミも無粋)の一騎打ち後でも、またもや集団から取り囲まれ「まだいんのかい!」と思ったところで、物語は一気に7年後に進む。

撮影自体もそのくらいの年数が経過したようで、歳を重ね貫禄が出てきた武蔵(=坂口氏)が、ところ変わって河原で戦うことなる。

ワンカットアクション時に使用してた無難な刀から、もはや刀とは呼べない仕掛け満載の武器を駆使して戦い、より無双感が増すことになった。しかも、カメラアングルもワンカットとは異なり、多彩な角度で映像が繋がっていく。

この映画はむしろこの終盤を見せたかったんじゃないかと思えるほどで、ワンカット映像から派手なカメラアングル・演出がギャップを生み出して面白い。

「もっとこの武器での立ち回りを見させろよ!」とやや消化不良でこの映画は終わってしまうが。これも擁護すれば、想像を掻き立てる終わり方ということでもある。


感想
正直言うと、序盤の森にて5分過ぎた頃には「この展開がずっと続くのか……」と辟易としてしまったのは事実だが、戦っていく場所を上手に変えていき、体力回復ポイント(=竹筒の水)を設けたり、名乗り武士(=中ボス)が出てきたりと、まるでゲームシステムのような飽きさせない作りにはなっていた。

映画というよりも、ゲーム映像を実写化してみたというほうが正しい。実際、PS4『God of War』もカット割りが存在しないワンカットゲームで、戦闘も背面からのアングルである。

一番近いジャンルはアクション活劇映像だろうか。チャンバラシーンを一時間強のワンカットで見せていくので、『カメラを止めるな!』と同様、ドキュメントとして準備やリハーサルの段階も含めて制作過程も見たいと思った。

盛り上がるようなストーリーはとくに無く、映画として別段すっきりするような終わり方でもないし、カタルシスも感じられない。しかし、この世界観のまま、近接戦闘のプロ・坂口拓による新解釈「巌流島の戦い」(vs佐々木小次郎)を見たい。素直にそう感じた。

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